第6話
『材料はようやくそろったけれど……。
あとはこれを調合して……風とおなじ速度を得るには、高い所からとびおりればいいだろうね。検討している場所に、商店街のマンションがある。あそこの管理人、いつも夜は野球をみているから簡単に侵入できる』
(アイツ……この詐欺まがいの風霊化とやらを試したん?!
こんなの賢者(笑)だよ!)
『けれど……今までいろんな魔術を試してみたけれど、成功したのは一回だけ。果たして今回の実験も失敗すればどうなるんかのー? アニメとかなら、王子様が白馬に乗って助けにきてくれるけど』
(助けにきてくれないよ……。あなたそのまま墜落して死んじゃったよ。てか、成功した魔術て何? 教室の空気になる魔術とか?)
『まぁでも……失敗したとしても、肉体をこれ以上この世界にしばりつけておく理由もないか……。
かるはちゃんも、みさおと遊んでくれなくなったし。あんまり未練ってものがないんだよねー』
(……私の名前をださないで)
『私が唯一成功した使い魔の召喚儀式には、期限があるみたいだった……。
聖典にはくわしく書かれてなかったけれど、子供心を失った時、使い魔との契約は終了するとあった……。もう、かるはちゃんには、子供心がないんだろうね』
(ん……? なぜ使い魔に私の名前が?
もしかしてだけど、使い魔って私のことだったの? ア、成功した魔術ってそれ?!
召喚されてないけど! 一緒に立ち会っただけなのに、勝手に使い魔認定されていたの?!)
けんじゃの書を今すぐにでも破り捨てたいけれど、懸命にこらえてつづきを読む。
『もう使い魔契約が切れてしまったかるはちゃんと一緒にいることはできない……私の汚染された感情電波はかるはちゃんの人間形成を歪ませる可能性がある……。私はちがう魂に姿をかえるべきだ。「風霊化」うまくいくといいな……。友達のまわりにふく、風になりたい』
『けんじゃの書』の最後のページはそうしめくくられ、余白には兎の絵が描かれていた……。
「……え、なにそれ」
(みさお、私が相手にしなくなったから、自殺したの……?
やめてよ、そんなのひどい)
その時、窓からサラサラと風がながれこんだ。
風がやむと、ノートに文字が記入されていた。
『なんでかるはちゃんが読んでいるのよ?!』
「……!?」
(なにこれ! エンピツもないのに、勝手にノートに文字が書かれている)
ぐしゃぐしゃぐしゃ!
強烈な突風が吹き荒れ、いつのまにか、みさおの日記は赤色の太いインクで塗りつぶされていた……。
『嘘だからここにかかれている内容は全部嘘うわぁぁやだぁはずかしいよまないでぇ』
「……え、もしかして、みさおそこにいるの」
私の問いかけに対して風がうずまき、ノートには、血のような発色をした文字が刻まれていく。
『そうだよー。インクがないので血文字で書いてます。風霊化に成功したみたい。さっき地中海をみて、かえってきたの』
「成功したんかい。風になった気分はどう?」
『体が軽い! これならしばらくはダイエットには困らなくてすむよ』
「なるほどね。まぁまだ暑い時期がつづくから、アンタ私のためにしっかり風をふかしなさいよ」
『オッケー! もうビュンビュンふかしちゃうよー!』
「みさおもう風なんだからこの部屋のもの全部要らないよね? 捨てるよ?」
『ア、そんなひどい!』
「うそだよーん」
『うそかい』
「フフ。まぁ今度からは暇をみて、私がアンタのために魔術の実験してあげるわよ」
『え、本当! うれしい。いつかはかるはちゃんも、風霊化しようねっ!
魔法薬……かなりえぐい味だったけど、飲めないことはない』
「んーそれはいいや」
『えー!』
けんじゃの書 木目ソウ @mokumokulog
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