第5話

 そのノートの表紙の下部には、赤ペンで

「かんけいしゃいがい、読むことをきんずる! みるな!」

 と書かれていた。


(んー? なるほど。みさおは自分の魔術研究をこのノートに書いていたのね。女の子らしく交換日記とか、あるいは、学校の授業の内容を書けばいいのにね)


 一ページめくってみると、最初に書かれていたのは3つの数字だった。

「パスコード」

 この数字はどこかの鍵みたいだね。どれかな? あ、あれかな?

 紙物にうもれるようにようにして、子供用の宝箱が物置のすみにおかれていた。封のできるタイプだけど、鍵ではなく正面に取り付けられた、小型のキーボードで数字を入力して解錠するタイプのものだ。子供はちいさなカギなんかすぐになくすからね……。とりあえず押してみよう、330……と。

 ン?!

 

 ってこれ、330みさおってこと?!

 まぁどうでもいいや……。


 カチリっ……


 鍵の外れる音がした。


「……」


 うわっ、なにこれ……。

 宝箱には『暗黒魔術大全』という古い雑誌が入っていた。湿気のせいでパラパラになっている。裏で値段を確認してみると、千円ほどのものだった。


(たかっ)


 本の内容は……中世から現代にいたるまでの、いろいろな呪術、魔術回路や魔法陣、それから魔法薬の調合法なんかが載っている。……どれも嘘くさい。ほとんどの製法の文末にちいさく※が記され『内容の取扱いは自己責任にてお願いします。実行の際に発生した事故につきまして、当社は一切の責任を負いません』と書かれている……。


(こ、これは……)


 ……もしかしてだけど、宝箱に鍵を掛けてまで保存するって……みさお、この本の内容を信じていたの?!


(ア……使い魔を呼ぶ魔法陣についても書かれている。あの赤色ペンキの魔法陣も、この本を信じて実行したんだ)


 ウーム、みさおにとっては大事な本だったのかもだけど、これ読むよりは英単語帳開いていたほうが建設的だよね。

 私は園山 みさお著の『けんじゃの書』に目をもどす。

 次のページをめくると、


「風霊化計画」


 と大きく銘打ってあった。以下、みさおの記述。


 風霊:人体には魂が宿っているが、魂にとって人体とはひとつの檻でもある。檻にとらわれたままでは、この世はとかく生きにくい……と聖典に書いてあった! よくわかる! みさお、とっても生きづらいものね。だけど、『風解』の魔法薬を服用した後に、風と同速度の移動をおこなえば、魂を檻から分離させ、風と同化することができるみたい! これはナイスなアイデアだね。みさおは風に生きるのだ! 聖典には風解の魔法薬の調合レシピが載っていた。実験するかどうかはともかく、メモしておこう。


(『聖典』というのは、あの詐欺雑誌のことかな? それから、魔法薬のリストと銘をうち、様々な物質がならんでいた。ほとんどはドラッグストアで売っているものだけど、そのうちのひとつ、理科の授業で聞いたことのある薬品が書いてある。そういえば……理科準備室で薬品が盗まれたことがあった。

『風解』の必要素材らしいけれど、もしかしたら、みさおが盗んだの?)


 けんじゃの書のページをめくっていくと、最後の方は日記になっていた。


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