使い捨ておっぱいミサイル 後編(END)
頭に浮かぶのは、好きになったクラスメイトの――乳鳥の姿。
自分は必死に声を出すが、彼女には届かなくて、ただその後ろ姿が小さくなっていく。自分はただ、手を伸ばすことしかできずにいた。
行かないで、待って、伝えたいことがあるんだ――と。
だから更に手を遠くへ伸ばし、声を上げる。
「おっぱい!!!!!!!」
目を開けた男子――玉落は、自分の手が天井に向かって伸びている光景を目にした。つまり先ほどまでの光景は夢で、今自分は自宅の布団の中にいると気づいた。
いつのまにか目尻から流れていた涙をぬぐい、ゆっくりと身体を起こす。
カーテンの隙間から差し込む日差しが眩しく、玉落は目を細めながら寝ぼけた頭を働かせる。
――――失恋した。
なんか変な会話がいろいろあった気がするが、結果を見れば失恋だ。
クラスメイトの乳鳥を校舎裏へ呼び出し、告白した。すると彼女は――
『私のおっぱいはミサイル。そして使い捨てなんだ』
――と、そんな事実を告白した。
おっぱいこそが魅力だと語った玉落へ、使ってしまったら魅力が無くなるんだと言い捨て、乳鳥はその場を立ち去った。
「ってか、おっぱいがミサイルってなんだよ!! 乳鳥さんだけだよね!? 実は全女子はおっぱいがミサイルだったりするのか!!?? そうなのか!!???」
※違います。……えっ違うよね?
玉落は布団を殴りつけて、声を荒らげる。
「ってか有事の事態にミサイルを使うって言ってたよね!? 有事の事態って何だよ! この平和な街にそんな危機が起こるなら見せてくれよ!!」
「きゃあああああっっ!!」
窓の外から女性の叫び声。
「がおーぅ」
あと怪獣の鳴き声的なもの。
「……」
玉落は部屋のカーテンを開け、窓の外を眺める。
そこには平和だったはずの街を、某ゴ〇ラ的な怪獣が破壊しつくしている光景が広がっていた。
「………………有事の事態、起きちゃったよ」
〇〇〇
玉落は崩壊した街中を駆けた。瓦礫の隙間を縫い、時には乗り越え、なるべく最短で怪獣の元へたどり着けるように、と。
「これは間違いなく有事の事態。なら、きっと彼女も――」
失恋した翌日にして、既に乳鳥の姿を想っていた。
この広い街中、会える保証はない。ここに来る保証があるわけでもない。ただ推測と予感と、そして乳鳥に会いたいという希望を胸に玉落は走る。
「玉落くん!?」
運命のいたずらか、乳鳥もまた瓦礫の街並みを駆けていた。会えるか不安だった中で、乳鳥の姿を見つけた玉落の顔に自然と笑みが浮かぶ。
「おっぱい!(挨拶」
「ばいばい」
「待って違う!!!」
玉落は視線を乳鳥のおっぱいに向け、本当に聞きたい疑問を口にする。
「そのおっぱ――もといミサイル、使うつもり?」
「……うん、そうだよ」
乳鳥はゆっくりと深く頷いた。
二人は改めて怪獣へ目を向けた。
「がおぉう」
この世の終わりを思わせるような光景が広がっている。昨日まで平和だったはずのこの街は、あらゆるところで家々が崩れ、各地から火柱が上がり、空は暗雲に覆われていた。
「がおがお」
その中心で鳴き声をあげるのは、某ゴ〇ラを思わせる巨大な怪獣。その巨躯は、その見た目は人類が滅亡を予感するには十分な存在感を持っていた。
「そう、これがきっと有事の事態。私とこの兵器を造った研究所が想定する……人類の危機――」
「人類の……危機」
玉落もまた、これがその言葉に値する程の事だとは理解できた。理解するほかなかった。
「ねえ、これから私はあの怪獣を倒すよ。全部終わったその時、君が魅力に感じてくれたおっぱいは……もうそこにはない」
乳鳥は見せつけるようにおっぱいを下から持ち上げてみせる。たわわに実ったおっぱいが、玉落にはまるで別れを告げているように見えた。
「玉落くん。よかったら……さ。おっぱいが無くなったあとにも――」
何かをいいかけた乳鳥は、口をつぐんで首を振る。
「ううん、なんでもない」
乳鳥は玉落に背を向け、怪獣を見据える。
玉落は、その姿から目が離せずにいた。没個性のブレザー。強風で揺れるスカート、靡く髪。相変わらず香ってくる●●社のトリートメントの匂い。
彼女を――乳鳥という兵器を構成するそのすべてが、玉落には美しく見えた。
乳鳥は怪獣に向かって歩き出す。
だんだんとその後ろ姿が小さくなっていく。
その光景が昨日の放課後の光景と、
今朝みた夢での光景と、玉落の瞳の奥で重なった。
「待って!」
気づいた時、玉落は乳鳥へ向かって駆け出していた。
追いついた玉落は乳鳥のその手を掴んだ。
「何!? 今はそんな悠長にしている時間ないんだよ!!」
「俺の、告白を聞いてくれ」
「告白!? 告白ならもう昨日聞いた――」
「聞いてくれ」
玉落は乳鳥の口を指で押さえ、その事実を告白する。
「俺のキンタマは爆弾だ」
「??????????????????????」
「俺があいつを倒すよ」
玉落は乳鳥の前へ歩み出て、怪獣を見据える。
「――っすぅ~……ちょっとまって、理解が追いつかないんだけど」
「今はそんな悠長にしている時間はない」
「うわなんかムカつく……じゃなくて、キン……タマ(小声)が爆弾ってどういうこと!?」
「そのままの意味さ。俺のキンタマは爆弾――あの怪獣を倒せるほどの兵器だ。こんな有事の事態に対応するために実装された兵器なんだ」
「……」
乳鳥には返す言葉が浮かばなかった。それもそのはず、その告白へ理解できないはずがない。まるで当事者であるかのように、理解するほかなかった。
「でも、それだと玉落くんの大事なキン……えっと。こ、睾丸が無くなっちゃうんだよ!?」
「構わない!!」
玉落は叫び、自らのキンタマをわしづかみにした。
「俺がキンタマを失った時、君が戦わずに済んだのなら、それこそが俺のキンタマの役目なんだ!!」
「玉落くん……」
「俺が好きになった乳鳥さんは、確かにおっぱいが魅力だ。だけど、おっぱいが無くたって俺は君を好きになる自信がある!!」
キンタマを握る力をさらに強め、引っ張る。
「だけど、俺は――」
ぶちぶちと音を立てながら身体から離れていくキンタマ。
「――おっぱいがある君がいい!!!!」
玉落は自分のきんたまを容赦なく千切り、怪獣に投げた。
そのキンタマは空中で弧を描き、怪獣に当たると激しい爆音と爆風を伴って
――――爆ぜた。
〇〇〇
危機は去った。
怪獣が暴れ、その怪獣を倒す程の爆発が起きてもなお死傷者は0人だったらしい。
それでも平和だった街並みは瓦礫の山へと姿を変えてしまった。
瓦礫の街並みの中、キンタマを失った玉落は乳鳥に肩を貸してもらいながら帰路へついていた。
二人はしばらく無言で歩くだけだった。
(ふへへ)
その中で、玉落は頭の中で不敵な笑みをこぼしていた。
(さっきの告白きまってただろ!! 『俺は君を好きになる自信がある(きりっ!』 なんて最高の告白だと思わんかね!!??)
「ふへっ、ふへへへ」
「なにその気持ち悪い笑い方」
「やべっ、声に出てた」
久しぶりに沈黙が破られた後、不意に乳鳥は足を止めると玉落へ向き直った。
二人は向かい合っていた。それはまるで校舎裏で向かい合った昨日を思わせる光景だった。
玉落はその記憶から、どうしても告白というものを連想せずにはいられなかった。
やがて乳鳥は口を開き、ある事実を口にする。
「私たち、同じ研究所出身だったんだね」
「……え、そうなの?」
「あれ、知らなかったの? あの兵器の特徴からしてまず間違いないと思うよ」
「ほえぇ、そうだったのかぁ」
玉落は聞かされたその事実に驚きを隠せずにいた。
しかし、それよりも驚愕の事実を乳鳥は淡々と告げる。
「戸籍上は兄弟になるから結婚できないね」
「…………………………………………ふぇっ?」
その事実を聞いた玉落は、石化して固まった。
「この国の法律だと、二親等は結婚できないからね。仕方ないね」
※二親等は兄弟姉妹・祖父母といった親族。
「ソウダネ(´・ω・`)」
淡々と告げられる事実に、玉落は灰になるような感覚に陥った。
すると、そんな玉落を乳鳥は後ろから抱きしめた。
「悔しいね」
背中に当たる柔らかい感触を、玉落は確かに感じていた――乳鳥のおっぱい、その感触を。
このおっぱいがミサイルだと聞いて、一度は硬いのかと疑ったこともあった。しかし今わかった。ミサイルだというそのおっぱいは、とてもとても……柔らかかった。
「兄弟じゃなくて、ただのクラスメイトだったら恋人になって、将来結婚もできたのにね」
その言葉に、玉落の理性は限界を迎えた。
「大丈夫! どうにかなる!! 俺がどうにかしてみせる!!!」
玉落は乳鳥へと向き直る。
「絶対に俺は君と……結婚するんだ――っっ!!」
そして、乳鳥を正面から強く抱きしめた。
「ち、ちょっと玉落くん! そんな強く抱きしめたら――あっ」
「え?」
カチッ――と音を聞いた刹那、今日一番の爆発がこの場で起きた。
爆発により二人は空高く打ち上げられ、お星様となった。
「「爆発オチなんてさいてー!!」」
※死傷者は0です。
結局玉落がキンタマを犠牲にしてまで守り抜いた乳鳥のおっぱいは爆発し、失ってしまった。おっぱいミサイルを失った乳鳥を見て、玉落が新たな性癖を獲得するのはまた別のお話――――――
~Fin~
使い捨ておっぱいミサイル ☆えなもん☆ @ENA_MON
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