report.?:また明日。

「助手くん。君は死ぬ時に今日という日を思い出せると思うかい?」


「急にどうした、という顔をしているな……まぁいい。私は多分、死ぬ時に今日の出来事を思い出すのは無理だと思うんだ。なにせ、別に今日は特別な施術を行ったわけでもないし、同じような日々を何度も過ごしてきた。」


「もちろんこれまでの日々で、全く同じ日など一度もない。ただ、似たような日が多いほどそれぞれの詳細は曖昧となり、記憶というのは年月の経過とともに薄れゆくものだ。」


「子ども頃に何度も読んだ絵本の、最後のページの一文が、いまは殆ど思い出せないように。今日という日はいずれ記憶の彼方に置いてかれて、忘れられていくんだと思う。死ぬ時と言わず、それこそ数年後にはね。」


「だから私は、施術の度にレポートを残すようにしている。その日に行った施術の内容や、助手くんの感想、それと、いつもと少し違う何かがあれば、それも少しだけ記載してる。」


「正直こんなものを書き残すことに、あまり意味はないんだ。詳細なデータは別に取ってあるし、そっちを見たほうが手っ取り早い。レポートは書く労力に比べて、それが役に立つことは殆どない。」


「それでも私がレポートを書き続けるのは……記録として残しておくためだ。記憶から消えてしまっても、記録から思い返すことは出来るからな。特別なことが何もなかった日でも、このレポートを読み返せば、日常の小さな出来事を、そんなこともあったなと懐かしむことが出来る。」


「最も、懐かしむ事自体に意味があるのかと言われると、何とも言えないが……なんとなく、最近はそれでもいいと思っているんだ。」


「いずれ忘れられる今日という日も、レポートを書き続けることも、全てが無為なものなのかもしれない。ただそういう無為なものこそ……なんだろうな。すまない。こういうのは、言葉で表現するには足りないものが多すぎるかもしれない。」


「とにかく……君との日々は私にとって、とても大切なものなんだ。私はそれを大事にしたい。これまでも、そしてこれからも、だ。」


「……顔が赤い、照れてるのかって? んぅ~~、話は終わりだ。時間も遅いし……ほら、夕焼けが部屋を照らしてる。顔が赤く見えたのも錯覚だろう。施術も終わったし、今日はこれで解散としようじゃないか。」


「……今日も一日、お疲れ様。また明日も、よろしく頼むよ、助手くん。」

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癒し研究者(自称)の先輩の実験体になる話 むらくも3 @GoodGreenGreed

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