第8話 思い出の恋人たち
(ザザ……ザザ……というノイズ。ヴァイオリンの演奏)
私が棚にしまわれていた時……。恋人同士と呼ばれる関係の人達を見たことがあったのです……。あれは……雨の日でした……。雨も分かります……。魂を持ってからですが……長い間窓から風景を見ていると……天候というものは大体理解できました……雹が分かったのもそのせいです……。
(ザザ…というという雑音、次第にサァッという雨音に変わるヴァイオリンの音徐々に消えていく)
一つの傘を二人で共有して、その恋人たちの男女は歩いてきました……。傘を閉じてお店に入ると……微笑んだ顔を時々見合わせて店内を歩いていました……。私の棚の前にも来ました……。紫のガラスの猫と陶器のレモンの置物には気が付いたようですが……値段が高いねと感想を言っていました……。私には気が付かないようでした……。隣の棚の前に移った時、男性が女性に……並べられていた指輪を選んだのです……。その指輪は私より……少し新しく作られた物でした……。その時の二人の幸せそうな表情が……忘れられません……。私はそれ以来……夢見るようになりました……。私は人間でなくレコードなのですから……私自身を差し上げたい……。それであのように幸せな表情をしてくれる男性と出会いたいと……。
(雨音は再びレコードのノイズ音に戻る。ヴァイオリンの音も再び戻る)
貴方は……私を見て……私の音楽を聴いて……幸せですか……。もしそうなら……微笑んでくださいませんか……。私にとってその瞬間は……存在の全てなのです……。
(ノイズ音続くが音量小さくなる。それに反比例してヴァイオリン演奏の音量上がる)
嬉しい……。笑ってくださったのですね……。今まで戸惑った表情をしていらしたから……。それが少し心配でした……。貴方の笑顔は……とても素敵です……。貴方のその表情を見ていると……レモネード色の朝日を見たのと同じような気分に私はなります……。これが……幸せというものなのでしょうか……。嬉しい……。私は貴方の笑顔のおかげで……また一つ学べました……。幸せという感情を……。どうしました? またお顔が赤くなっています……。また暑いのですか……。貴方は私といる時、赤くなることが多い……。私のせい?心配です……。私ばかり貴方のおかげで幸せになってしまって……。私も貴方を幸せにしたいのに……。私はどうすれば……貴方を幸せにできますか……。教えてください……。それが私の存在理由の全てなのです……。
(ザザ…というノイズ音やや大きくなる。ヴァイオリンの音、遠くに聞こえる)
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