第7話 新たな香りを知る

 これがコロン……。香りの元なのですね……。この香りは、オレンジの香りとは違う……。レモンの香りでもない……。なんの香りでしょう……。花の香り……。花は分かります……。お店にも時々飾ってありましたから……。このお家のどこかにも咲いている気配がします……。このコロンの香りは……どんな種類の花を表現しているのでしょうか……。忘れてしまった?そうですか……。どうしましたか?少し……悲しそうな顔をなさったように見えましたが……。


(ヴァイオリンの音色、大きくなる。雑音も微かに聞こえる)


なぜ……悲しそうな表情をなさったのでしょう……。理由を、知りたいです……。もしよろしければですが……。このコロンの花の香りは……昔好きだった方の香り……そうなのですか……。この家で一……緒に暮らしていらしたのですか?そうではない……。貴方はその方を好きでも……その方は他の人が好きだった……。でも貴方は思いを消せなくて……。このコロンを買ったのもその頃と……。何故……。このコロンの香りが、好きだった方の好きな花だったから……。付けるとその女性を身近に感じられたから……。分かります……。その気持ち……。私も貴方をもっと身近に感じたいから……。一つの部屋の中……こんなに近くにいて……それでももっと近づきたいです……。私にとってはオレンジの香り……。このコロンは……。どんな花の香りでしょう……。バラ?バラの香りなのですか……。本当は覚えていらしたのですね……。いいんです……。謝らないでください……。


(ヴァイオリンの演奏、高音部がやや大きく聴こえる。ノイズも小さく聴こえる)


貴方が好きだった方の好きだった香りを知りたい……。私に教えてください……。私がその香りを付けたら……嬉しいでしょうか?嬉しいのでしたら……そうしてください……。いいのですか?私が体に漂わせる香りは……貴方と同じオレンジの香りが良いと……。嬉しい……そんなに嬉しいことを言ってくださるのですね……。でも、貴方の思い出の香りを知りたくもあります……。そのコロンの香りを感じさせてくださいませんか……。体につけなくても……香りを知ることはできますよね……。部屋に吹いてみてくださいませんか……。


(ヴァイオリンの音、やや小さくなる。ノイズも小さく続く。スプレーを押すシュッシュという音)


これがバラの香り……。花の香りも美しいですね……。こんなに美しい香りを持つ花を好きだった女性を好きだった貴方は……なんて素敵な方でしょう……。


(ヴァイオリンの音やや大きくなる。ザザ……という雑音小さいながら入る)


どうしました?私の顔を……まじまじと見てる……。不思議?何がでしょう……。私が恋の意味を知っているのが不思議なのですか?それは……古道具屋に居た時に恋人同士を見たことがあったからです……。

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