第3話 人の温もり
(ザザ……ザザ……ヴァイオリンの演奏が聴こえてくる)
……私の中のこの演奏を聴いて、どんな感想を持ちましたか?温かみがある……そうですか……。お湯のような温かさ?……え、違う……人間の温かみなのですか……。それは……体温を感じる演奏ということですか?体温……体温……体温とはどんなものなのでしょう……。私はよく分かりません……長い間、棚にいましたから……。
(ザザ……一瞬ヴァイオリンの音がやや大きくなりすぐに小さくなる)
……人の温かさ……貴方が私をレコードプレーヤーに置く時、確かに温かかった……でもほんの数十秒……貴方の手を……今また、触れさせていただけますか……私も今のこの姿なら……手を握り返せます……。
(ザザザ……ヴァイオリンの演奏、はっきりと聴こえる。アリアがビロードの服の袖をまくる音)
なぜ……袖をまくるのかって?……せっかくなので手のひらだけでなく手首も触れて欲しいから……。
(皮膚をさする音。……とぎれとぎれにヴァイオリンの音。ザザ……という雑音)
温かい……これが人の温もり……。貴方の手のひらはとても滑らかですね……。どうしました?お顔が赤いですね……。お顔も温かいのですか……?貴方のお顔にも……触れさせてください……。
(アリアの衣擦れの音。ヴァイオリンの音とザザ……という雑音)
ぽおっとした感じがします……。一人の人間の温もりにも……色々な種類があるのですね……。え?温かいより暑い?……顔が熱くて喉が渇く?それは……どんな事なのでしょう……。教えて……くださいませんか?
(ヴァイオリンの音と雑音に混じってやや大きい椅子を引く音)
どちらへ……行かれます?飲み物を……持ってくる……。私の分も……いただける……。嬉しい……ありがとうございます……。
(ヴァイオリン演奏とレコードの雑音に交じってそっとドアを閉める音)
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