第60話 その頃のA国 2

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#A国 ウィリアム


 しばらく歩くと、川が見えてきた。

 少し離れたところから、観察すると透き通るような水であり、日光を反射してきらきら輝いていた。


 「きれいな水ですね。避暑地として開拓できれば、大人気間違いなしです!」


 ライラが横でつぶやいているが、確かに一般公開出来たら儲かりそうだ。

 そんなことを妄想していると、川に一体のイノシシのようなモンスターが現れた。


 「ウィリアム、あれがモンスターか!?そうなんだろ?」


 ディーンが興奮したように、聞いてくる。

 落ち着かせないと、今にも飛び出してしまいそうだ。


 「あれがモンスターかは分からない。私も見たことが無いんだ。脅威度も分からないから、迂闊に手を出すなよ。これは命令だ。」


 ディーンは不満を隠せなくなったのか、命令に反論をしてきた。


 「だけど、ウィリアム。相手は単独だ。しかも体格もイノシシを少し大きくした程度。ここでビビッて、後でどうしようもない相手にぶつかるリスクを考えたら、比較的安全に仕掛けられるこの状況を逃す手はないと思うぜ。」


 確かに、それも一理あった。

 Kの説明が正しければ、LVが2になると確定でスキルが獲得できるらしい。


 スキルの有用性はこの身で実感している。

 スキルなしの彼らでは、もしオーククラスのモンスターが出てきてしまった場合にかなりの苦戦を強いられてしまうだろう。


 「確かに、それも一理あるな。だが、初見の相手に全員でかかるのはリスクが高すぎる。アッシュ、クリードはあのモンスターを仕留めてくれ。ライラはそのサポート。他は、周囲の警戒とバックアップとする。」


 「おい、なんで俺が入ってないんだ。ふざけてんのか!?」


 「ディーン、これは遊びじゃないんだ。今の興奮状態のお前では班の他のメンバーに重大な危険を与える可能性がある。だから、次の機会まで一度待て。」


 そう言うと、ディーンは渋々引き下がる。

 もとは優秀な奴なので、退くべき場所はわきまえている。


 そして、初戦闘が始まった。

 まずは、サイレンサーを装着した銃でアッシュが攻撃をする。

 だが、あまり効果はないようで、イノシシのモンスターはアッシュに向かって突進してきた。


 「銃の効果は低い。近接戦闘に切り替える。」


 アッシュは素早い判断でナイフに持ち替えて、モンスターを引き付けて、その突進をうまく躱した。


 モンスターが突進を避けられて方向転換をしようとする隙に、クリードが足に向けて、銃を連射する。

 足を撃たれたモンスターは上手く動けなくなったようで明らかに精彩をかいていた。


 そうして、アッシュとクリードで互いをカバーしつつ、無傷で勝利を収めた。


 「私の出番がなかった・・」


 ライラは、戦闘に参加できずガッカリしていたが、安全が一番である。

 この戦闘で、止めを刺したアッシュがLV2となり、スキル「短剣術」を覚えたようだ。 


 こうして、初勝利に一安心していると、周囲を警戒していたメイベルから、オオカミのようなモンスターが数匹こちらに接近していると報告があった。


 「全員、集まれ!オオカミのようなモンスター、呼称ウルフがこちらに接近中。逃げ切ることは難しいため、ここで迎え撃つ。私とメリベル、ライラとディーン、アッシュとクリードでペアを組みつつ、応戦しろ!!」


 まだまだ、安心には早かったようだと気を引き締め、迫りくるモンスターを待った。


 「数は三!」


 やはり、ステータスの恩恵なのだろうか。

 ライラが、最も早くモンスターの姿を捉えて、数を報告する。

 

 「全員聞いたな!都合よく相手は三体らしい。それぞれのペアで一体ずつ仕留める簡単な仕事だ。抜かるなよ!オープンコンバット!!」


 ウルフ達はこちらが万全な状態で待っていたのが予想外だったのか、一瞬戸惑ったように立ち止まった。

 その隙を見逃さず、スキル持ちの三人が一気に駆け寄る。


 私はMPの消費を避けるためナイフを用いて、ウルフの胴体を切りつける。

 ウルフは反応できずにあっさりと切られ、その身を横たえることになった。


 拍子抜けの結果に、他のペアをみると、ライラはすでに倒してしまったようで、ディーンに文句を言われて、平謝りしていた。


 アッシュの方は流石にレンジャーだけはあり、得たばかりのスキルをうまく活用して、ウルフを押さえつけて拘束することに成功していた。

 クリードが、止めをさすようなので、こちらもメイベルにウルフに止めをさせてもらう。


 メイベルは命を助ける仕事であるため、モンスターとはいえ辛そうな表情ではあったが、任務を完遂してくれた。


 こうして、ディーン以外がLV2となり、それぞれスキルを獲得した。

 クリードが「投擲」というMPを消費することで、投擲の命中力と威力をあげるスキル、メイベルが「手当」という回復スキルだった。


 「おい、ライラ。なんで倒しちまったんだよ・・。俺だけ・・」


 さっきまで怒っていたのだが、段々悲しくなって来たらしく、ディーンがしょんぼりしている。

 なんだか、可愛そうになってくるが、こればっかりはしょうがない。

 ライラも相手の強さが不明な状態なのだから、きちんと攻撃しないと要らぬ反撃を受ける可能性もあった。

 ディーンもそのことを理解しているので、余計やるせないのだろう。


 「ディーン。そう落ち込むな。イノシシのそうだなボアにするか、ボアとウルフについては、力量はわかった。次現れたらちゃんとお前に倒させる。」


 そう言って、何とか立ち直らせると、私たちは一度キャンプに帰ることにした。

 その道中に再度ボアと出会い、実にあっさりとディーンがLVアップできたので、本人は大喜びだった。

 ちなみにスキルは「炎刃」というMPを消費して、炎の刃を生み出すスキルだった。


 こうして、それぞれがスキルを獲得でき、戦力も整ってきた。


 「二日目の探索はここまでとする。各自、休憩とローテーション通り見張りを頼む。では解散。」


 「今のところは順調で良かった。このまま、無事に終わってほしいものだ。」

 

 私は、現状が上手くいっていることに胸をなでおろす。

 前回のオークやライラが戦ったリザードマンが大挙して押し寄せてくる。

 そんな、最悪な状況を想像さえしていたため、何とか対処できている幸運に感謝した。


 「ウィリアム。少しいいですか?」


 「どうした、ライラ。私は構わない。」


 ライラが話しかけてきたので、快く応じる。


 「ありがとう。さっきの戦いでは、全力が出せなくて、消化不良なんだよね。ちょっと模擬戦とかしない?」


 あほの子なのか?

 私は、ライラが思ったより戦闘狂であった事実に頭を抱えつつ、諫めるように話す。


 「ライラ、冗談もほどほどにしろ。模擬戦なんてできるわけないだろう。そんなことに使用する体力も、発生する音などのリスクも計り知れない。」


 「やっぱり、ダメか~。残念。」


 残念、ではないのだが・・。


 「明日も探索はする。その時に、有り余った力をみせてくれ。」


 そう言うと、ライラは「は~い」といってテントに戻った。

 戦闘センス、そして能力も申し分ないのだが、あの性格はもう少し大人しくならないのものか。

 父親のような気分になりながら(私はまだギリギリ二十代である)、二日目の夜を過ごした。


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