第51話 Day3 神と龍の宴

 「鬼ごっこの次は、かくれんぼか。」

 

 何とか、漁夫の利作戦は成功したが、ボスモンスター同士の戦いは想像より遥かに激しく、巻き込まれないようにあちこちの木々や岩に隠れる。


 だが、戦闘の余波、特に龍亀が口から発する水のレーザーのようなスキルがやばすぎる。

 木々に当たれば、簡単になぎ倒し、岩に当たれば、粉々か穴が開く。

 そのため、ほとんど身動きが取れないまま、戦いの近くで必死に身を隠すことしか出来ない。


 そんな私をよそに、戦いは更に激しさを増していた。


 猿神はその恵まれた身体能力でレーザーを避けて近づき、スキルの輝きがある拳を叩きつける。

 だが、龍亀の甲羅もかなりの耐久力をほこるようで、傍目にはあの拳を受けても、傷が無いように見える。


 それでも、龍亀は近くに猿神がいることを嫌がるように足で地面を叩いた。

 すると、地面から岩の突起が複数飛び出し、猿神の腹部に何本か刺さる。


 猿神は突然の腹の痛みに、声をあげて大きく飛びのく。


 「あの亀、岩も操れるのか。多彩だな。というか、ボスモンスターはどいつもこいつも強すぎるだろう。倒させる気が無さすぎる。」


 私の愚痴も許してほしい。

 猿神のパワー、機動力、そしてずるがしこさ、これらのヤバさは体で理解しているので、今さら言うことはない。


 だが、新たなボスモンスターである、龍亀はまた違った理由でヤバい。

 猿神のスキル付きの拳でも耐える甲羅に、貫通力が高すぎる水のレーザー、地面から形成することができる岩の槍、耐久力と攻撃の多彩さ、範囲が桁違いだ。


 そうこうしているうちに、龍亀の攻撃がこちらに飛んできた。

 狙っているわけではなさそうだが、とばっちりがこちらに飛んできて、ヒヤヒヤが止まらない。




 そうして、戦いは三十分近く続いていた。

 猿神はかなりの傷を負っているが、龍亀の方は傍目には傷が少ないため、龍亀の方が有利に見える。

 だが双方、攻撃の威力は落ちておらず、今戦っても、私が勝つことはできないだろう。


 「こんなのに、まともに勝とうとしていたのか。流石に笑えない。」


 この二体に勝つには、どれだけのLVとスキルがいるのか。

 二日目に猿神に挑んで生きていられたのは、猿神が遊んでいたからなのだと、まさに薄氷の上での戦いだったと思い知る。


 「まだ私も、そして人類もモンスターに対して弱すぎる。LVやスキルを整える必要もあるし、そもそも戦える絶対数が足りない。」


 こうなると、Iランクとはいえ、インスタントダンジョンができてしまうことが確定した国は、大丈夫なのだろうか。

 一週間以内のクリアという条件は、かなり厳しいのではと考えていると、戦いに動きがあった。


 猿神が水のレーザーをまともに食らったようで、腹部から大量の血を流している。


 このまま、龍亀が勝ってくれれば、と思う。

 縄張りから出てしまえさえすれば、龍亀は追ってこない想定のため、今回のゲーム最大の問題である、「ボスモンスターに襲撃され続ける」は解消できる。


 だが、やはりそう簡単にはいかないらしい。


 猿神の体から、湯気のようなものが出ている。

 何かのスキルだろうかと思ったら、猿神の姿が搔き消えたように見えた。

 そして猿神は、龍亀の背後に素早く回り込み、拳を叩き込む。


 「なんだ、あの速さは。」


 ここにきて、更なる身体能力強化系のスキルのようだった。


 猿神のスキルにより、何度も攻撃を受けて細かいヒビが入っていた甲羅に大きなヒビができたと思ったら、ついに一部が割れて剥がれてしまった。

 剥がれた甲羅の個所に、猿神の連撃が浴びせられる。


 龍亀は痛みを感じているのか、声を上げながら、レーザーを連発し、岩を周囲に形成して、猿神を引きはがそうとする。


 流石の猿神も、これには一時撤退し、再び二体の間に距離ができた。


 両者ともに、最初の元気はない。

 そろそろ決着の時は近いのか?

 だが、そんな予想はまたしても裏切られた。

 

 「おいおい。なんだあれは。水のキューブ?」


 龍亀の上部に巨大な水のキューブができていた。

 その形はルービックキューブを思わせるような六面体であり、龍亀のスキルなのだろうと思う。


 「あのキューブが龍亀の切り札なのか。何枚手札を持ってるんだ!?」


 私が驚きのあまり、開いた口が閉じられない。


 そんな時、猿神が動いた。

 猿神は、自分の脅威になるかもしれない水のキューブが効力を発揮する前に、決着をつける算段なのかもしれない。


 猿神も限界が近いのか、最初よりも幾分動きが遅くなったが、それでもかなりのスピードで龍亀に迫る。


 猿神の接近を見て、龍亀のキューブが鳴動した。

 すると、龍亀のキューブから水のレーザが縦横無尽に何本も発射され、猿神に迫る。


 「複数本のレーザー!?あんなもの避けられるわけがない。」


 私の予想通り、猿神のスピードをもってしても避けきることはできず、一本、また一本とレーザーに捉えられ、猿神の体に傷が増える。

 そして、十数秒後にキューブの水がなくなり、レーザーが止まった頃には、猿神の体にはいくつもの穴が開いていた。


 これは決着がついたな。

 猿神のあの傷は、最早助からないだろう。


 私は、龍亀の勝利は間近とみて、龍亀に見つからないようにこの場から逃げ出す用意をしたが、もう何度目かもわからない驚愕の事態を目の当たりにした。


 猿神の体が光り輝くと、傷が回復したではないか。

 流石に全ての傷ではないが、確実な致命傷と思われていたものがいくつか治っているように見える。


 「いや、あの傷を回復できるのかよ。いくら何でもチートすぎる。」


 限界ギリギリまで温存していたようなので、恐らく猿神にとっても気軽に使えるスキルではないのだろうが、それでも驚異的すぎる。


 龍亀も、猿神の傷の回復には流石に脅威を感じたのか、再度、先ほどの水のキューブを形成しようとしているようだが、水の集まりが悪い。


 なぜ?と思ったとき、龍亀の位置が戦闘開始時の湖の近くから、大分離れたところに移動させられていることに気づいた。

 

 「まさか、猿神は最初から、湖から龍亀を離すことを狙っていたのか。」


 龍亀の力の源は「水」、そう見抜いた猿神は湖から引き離すことにしていたのだろうか。

 猿神の賢さには、私も散々苦しめられたが、この観察力には、素直に称賛してしまいそうになる。


 水から離された龍亀は、明らかに攻撃の精彩さに欠いており、その隙に猿神の攻撃にさらされて傷を増やしていた。


 だが、キューブを形成できなくなっても、水のレーザと岩の攻撃はできるため、龍亀も必死に反撃する。


 そうして、お互いの最後の力を振り絞った戦いは、遂に終止符が打たれることとなった。


 龍亀のスキルのインターバルが長くなっており、スキルの合間に隙ができていた。 

 猿神がその隙を見逃すわけはなく、 猿神の放った右の拳が、龍亀に突き刺さる。


 龍亀の目から光が消え、その巨体が地に沈んだ。


 「勝敗を分けた理由は、得意なフィールドにいたかどうかか。龍亀には地上に出てきてもらう必要があったとはいえ、少し悪い気もするが仕方がない。」


 猿神が勝利した以上、逃げるわけにもいかなくなった私は、龍亀への少しの詫びをしつつ、猿神と対峙する。

 

 猿神をみると、満身創痍という言葉をそのまま表したような格好である。

 体は傷だらけであり、特に腹部の傷は深く、先ほどの回復スキルでも治りきっていない。


 猿神はこちらを見つけると、満身創痍であっても笑っている。

 龍亀の時は笑っていなかったことを見ると、やはり今の状態でも、私を倒すことは容易だと考えているのだろう。


 確かに、先ほどの戦いから分からされたが、まともにスキルを使用された時点で、こちらの負けは必至。


 それでも、見切りスキルで大分動きは観察できているので、猿神が思うほどに分は悪くないと想定している。

 

 「猿神、今度こそ決着をつけよう。本当は、龍亀が勝つ方が良かったのだけどな。」


 龍亀が勝つ方が良かった。

 この言葉に偽りはない。

 それでも、心のどこかで、猿神とは直接決着を付けたい。

 そう思っている自分がいることも事実。


 猿神との、決着の時は近い。


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