第49話 Day3 戦闘開始

 「なぜか、隠れてしまった。」


 二人に普通に話しかけようとしたのだが、何か深刻そうだったので、つい隠れて聞き耳を立ててしまう。


 いや、はっきり言おう。

 ものすごく気になっただけである。

 罪悪感はあるが、それよりも多大な興味が勝ち、彼らが話すのをドキドキしながら見守った。


#ここから、第三者視点になります。

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#上木


 俺は今、榊原と向かい合っている。

 今から伝えることを考えると、心臓の音がうるさくなるが、それでも伝えないわけにはいかない。


 猿神戦で、俺は死にかけた。

 加賀見さんのポーションがなければ、確実に命を落としていただろう。

 それほどの傷を負っていた感覚はあった。


 死にかけてた時に思ったのは、榊原の無事だった。


 榊原とは、訓練自体からの同期で最初は喧嘩ばかりしていたが、いつの間にか気は合ったのか、よくつるむようになっていた。

 訓練卒業後も同じ部隊に配属され、優秀だが融通が利かない彼女と、同じく優秀だが、猪突猛進の俺のコンビは良く問題を起こしていたなと思う。

 それでも大事な仲間だと認識していたが、どうやらそれは違ったらしい。


 俺は榊原を仲間だけではなく、女性として大事に想っていた。

 そのことを自覚してしまうと、この気持ちを抑えきれず、気づいたら彼女を呼び出してしまった。


 気持ちを伝えようと思ったが、中々言葉が出てこない。

 そもそも、こんな戦いの前に気持ちを伝えるのは迷惑千万だろう。

 そんな思考に支配されてしまい、やはり止めようと思ったとき、榊原が先に話始めた。


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#榊原


 私は、上木という腐れ縁の同僚に呼び出されて、ここにいる。

 こいつは、私の気持ちも知らずに、あっちこっちに引っ張りまわす厄介な男だ。

 いつもいつも、何でこいつの猪突猛進をカバーしてやっているのか、その前しか見てない視線をこちらに向けて考えてほしいものである。


 今日もこれから大きな戦いが、もしかしたら別れすらもあるかもしれないのに、準備もそこそこにこんなところに呼び出された。 

 だというのに、一向に話が始まらない。


 なんかモジモジしていて、ちょっと気持ち悪いなと思ったので、こちらから声をかけることにする。

 

 「ねえ。話が無いなら、戻るよ。あんまり時間かけると、他のメンバーにも心配かけると思うし。」


 すると、上木は焦った様子で「待ってくれ。今話す」と言ってきた。

 だが、口がパクパクするばかりで言葉が出てきていない。


 「はあ。いつものあんたらしくないわね。猪突猛進って感じなのがあんたでしょう。上木。」


 もういいか。

 そう思い背を向けると、いきなり上木が肩を掴んであちらに振り向かされた。

 その動きに、投げ飛ばしてやろうかと思ったが、その後の言葉に私の思考は停止した。


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#上木

 

 榊原が、俺に呆れて背を向けてしまう。

 その姿を見た俺は、無意識的に彼女の肩をつかみ、振り向かさせる。


 最初は驚いていたが、その目に怒りの火を見た俺は、もうなりふり構わず思いを告げる。


 「榊原。俺はお前を愛してる。結婚してくれ。」


 榊原が固まった。

 そして、俺も固まった。

 あれ?俺、「好きだ」位の言葉を発するつもりだったんだけど、なんか凄いこと言った気がする。


 慌てて、言葉を訂正しようとしたが、その後の榊原の回答に再度固まった。


 「はい。」


 ん?っていったのだろうか。

 彼女を見ると、顔を真っ赤にしながらも、嫌がっているようには見えない。

 もう一度、本気かと聞くと、彼女は確かに頷いてくれた。


 その意味を理解した俺は、天に向かって拳を突き上げた。



#ここから、元の視点になります

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 「ラブコメしてる」


 決着がついたようだが、上木さんよ。

 戦いの前にちょっとそれはフラグになるだろうよ。


 「フラグを立てるなよ。こっちが心配するんだから。」


 「いや、そうですよね。榊原もOKだしちゃうし。上官としては注意しないと。」


 えっ?と思ってたら、畑中さんが後ろにいた。

 この人いつからいたんだ。


 「最初からいましたよ。この事態に姿が見えないのは、皆気づきます。」

 

 そうか、皆気づくか。

 まあ、そうだよな。


 テントの反対側からは、田代さんが覗いているのがわかる。

 その後ろの大柄な体は真壁さんだろう。


 田代さんは、目がウルウルしているように見える。

 そう思っていたら、田代さんが榊原さんに突撃していった。


 「榊原。ついにやったな。」


 田代さんの登場に驚いたようだが、榊原さんは頷き満面の笑顔を見せた。


 「田代さん。ありがとうございます。この朴念仁もこんな時に言わなくてもいいんですけどね。」


 その後、私たちも盗み聞きをしたことを詫びつつ、話に加わる。

 上木さんは事態についていけないのか、固まっているが、皆無視だ。


 話を聞くと、どうやら榊原さんの心は随分前から決まっていたようなのだが、上木さんの態度からは親愛以上のものがあるのにかかわらず、一向に動く気配が無いため、進展しなかったとのこと。


 それ、榊原さんもあれなんじゃと思いつつ、余計なことは言わずに黙っていた。


 とりあえず、付き合うを吹き飛ばし結婚になってしまったようだが、本人たちが良いなら良いか。


 一方、上木さんは上司の畑中さんからガッツリ注意を受けていた。

 最後は、祝福を受けていたが、本人は半泣きであった、

 任務中の私事であり、危険と隣り合わせの現状での独断専行なのだから、諦めてほしい。


 この二人は、お互いがこのゲームに参加すると思っていたので、お互いを守るために参加を決めたのだそうだ。

 ここまで、想いあっていて良く付き合ってなかったなと思ったが、同僚の間でも有名だったと田代さんが話してくれた。


 上木さんには、仮にフラグが建ってても、何とかなるようにポーションを渡しておいた。

 いや、本当に頼むよ。上木さん。


 最後はとんだラブコメだったが、無事に全員の理由を聞けた頃には、正午になっていた。


 みんなで軽食をとり、猿神の襲撃を待つ。

 私の装備は、前回のクリア報酬の防具を服の上から身に着けていた。

 亜空庫に眠っていたこの装備は、なんとステータスを少し上昇させる効果を持っていた。

 DEFとAGIが1ずつ上がるという優れものだったので、早速装備している。


 「畑中さん。これを皆に渡しておいてください。」


 そう言って、私は体力ポーション(上)を四本渡す。

 畑中さんは、驚いたように返そうとしてきた。


 「これは、ポーションですか?加賀見さん、これは最も危険な戦いとなる貴方が持つべきです。」


 だが、私は再度畑中さんにポーションを押し付ける。

 

 「畑中さん。これは受け取ってもらいます。私の精神安定のために、ポーションを渡しておくことは重要なんですよ。上木さんには、先ほど渡しているので四本を皆さんで分けておいてください。」


 畑中さんは、私が退く気が無いのが分かったのか、諦めたように受け取ってくれた。

 

 「加賀見さん。わかりました、これは受け取ります。ちゃんとあなたの分はあるんですよね?」


 私は頷くと、ポーションを二本見せた。


 「私の分はちゃんとありますので、心配しないでください。いざとなれば、秘蔵の品もあるんです。」


 ポーションを限界まで調達したので、私の個人ポイントはほぼ使い切っている。

 魔力ポーションを購入するかとと思ったが、時間経過での回復を高める効果で、即効性が無かったので、体力ポーション(上)をできるだけ揃える方針としていた。


 そして、警戒センサーのアラームが腕に伝わる。

 アラームが示す方向を見ると、昨日戦った猿神の巨体と十体ほどの狒々がこちらに向かってくるのが見えた。


 「来たようですね。」


 畑中さんが、全員に告げる。


 「ここが、正念場です。作戦は事前に伝えた通り、我々はここで取り巻きを、加賀見さんは猿神を引き離している間に、他の狒々を撃破することが目標となります。皆さん、必ず勝ち、そして生き残りますよ。」


 迫る狒々と猿神、最大の戦いの火ぶたが切って落とされた。


 






 

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