第48話 Day3 戦う理由
#ここから、元の視点になります。
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「もうすぐ、昼か。」
刻一刻と迫る時間に、否が応でも緊張が高まってくる。
緊張を紛らわすために、今のステータスを確認するが、やはり猿神と戦った時のLV8からは変更はない。
猿神戦後も、何体かのモンスターを倒したが、狒々クラスでないとあまり経験値的においしくはないのだろう。
そんなことを考えていると、田代さんが話しかけてきた。
「加賀見君。少し話してもいい?」
「田代さん。大丈夫ですよ、どうかしたんですか?」
田代さんは、「ありがとう」と言いつつ、話を始める。
「私ね。正直、この後の戦いが怖いんだ。このゲームが始まる前は大丈夫だと思ってたけど、考えが甘かったよ。特に猿神との戦いからは嫌なことばかり考えてる。真壁と上木が意識不明の重傷を負って、スキルを使えれば私たちの中で圧倒的だった君が、倒されちゃったのをみて、死をね、考えちゃうんだよ。」
戦いが怖いか。
それは、まあそうだろう。
誰であれ、命をやり取りすることは怖いし、それが自分の命となれば猶更だ。
「田代さん。怖いのは当たり前です。私なんか、倒された本人ですから、めちゃめちゃ怖いですよ。ガクブルです。ガクブル」
少しおどけて答えてみたが、彼女にいつもの笑顔は戻らず、こちらをじっと見つめていた。
「ねえ、どうしてそんなに頑張れるのかな?加賀見君は、普通の人だった訳だし、この戦いに参加する義務はなかったでしょう。何となく助けになれば程度の気持ちで参加した私に、どうすれば、そんな風に立ち向かえるのか教えてください。」
田代さんは、頭を下げてお願いしてくる。
いつもさっぱりした姉御肌の彼女だが、緊迫感が続く戦いの連続で大分参っているようだ。
「田代さん、頭を下げる必要はありませんよ。わかりました、私の意見で良ければお聞かせします。」
田代さんは、私の答えに頭をあげてくれ、座って話を聞く体制を整えた。
そんなに長話をするつもりはないんだけど、と苦笑しつつ私も座って話を始める。
「まず前提として、私は自分のためにこのゲームに参加しました。最初のゲームと違ってね。」
そう、私は自らの意志でゲームに参加している。
「決断が自分にあったのであれば、進むも止めるも自分次第でしょう。私は頑固なので止められない。それだけです。」
「でも、戦闘は痛みや苦しみがあったじゃないですか?辛いことから逃げるのも本能だし、正しいと思うんだけどな。」
田代さんは、どこか試すような感じで聞いてくる。
「そうですね。確かに辛さはあります。進む理由も、止める理由もたくさんある。それでも、私は前に進むことを決断しました。」
「それは、なぜなの?何がそんなにも加賀見君を突き動かすのかな。」
田代さんが、核心を聞いてくる。
私の原点、それは・・
「私の核にあるものは、そうですね。格好悪いことはしたくない。っていう見栄なのかもしれませんね。猿神の時は、それが行き過ぎてしまい本質を見失ってしまいましたが、決めた事を覆すのは、やっぱり格好悪いじゃないですか。」
田代さんは、私の回答を聞き、「格好悪い、か」とつぶやく。
「格好悪いことはしない。だからこそ私は、たとえ嫌な仕事でも淡々とこなします。嫌だ嫌だというのは、格好悪いですからね。今回の戦いから逃げないのも、そういうことです。必要なことに背を向けるのは、私の感性では格好悪いんですw」
そう言って私がニヤリとすると、田代さんもようやく笑みを見せてくれた。
「加賀見君、ありがとうね。格好悪いことはしたくないか、それはそうかもね。うん、決めたよ。私も格好悪いことは嫌だからね。この戦いは配信されてるから、下手なことすると、家族からいわれちゃうよ。」
その後は、調子を取り戻した田代さんに、あれこれいじられながら雑談をして過ごした。
正午も近づき、田代さんは準備をするといって離れていく。
田代さんが離れた後に、畑中さんがやってきた。
「加賀見さん。ありがとうございました。田代の様子は気になっていましたが、私ではうまく聞き出せなくて。おかげで、多少元気になったようです。」
そういって、頭を下げる畑中さんに、私は話したいことを話しただけだと言う。
「気にしないでください。結局は雑談をしていただけですし、何より私も自分の原点を見つめなおす、良いきっかけでした。」
「加賀見さんの原点ですか、それは聞いても?」
隠すこともないので、私は素直に答える。
「格好悪いことはしないっていう、大したことない原点ですよ。」
すると、畑中さんは破顔して、
「格好悪いことはしない、ですか。それは良いですね。確かに子供たちに格好悪い姿は見せられないですしね。」
そうして、スマホを取り出した畑中さんは写真を見せてくれた。
写真には、優しく微笑む女性と小さな子供が映っている。
「嫁と今年で二歳になる息子です。」
家族がいたのは知っていたが、こんなに小さな子がいるのは知らなかった。
「畑中さんは、どうしてこの戦いに?」
命の危険のあるこの戦いになぜ参加したのかと、思わず私は聞いてしまった。
「家族を守るため、ですかね。神と名乗る存在の力は強力です。それこそ、本当の神かと錯覚するほどに。そんな存在がゲームで命さえ決めるというんです。」
彼は、目をつぶり思い出すようにしながら話す。
「参加者側でなければ、隣のそして腕の中の存在を、いつか理不尽に奪われるかもしれない。その恐怖から私は参加を決めました。」
そして、畑中さんはこちらを見る。
「だからこそ、加賀見さんのいう「格好悪いことはしない」は良い原点だと思います。私も子供に誇れる父親でありたい。」
そう言った畑中さんは、他のメンバーとも話をするために移動していった。
「家族のためか。そういえば、他のメンバーの参加理由は聞いてないな。」
ふと思った私は、真壁さんに話を聞きにいく。
真壁さんは壊れてしまった大盾の予備を整備しているところだった。
「真壁さん。ちょっといいですか?」
話しかけると、彼は整備を止めてくれて、こちらを向いた。
「どうしました?加賀見さん。」
私は、他メンバーがどうしてこのゲームに参加するのか、理由を聞いていることを告げると、真壁さんの理由を話してくれた。
「俺がこのゲームに参加することにしたのは、父親との約束のためかな。」
「父親との約束ですか?」
「ああ。俺の父親は中々厳しい親でしてね。小さいころから、しつけが厳しくて、曲がったことをすると、拳骨どころか木刀持ち出すときさえあった。」
木刀か、それは確かに厳しい。
でも、それならむしろ嫌ってそうな気がするけど。
「厳しい父親ではあったが、尊敬できる親だった。理不尽と感じることはほとんどなかったしな。」
なるほど、尊敬か。
厳しいだけではなかったのだろう。
真壁さんの声色には確かに親愛の情が感じられる。
「そんな父だったが、三年前に亡くなってな。最後の言葉が「決して曲げるな」だったようで、その時も訓練で死に目には会えなかったけど、意図はなぜかわかったよ。」
「その意図、とは?」
「「決して曲げるな」は、父の口癖だった。自分の意思を、誰かの意志を理不尽に捻じ曲げるような事を許してはいけない。立ち向かわなければいけないとな。」
それは、理想論のような言葉だ。
そもそも、強大な力の前には、個人の意思は簡単に曲げられてしまう。
今のゲームだけでなく、昔からそうである。
「俺も、そんな理想論は無理だと思っている。それでも、このゲームの参加の話が来たとき、父の言葉を思い出した。だから、参加したのさ。」
そうして、話を締めくくった真壁さんはまた大盾の整備に戻っていった。
真壁さんは父親の遺志を継いだのか、それともやはり同じマインドを持っていたのか、それでも自分で決めて参加を決めた事が分かった。
上木さんと、榊原さんはどこかなと探していると、テントの裏側辺りに二人がいるのを見つけたので近づくと、何か話をしているようだった。
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