第47話 Day3 中間報告
拠点に戻った私は、畑中さんに準備を終えたことを報告する。
別行動中に、拠点側も特に異常はなかったようだった。
時間も夕方になったため、陣地の中で夕食を作り、皆で食事を囲む。
皆、明日が正念場だということを理解しているためか、口数は少ない。
私は猿神との戦い以降、ずっと引っかかっていたことを皆に話すことにした。
「皆さん。猿神との戦いでは、申し訳ありませんでした。」
いきなりの謝罪にメンバーは驚き、理由を問うてくる。
私は、自分の見栄が戦いの選択肢を狭め、貴重な手段であった催涙スプレーも使用してしまったので、次は撤退させる方法は恐らくないだろうことを告げた。
すると、珍しく真壁さんが反論してきた。
「いや、加賀見さん。どうして、貴方が謝るんです。貴方は決して、我々を見捨てることはなかったんです。それで、私と上木は命を拾い、畑中達の無事も守れた。」
真壁さんは続ける。
「それに、もし謝らなけらばいけないのだとしたら、それは我々です。我々は戦うことも仕事の範囲に入っていますが、そんな我々が、一般人である貴方に頼り切ってしまった。これが貴方に余計な負担をかけ、追い詰めてしまったのでしょう。本当に申し訳ございません。」
真壁さんが頭を下げると、畑中さん達も「申し訳ございません。」と頭を下げてしまった。
お互いに頭を下げあうという、可笑しな状況に私はつい笑ってしまった。
その様子を見た真壁さん達も笑ってくれて、メンバー間に確かにあった緊張がほぐれていくのを感じる。
「真壁さん。ありがとうございます。それでも、自分の決断で私はここにいます。その責任はやはり私がとるべきですからね。これも大人としての使命です。」
私は、職業ではなく、大人の責務として自分の責任を果たすというと、真壁さん達は頑固者だなと苦笑した。
ポイント交換で手に入れたアイテムにより、見張りもだいぶ楽になり、二名交代制に戻して、二日目の夜を無事に乗り越えることができた。
Day3
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「今日が、正念場だな。」
夜は、二度のウルフ襲撃のみであった。
昨日の戦いと夜の襲撃を合わせて、私以外のメンバーはLVが1ずつ上がってLV4になっていた。
やはり、LVが低いうちは上がりやすいようだが、狒々自体も強さから推測するとLVは高いモンスターのため、私が単独で倒した二体を除いた五体を彼らで倒したことが大きかったと思われる。
ステータスも順調に上がっているようなので、これからの戦いにプラスになりそうだ。
朝九時となり、再び奴の声が聞こえた。
「やあ、皆。僕だよ、神だよ。それじゃ、お楽しみのDay2の中間結果発表だ!」
一日目の結果としては、脱落チームはいなかったようだが、二日目はどうだろうか。
「結果はね~。あー、残念。脱落チームが出ちゃってるよ。二チームだけだど、昨日人数が極端に減ったところが耐えられなかったみたい。」
脱落したチームがでてしまったことに残念な気持ちになるが、自分たちも崖っぷちではあるため、他人ごとではない。
「それと、チーム全員が残っているところもそこそこあるね。全体の五割くらいかな。皆、頑張ってるね!」
他のチームも半分はメンバーの欠けが無いのは、素直に良かったと思う。
確かに、きちんと準備をすれば生き残る可能性は高いのがこのゲームである。
我々もボスモンスターに粘着されるなんて不幸が無ければな、なんて少しだけ境遇に恨み言を思いながら、奴の話の続きを聞いていると、中間報告は以上で終わるらしい。
奴にしては、えらくあっさりした報告だったなと思ったが、やはりそんなことはなく、追加情報が出てきた。
「え~。ここで、追加で話しとくよ。いい?追加だからね、忘れた訳じゃないよ!」
言い訳は良いから、早くしろ。
どうせ、忘れてたことは明白なんだから。
「LVが上がった時のスキル付与だけど、1⇒2に上がるときには、適性のあるスキルが付与されるよ!やったね。」
そんなこと、わかってるよ。
どう考えても遅い情報に他メンバーも呆れた表情をしている。
「今、なんか不穏な空気を感じたよ!!だから、忘れた訳じゃないんだって。あっ、そうだ。追加情報はLV10になった時にも、スキルの確定付与があるんだ。すごい情報だよね?」
今、「あっ」って言ったな。
昨日も聞いた言葉に最早突っ込む気力も失せてくる。
大体、かなり高いLVのはずである私もLV8なのだ。
LV10の話など、今されてもな~感は強い。
ただ、有益な情報ではあるので、無駄ではなかったな。
奴も、誤魔化せたと思ったのか満足気な様子で締めに入った。
「うんうん。貴重な情報がもたらされて、皆もよかったよね。それじゃあ、ある意味最終日となる今日をしっかりと楽しんでね。good luck!!」
疲れる奴の話が終わり、遂に三日目のサバイバルの幕が開けた。
「必ず生き残って見せる。」
私とそして仲間たちは、その思いを胸に昼過ぎの襲撃に備え、最終確認に入った。
#ここから、第三者視点になります。
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#総理 ※猿神戦直前
「一日目は乗り越えたが、やはり夜の襲撃は厳しかったか。」
奮闘する彼らの姿を見ていると、ここで信じるしかない自分は、総理という肩書だけだなと自嘲する。
配信もプライベートに配慮しているのか、戦闘時や移動時などがメインとなるため、いつも映像がある時はハラハラさせられる。
移動中に広場に展開し、狒々七体を鮮やかに倒したときは会議室も歓声があがった。
加賀見さんだけではなく、自衛隊の面々も確かな活躍をしており、安心感を覚える。
「どうか、無事に残りも乗り越えてくれれば良いが。」
だが、その思いは叶わないことをすぐに私は思い知ることになった。
~猿神戦後~
「あれが、ボスモンスターか。」
加賀見さんが、全く歯が立たなかった。
何とか、催涙スプレーで撤退させることに成功したようだが、あのモンスターが諦めるようには見えないので、次の戦いがあるだろう。
その時に、勝てるのか。
そもそも、怪我を負った隊員は大丈夫なのか。
様々な思いが胸中を駆け巡る。
「もしもの時は、私が全責任を負う必要があるな。」
彼らの同意があったとはいえ、送り出す決断をしたのは総理である自分なので、もともと、責任を負う覚悟はしている。
だが、先ほどの戦いから、全滅という最悪のシナリオは決してあり得ない結末ではないことがわかってしまった。
改めて、モンスターの脅威、これから訪れるダンジョンへの対応が急務であることを再認識した私は、配信をつけながら自分ができる手続きを多少強引でも進める決意を固めた。
「加賀見さん。「私がやります」そう言ってくれた貴方は、何か背負いすぎな気がしていましたが、それでも私は貴方を信じます。私は私のできることをやりましょう。だから、」
どうか頑張って。
その言葉は、すでに精一杯頑張っている人にかける言葉ではないなと思い直す。
「どうか、貴方が信じた道を進んでください。」
こうして、私は自分のやるべき仕事に戻ることにしたのだった。
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