第46話 Day2 布石
「いや~。無事に効いたようで、良かったね。それじゃあ僕はこれで・・」
なんか、終わった感を出している奴だが、逃がしはしない。
初めて奴に優位に立ったような感覚に興奮しそうになるが、猿神との戦いでの苦い経験を思い出し、調子に乗らないように自らを戒める。
「神よ。自分の言ったことを反故にするのでしょうか?確かお詫びをいただけるはずですが。」
「えっ!?そうだったね。うん、ちゃんと渡すよ。僕は神だからね。どんなものがいいかな?武器とか欲しい?」
奴は、慌てて詫びの話を始める。
武器か、確かに猿神との戦いがほぼ避けられない以上、奴に勝つことを目標にした方がいいのかもしれない。
だが、流石にボスモンスターを倒すことのできる武器はもらえないだろうし、防具やアイテムだって同様だろう。
私は、猿神をどう倒すかと、辺りを歩きながら考えるが、そんな簡単には思いつくはずはない。
考えながら、ふと眼下の湖を見たときに、一体のボアが水を飲んでいるのが見えた。
モンスターも水は飲むかと思ってみていたが、やがて、水場にしては生き物やモンスターの姿がほとんど見えないことに気づく。
なぜ?と思ったときに、湖から何か大きなものが飛び出しボアを水の中に引きずり込んだ。
その光景を見たとき、私の脳裏に悪魔的な考えが浮かんだ。
その考えの博打具合と包み隠さず言えば卑怯なやり口に、私は正々堂々というよりも、搦め手の方が合ってるなと自嘲する。
とはいえ、畑中さんに相談に行く必要があるなと思ったら、奴が癇癪を起していた。
どうやら、考えに没頭して待たせすぎたらしい。
「加賀見君!もう待てないよ!!ほらすぐに望みを言ってね。じゃないと、お詫びは無し!ほらっ。はい。」
子供か!?
だが、畑中さんとの相談の時間はないらしい。
であれば、ポーションでももらっていくかと思ったが、こちらを見る畑中さんと目が合った。
任せます。
そう畑中さんの口が動き、確かに頷いた。
「神よ。私の願いは・・」
私の願いを聞いた奴は、そんなことで良いのかと聞いたが、私が考えを話すと、奴は爆笑しながら願いをかなえた。
「え~。それでは、加賀見君の望みは叶えたね。やっぱり君は面白いよ!それじゃあ、健闘を祈ろうかなw」
そう言い、奴の声は聞こえなくなった。
私は、畑中さんの元へ向かい、今後の考えを話す。
畑中さんは、驚愕の様子を見せる。
「なっ!?そんなことが本当にできるのですか?そもそも、加賀見さんの危険がありすぎます。」
「できるかどうかは、正直わかりません。ですが、これなら必須目標である、誰かがクリアする可能性は限りなく高めることができると思いませんか?誰が生き残るかは、問題ではないですよね。」
猿神戦前に、自分の言ったことを思い出したのか、諦めた表情の畑中さんが溜息をつきながら嫌味っぽいことを言ってきた。
「わかりましたよ。猿神戦以降、加賀見さん少し変わりました?今までは、強い人で聖人みたいな感じでしたが、今は普通のアラサーっぽいですよ。」
聖人か。
確かに、気づかないうちに私らしさを失っていたのかもしれない。
変わっていく日常に、私が何とかしなければいけないという思いに縛られていたのだと思う。
今も、その気持ちがなくなったわけではないが、猿神との敗北、師匠との語らいが私の思考を自由に戻した。
「やはり、私にヒーローは似合わないな。人間、意地汚い位が丁度いい。」
そうと決まれば、早速猿神との戦いに向けて準備をしなければならない。
そう思っていると、ポーションを使用した二人が目を覚ましたと、田代さんが涙目で報告してきた。
二人のもとに向かうと、体を起こせるほどに回復していたので胸をなでおろす。
「加賀見さん。貴重な薬を使用してくれたと聞きました。本当にありがとうございます。」
真壁さんがいつもの落ち着いた声で御礼を言ってくれた。
続けて、上木さんからも御礼をもらう。
「加賀見さん。ありがとうございます。俺、もうだめかと思って。」
上木さんは、死の恐怖があったのだろう。
若干、涙目になりながらの御礼だった。
「いえ。二人が回復してくれて、良かったです。」
御礼が止まらない二人を宥めていると、二人が回復したことで、畑中さんがブリーフィングを開始するため、皆を集める。
見張りは、アイテム交換で手に入れた「警戒センサー」を用いることにした。
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・警戒センサー(200P)
効果
センサーから、半径50m以内に生物が侵入すると連動する時計型の端末に振動を発生させる。
反応する対象は、センサーに触れて登録することで除外することが可能。
一度設置すると、その場から動かすことができずに十二時間後に効果が切れて消滅する。
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使い切りではあるが、なかなかの優れものである。
これを、二つ使用し、丘全体をカバーできるように設置した。
畑中さんから、今後の説明をすると、他のメンバーからは不安を隠せない様子だが、最も危険な役を行う私と、何より怪我から復帰した二人がやる気だったので、納得してくれた。
話し合いがまとまり、私は今後の準備をするために、ポイント交換で良さげなものを交換する。
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・簡易防御陣地(2,500P)
効果
簡易的な壁に覆われた防御陣地を設置する
大きさは10m四方で、設置時に多少のカスタマイズは可能。
一度設置すると、その場から動かすことができずに二十四時間後に効果が切れて消滅する。
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・香り袋(500P)
効果
モンスターが嫌がる香りを発する袋。
効果や範囲は大したことはない。
一度使用すると、二十四時間後に効果が切れて消滅する。
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簡易防御陣地で構築した陣地の中にテントを設置して、拠点を作る。
モンスターが嫌がる香りを発するらしい袋があったので、気休めかもしれないが設置する。
そして、もう一つ似て非なる効果を持つアイテムを確認する。
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・香り袋(呼び寄せ)(500P)
効果
モンスターを呼び寄せる香りを発する袋。
効果や範囲は大したことはない。
一度使用すると、二十四時間後に効果が切れて消滅する。
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「こっちも気休めだろうが、無いよりましか。」
一通りの陣地構築が終わったので、私は明日の準備をするため、この場を離れることを畑中さんに告げる。
「加賀見さん。本当にやるんですね。それに、本当なんでしょうか?猿神が明日、三日目の昼過ぎに襲撃してくるという話は。」
「ええ。詫びとして神からもらった情報ですので、ある程度は信頼できると思います。勿論、完全に信用できるわけではありませんがね。」
そう、詫びとしてもらったのは、情報だった。
だが、ある意味未来予知ともいえる内容だったので、最初は聞いた私も疑っていたが、「間違っていたらゲームクリアにする」とまで奴が言うので、かなりの確度を持つのだろう。
この情報をもとに、私たちはある作戦を決行する。
作戦には事前準備や他に確認することもあるため、一番身軽な私と榊原さんが湖に向かうことになっている。
湖に向かう途中、何度かウルフやボアと戦闘になったが、問題なく倒し、亜空庫に収納して移動する。
十五分ほど移動すると、湖のほとりに到着した。
「すごい綺麗なところですね。だけど、少し怖いほどの静寂です。」
榊原さんが、美しい景色とは裏腹に不気味さを感じる静けさに不安を口にする。
静けさ、それも当然なのかもしれない。
私の推測によればここにもとんでもないモンスターが生息しているはず。
私たちは、口数少なく、決して湖に近づきすぎないようにしながら準備を終わらせて帰還するのだった。
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