第45話 Day2 問題と対策

 「畑中さん!加賀見さんが目を覚ましました。」


 この声は、榊原さんか?

 そう思い目を開けると、周りはまだ明るく、戦いからそう時間はたっていないようだった。

 起き上がろうとすると体が痛むが、構わず体を起こす。

 

 「ここは・・。目的の丘の上か?」


 辺りを見回すと森はなく、眼下に湖が見えるため、目的地に間違いはなさそうである。

 畑中さん達が気絶した私を運んでくれたのだろうか。

 そう思っていると、畑中さんが近づいてきた。

 

 「加賀見さん。起きてくれて助かりました。体の方は大丈夫ですか?」


 「多少は痛みますが、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。運んでいただけたんですね。他の皆は大丈夫ですか?」


 猿神との戦いの最中は、余裕がなく把握できなかったが、全員生きてはいたはずだ。

 怪我の具合を確かめようと聞いたのだが、畑中さんの反応が少し悪い気がする。

 まさか、と思い続けて尋ねる。


 「確か、真壁さんと上木さんが怪我をしていたと思いますが、今二人は?」


 すると、畑中さんが少し離れたところを指さす。

 そこには、田代さんが寝ている二人を懸命に看病しているようだった。


 「真壁、上木は命は取り留めています。ですが、怪我の状態が想定より悪化しているため、戦闘は不可能。このサバイバル中に命を落とす可能性もあります。手持ちの医療品では、二人の体力にかけるしかないのが現状です。」


 命を落とす可能性。

 二人の怪我の状態が想像よりずっと悪いことに、私は動揺を隠せない。

 それに、他の懸念もある。


 「二人は、移動もかなり厳しいということですよね。猿神は、また襲撃をかけてくることが目に見えています。この状態で、再び襲撃を受けたら・・」


 私は思わず言い淀んだが、畑中さんがその続きを話す。


 「そうですね。私たちは非常に厳しい状況に追いやれられることになります。仮に、次相まみえたとき、加賀見さんは猿神に勝てそうですか?」


 私は、自らの力を奢ることはしないと決めていたので、その問いに対して正直に答えることにした。

 

 「一対一では、私が猿神に勝つことはできないと思います。猿神のスキルで私の力学が破られてしまい、現状まともに攻撃を防ぐ手段がないですし、あの身体能力では避けることもままならないです。」


 私の回答を聞き、畑中さんも予想していたのか、落胆の表情は見せなかった。

 だが、代わりに冷たさを感じる程の無表情でこれからのプランを告げた。


 「それでは、撤退。いえ、逃走するしかありませんね。猿神に追い付かれないことを祈りながら、ひたすら残りの時間を稼ぐしかない。」


 逃げる?

 確かに、それしかないかもしれない。

 だが、それでは動けない二人を見殺しにすることと同じだ。

 畑中さんもそれは重々承知なのだろう。

 顔は無表情だが、拳は強く握られており、無念さがにじみ出ている。


 私も二人を見捨てる選択肢などあり得ないが、猿神に勝つ実力が無い自分では、他に提案できる手段もない。

 力が無ければ、選択肢さえ限られる。

 そのことを再認識するが、それでも何とかできる方法を模索する。


 「なにか、何かないのか?そもそも、今の問題ってなんだ。ダメだ、一度整理しよう。」


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■問題:猿神が再度襲撃してくる

 課題:猿神に勝つ手段がない ※次の課題により、逃走もとれない


■問題:二人が怪我をしており、この場から移動できない

 課題:二人の怪我を治す医療品がない

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 「今、抱えている問題は大きく二つ。根本はやはり猿神への対処だけど、優先すべきは、二人の怪我をどうにかする方法だな。」


 頭を整理すると、やるべきことが見えてきた。

 だが、見えてきたからと言ってどうすればいいのか。


 「医療品か。前回のクリア報酬で「ポーション」を取っておくべきだったのか・・。エリクサーも1本しかないから、どちらかしか助けられない。」

 

 前回のクリア報酬で、装備品ではなくポーションを選んでおけばと後悔していると、ふと確認していなかった報酬があったのを思い出す。

 「個人ポイント」である。


 「国ポイント」でアイテム交換の項目があったので、もしかしたら・・

 「個人ポイント」は、奴が使用方法を説明しなかったため、正直忘れており、現状も使い方が分からない。

 恐らく、いや絶対に奴が忘れているだけなので、私は奴を呼びつける決意を固めた。

 だがその前に、畑中さんに事情を説明する。

 畑中さんは、可能性があるならと了承してくれ、他のメンバーも私の邪魔をしないように周囲の警戒をしてくれるようだ。


 彼らに感謝しつつ、こちらの状況を把握しているだろう奴に声を掛けようと思ったが、交渉を有利に進められるように少し演技を混ぜてみることにした。


 「そういえば、「個人ポイント」ってのがあったなー。でも使用方法が分からないぞ。まさか、神がこんな大事なことを忘れるわけないよね。それはちょっと、あり得ないよな。それじゃあ、とんだポンコ・・「ちょっと待ったー!!!」」


 ポンコツと言い終わらないうちに、インターセプトが入る。

 うまく釣れたようだな、と内心の笑いを表に出さないようにする。


 「僕のことを酷い誤解で侮辱することは許されないよ、加賀見君!!僕の沽券にかかわるんだからね。そう誤解だよ、誤解!!」


 奴は誤解というが、声にもあまり動揺が見られない(ように聞こえる)

 まさか、本当に説明があったのか?

 少しの不安を抱えながらも、実際に説明等なかったので、敢えて強気で畳みかける。


 「そうですか。誤解なんですね。ですが、私は説明を受けた記憶が無いのですよ。どこで、説明をしていたか教えてもらえません?」


 「ふふん。それは前回のクリア時に使ちゃんと伝えたさ。他のクリア者も交換履歴があるし、間違いないよ!!」


 クリア時?

 説明があったのかと焦るが、思い返しても説明はない・・

 いや、待て使だと。


 「神よ。私のクリア時は貴方が説明で、使徒はいなかったと思います。そして、貴方からは説明がなかったと記憶しているのですが。」


 そういうと、奴は少しの間黙り込み、「あっ」と言った。

 今、「あっ」っていったぞ、こいつ。


 「いや、加賀見君。それはね、確かにそうかもしれないね。でもね、僕も前のことだから、説明した気もするんだよね・・。知らない?」


 「私は聞いていません。まさか、神ともあろうものが、誤魔化すなんてしないですよね?」

 

 私の明確な否定に奴も観念したのか、説明していなかったことを認め、説明と詫びがもらえることになった。


 ひとまずは、「個人ポイント」の利用方法である。


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■個人ポイント

個人ポイントは、ステータス画面を開いた状態で個人ポイントをタッチすることで、交換所にアクセスできる。

交換できるものは、アイテムのみ。

スキル等は交換できない。

プレイヤーのレベルによりアイテムの種類、交換可能個数などの制限が解除される。


現在保有ポイント:100,000P

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 「どうか、使えるものがあってくれよ。」


 祈りながら、交換所を開くとずらっとリスト上の一覧が出てきた。

 種類が多いが、画面上にフィルターのような機能があったので、「交換可能」、「治療」等のキーワードを入れると、大分すっきりした。


 「治療系だと、ポーションや材料そのままなんて物もあるな。ひとまずは、ポーションを確認するか。」


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■ポーション(体力)

効果

怪我を治療する液体の薬。

等級によって効果が異なる。

特上:欠損まで治療可能

上:意識不明の重体レベルの怪我を治療可能

中:重傷レベルの怪我を治療可能 ※人間の治療の限界値

下:骨折レベルの自然治癒可能なレベルの怪我を治療可能


特上:50,000P

上:10,000P

中:5,000P

下:1,000P

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 「ポーション、たっか。」


 思わず声が出る。

 私の100,000Pの保有が多いのかはわからないが、あの戦いの報酬で得たポイントなので、決して低くはないはずである。

 だが、上の時点で十本しか交換できず、特上に至っては二本で空になる。


 それでも、目的の品があったので、早速交換する。

 まずは、上を二本交換することにした。

 二人の状態的には、上で問題ないだろうし、もしダメでも特上とエリクサーでどうにかする算段である。


 畑中さんにポーションを渡し、二人に飲ませる。 


 「どうか。うまくいってくれ。」


 祈るように状態を見守っていると、二人の呼吸が段々と穏やかになり、顔色も見る見る良くなってきた。

 エリクサーの時も思ったが、効き目の即効性が凄い。


 後の様子見は一旦畑中さん達にお任せして、私は大事なことを忘れた奴に対してどんな詫びをもらおうかと、考えを巡らせることにしたのだった。


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