第42話 Day2 猿の戯れ
現実に戻ると一時間足らずの仮眠であったが、スキルの効果で大分調子を取り戻していた。
襲撃もなかったようで、いよいよ移動の準備を開始する。
テントや嵩張るものを、「亜空庫」にいれ、各自最低限の水、食料を持ったことを確認する。
確認前に、私のLVが上がっていたことを報告すると、他のメンバーも確認し、皆LV3になっていた。
ステータスの上昇のみで、追加スキル等はなかったようだ。
向かう場所は、最初に私が木の上から見た場所の一つで、田代さんと合流した広場の先にある。
湖が近くにあるため、森が切れており、少し離れた場所が小高い丘になって見晴らしが良いため、そこを目的地にすることとなった。
「よし、それでは。皆さん行きますよ。隊列は前から、真壁、上木、田代、畑中、榊原、加賀見さんでいきます。」
隊列は、カバーしてくれる人がいない最後方が最も危険なため、ステータス、スキル共に充実している私が担当となる。
畑中さんは申し訳なさそうにしていたが、私にとって望むポジションのため、率先して取りにいった。
他のメンバーは、防御力が高い真壁さんを先頭に、近接の上木さん、中距離の田代さん、救護、指揮役の畑中さん、機動力の高い榊原さんの順になった。
六人で隊列を組みながら進むと、何度かウルフやボアと戦闘となる。
だが、この二種であれば、最早問題にならないステータスのため、手早く片付け、同時に襲ってくるかもしれない、狒々や背後にいるであろう猿神を警戒しつつ進む。
だが、特に狒々との戦闘はなく、行程は進み、田代さんと合流した広場の近くまで来ていた。
このまま、何も起きないまま進むことを密かに期待したが、やはりそうはいかないようだ。
後方から狒々が七体ほど、こちらを威嚇しながら迫ってきていた。
戦闘は避けられそうにないため、畑中さんの合図で広場に移動する。
真壁さんと私が前衛となり、上木さんは真壁さんのサポート、榊原さんが遊撃、田代さんは中衛からの援護、畑中さんは田代さんの護衛兼指揮として陣形を素早く構築して迎え撃つ。
「敵は、狒々七体。まずは、数的不利を解決する。加賀見さん、すいませんが速攻で一体、落とせませんか?」
「了解です。できる限りやってみます。それと、推定猿神の姿が見えないので、十分に周囲の警戒をお願いします!」
簡単な打ち合わせの後、広場に踏み込んできた七体の狒々との戦闘が始まった。
まずは、先頭で突っ込んできた狒々の前に陣取り、槍を構える。
「正直、七体はまずい。スキルも使用して速攻で落とす!」
先頭の狒々の振りかぶられた拳に対し、力学スキルの四方の力場をぶつけ、拳を跳ね上げた。
そうして、狒々の体前面にがら空きのスペースを作る。
そこに槍を捻じ込み貫くと、狒々の目から光が消えた。
「これで、一体。次だ。」
二体目以降の狒々は、十数秒で倒れた仲間を見て、私ではなく他のメンバーに向かおうとするが、そうはいかない。
「お前らの相手はこっちだ。私を無視するな。」
魔法(雷)によって、三本の槍上の雷を形成し、近場の狒々にぶち当てる。
その後、止めを刺そうと近づいたが、当たり所が良かったのか、雷によって、すでに絶命していた。
「畑中さん、これで二体仕留めました。」
「加賀見さん、ありがとうございます。これで数的有利が作れます。真壁、上木、二人で二体を確実に抑えろ。榊原、加賀見さんと協力して、二体を仕留めてくれ。残りの一体は、こちらで受け持つ。」
真壁さんは、大きな盾を構えて、狒々の攻撃を耐えている。
LVも上がり、ステータスが上がったからか、狒々の攻撃にも全く怯んでいない。
盾の後方に回り込もうとする狒々は、上木さんが上手く牽制して近づかせていない。
畑中さんと田代さんは、畑中さんが前にでて、狒々を翻弄していた。
決して、早い動きではないが、巧い。
そう表現するしかないような、巧みな戦法で、狒々が攻撃しようとすれば、離れ、移動しようとすれば近づき、牽制する。
こうして、その場に釘付けにされた狒々は、田代さんのスキルと畑中さんの槍によって、徐々に傷を負い、最後には力尽きて倒れた。
その後、畑中さん達は真壁さん達と合流するようなので、こちらは自分の仕事に集中する。
「榊原さん、私が壁役で狒々を抑えます。攻撃はお任せしてもいいですか?」
榊原さんはナイフを構えながら、「了解」と返してくれた。
狒々達は、私を相当に警戒しているようで、槍の範囲に入ってこない。
それならと、雷槍を宙に浮かべると、狒々達はアウトレンジもダメなことを理解し、攻撃してきた。
二体の攻撃を、体を入れ替えつつ同時に相手にしないように立ち回りながら、時折槍を突きだし、視線をこちらに釘付けにする。
そうして、背中ががら空きになったところで、榊原さんがうなじ付近に飛び掛かった。
飛び掛かられた狒々は気づいたようだが、既に手遅れ、首筋に深々とナイフを突き立てられ、一体が沈黙した。
もう一体はそれを見て、榊原さんにつかみかかるが、彼女はひらりと軽やかに宙返りして避ける。
あれは、「軽身功」スキルを発動しているようだ。
驚くことに、彼女はそのまま狒々を右へ左へと翻弄し、疲れたところを首筋に一突きすることで、結局一人で狒々を倒してしまった。
「榊原さん。お見事です。私がいなくても大丈夫そうでしたね。」
「いやいや、加賀見さん。二体同時は流石に無理ですよ。一体なら何とかスキルを使ってようやくってところです。」
彼女は謙遜しているが、スキルの身軽さを上手にしようしており、彼女自身の格闘センスの高さがうかがえる戦いであった。
こうして、お互いの状態を確認した後、畑中さん達の方へ応援へ向かうが、あちらも、上木さんがスキルで一体倒しており、もう一体も四人で追い詰めていたので、間もなく終わりそうだ。
戦闘もひと段落だな。
そう思っていた時、何かが視界に映りこんだ気がした。
何だ、何が見えた。
自身の感覚を信じ、もう一度注意深く確認する。
すると、畑中さん達の近くの木々の更に向こうに、一際大きな狒々のようなモンスターがいるのが見えた。
そして、そのモンスターは何かを投げるモーションをとっている。
モンスターの視線の先には、最後の一体を倒して、一息ついたメンバーがいた。
彼らも周囲の警戒は怠っていないが、モンスターとの間に木があり視界が遮られているため、気づいていない。
私はなりふり構わず、駆け寄りながら、大声で叫ぶ。
「真壁さん!!8時の方向、全力防御!、早く!!」
真壁さんは、その声を聞き、淀みなく盾を構え、スキルを全力行使する。
他のメンバーはその後ろに入ろうと動いたが、モンスターは必死な私を見て、にやりと笑うと、投擲を放った。
その投擲は、恐ろしい速度で放たれ、間の木々を全てなぎ倒したにもかかわらず、威力がほぼ落ちていないように見えた。
「全員、伏せろ!」
畑中さんの声が聞こえたが、その瞬間に投擲が着弾した。
”ドガーン”
着弾の衝撃で地面が揺れ、土埃が舞う。
すぐに安否を確認したいが、投擲を放ったモンスターが広場に現れたため、そちらの対処に向かい、榊原さんに確認をお願いする。
改めて、広場に現れたモンスターを観察すると、体長は3m近くある。
他の狒々とは明らかに異なる威圧感を放っており、やはりあいつが「猿神」なんだろう。
「お前が猿神か。おとなしく自分のサル山に帰ってほしいね。」
私は皮肉をつぶやき、遂に猿神と対峙した。
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