第41話 Day2 ボスモンスターの影
メンバーの皆は、いきなりもたらされた情報の波に困惑している。
単純に奴の勢いに飲まれてしまったともいえるか。
最早、奴のノリに慣れてしまったことに哀しみを覚えつつ、私は皆に声をかけて、情報を整理した。
「ひとまず、一つ目と、二つ目は無視で良いでしょう。問題は三つ目だと思います。」
畑中さんも、頭を振って、自分を取り戻したようだ。
「あれが、神ですか・・。思ったよりも強烈でしたね。加賀見さん、ありがとうございます。今、考えるべきはボスモンスターの情報でしょう。」
「確かに、今我々が直面している襲撃がそいつの影響がある可能性がありますからね。」
榊原さんが、襲撃にも絡んでいるのではと疑問を呈する。
それから、一班は仮眠、もう一班は、見張り兼情報探索とし、ブリーフィングは解散となった。
最初の見張り班である私は、早速、ボスモンスターのリストを眺める。
可能性があるのは、サルの群れを操るモンスターといったところか。
ボスモンスターのリストは、50種類程存在していたが、割と早く条件を絞り込めた。
「仮定の上でだけど、あり得そうなのは「猿神」か・・。というか、あのサルのモンスターは、やっぱり狒々だったのかよ。今度は妖怪の括りみたいだけど、また神関連か。」
表示される「猿神」の情報を閲覧すると、こんな情報だった。
------------------------------------------------------------
■猿神
出現場所:森のあるエリアに出没する可能性あり
概要
日本の神の方ではなく、妖怪として語られる方の猿神。
神としての性質はほとんどないが、その残虐性、狡猾さ、そして肉体の強さは、神の名を関する程度はある。
そして、獲物と定めた者を逃がすことはない執着性の高さも特徴。
また、狒々等の類似のモンスターを率いることがある。
------------------------------------------------------------
「何というか、めんどくさそうな奴に目をつけられたな。サル山のボスで、執着心も強いとか、疫病神みたいな奴だよ。」
そうこうしているうちに、見張りの交代の時間になったので、得た情報を畑中さんに共有して、テントに向かう。
この間にも、一度襲撃があったので、狙われている状況は変わっていない。
私は、状況の厳しさを思いながら眠りにつく。
いつものように、修練場に向かうと、師匠が定位置で待っていた。
「おや、我が弟子、景。今日は早いですね。」
師匠が挨拶してくれるので、こちらも返す。
師匠は、入門後は兜と面はしておらず、口調も素で話してくれる。
以前、「あの話し方は肩がこるし、兜と面は一人でつけるのが大変なんです。」と、こぼした師匠であるが、一人で頑張って準備をしてくれてた様子を想像し、ほっこりした気持ちになったことは内緒だ。
そんなことを思い出しながら、せっかくだからと現状の相談をしてみる。
師匠ならこういう時、どうするのだろうとわくわくしていると、
「そうですね。私であれば、とりあえず周りの雑兵を蹴散らして、ボス猿のもとへ向かって、槍で一突きしますね。一番早いですし。」
まさかの脳筋スタイルだった。
思わずマジかと思い、まじまじと師匠を見つめると、私の困惑が顔に出ていたのか、慌てたように師匠が言い訳を始める。
「待ってください、景。この戦法は力あるものであれば、最も効率的なのです。だから、その顔を止めなさい。失礼ですよ!」
途中から、言い訳する師匠が可愛くて、つい笑顔になってしまうと、怒られてしまった。
たまには、怒られるのも良いなと、作戦の足しにはならなかったが、心の充足は得られた。
そのことに満足してにやついていると、師匠は馬鹿にされたと思ったのか、ぷんすかしながら、技を教えると言い、立ち上がる。
「景、あなたは師匠に対する敬いが足りていないようです。仕方ありません、我が流派の技の一つを伝授しましょう。そして、ボスモンスターとやらをサクッとやってしまいなさい。」
そして、師匠は修練場の中央に立ち、構えをとる。
見逃さないように、しっかりと師匠を観察していると、師匠の体、そして槍から何かが立ち上っているように見える。
「景。貴方にも見えやすいように、大袈裟にやります。しっかりとみておくように。いきますよ。」
そういった瞬間、師匠の槍がコマ送りのように突き終わりの位置にあった。
熟練度の上がった見切りでも、かろうじて技の終わりが見えた程度の圧倒的な突きの速さ。
「今のは、一体?」
構えを解いた師匠がこちらに近づき、技の名前を告げた。
「今のは、一意槍流の基礎にして奥義の一つ。名を「
師匠が言うには、スポーツでも言われる、「無拍子」と呼ばれる技法を昇華させており、更に魔力を組み合わせることで、技の起こりをほぼ無くして、槍の最高速を出す技らしい。
師匠は重ねて言う。
「この技は、起こりをなくすことと、極めれば溜めをほぼ無くして、最高の状態の技を即座に打ち出せます。もし、試しの儀で景が見せた引き戻しと突きの工程をほぼ無くす動作と完璧に連動させれば、貴方の槍で捉えられない相手はいないでしょう。」
確かに将来的にそこまで到達すれば、私の槍はレンジにさえ入れてしまえば、必中と言って良い性能を持てるかもしれない。
期待に胸を躍らせているが、少なくともこの世界の人間に魔力を操るみたいなことはできないので、師匠はどうやって、魔力を操っているのだろうかと疑問に思い聞いてみる。
「景たちは魔力操作の技能を持っていないのですね。ですが、私の眼には貴方は魔力を纏っているように見えます。ですので、先ほどの技を見せたのですが・・。何かスキルを持っているのではないですか?」
私が魔力を?
疑問に思ったが師匠が嘘を言うとは思えず、最近確認していなかったステータスを確認する。
------------------------------------------------------------
■ステータス
プレイヤー名:加賀見 景
所属:日本
称号:一意槍流(初級) ★NEW
LV:7 ⇒ 8
〇パラメータ
・HP:140 ⇒ 170
・MP:40 ⇒ 50(75)
・ATK:17 ⇒ 19
・DEF:17 ⇒ 19
・AGI:12 ⇒ 14
・DEX:18 ⇒ 22
・INT:20 ⇒ 22
・RUK:16 ⇒ 18
〇スキル
・力学
・亜空庫
・武器生成(槍)
・見切り
・MP容量増加(大)
・修練場(槍)
・魔法(雷)
・一意槍流(初級) ★NEW
------------------------------
・一意槍流(初級) ★NEW
消費MP:なし(パッシブ)
能力
一意槍流に入門した証。
肉体と槍を魔力で操る技能を獲得する。
使用する魔力は、技の種類及び熟練度により変化する。
------------------------------
LVが8になっている。
これは、昨夜からの戦闘によるものだろう。
それよりも、称号とスキルに「一意槍流(初級)」の文字があった。
能力的にも、師匠が見た体を覆う魔力は、このスキルによるもので間違いなさそうである。
「師匠、確かにスキルがありました。「一意槍流(初級)」だそうです。」
流派の文字を関したスキルを得たことに、師匠は喜んでくれた。
「流派の名前のスキルですか。景、そのスキルの鍛錬を怠ってはいけませんよ!」
「勿論です師匠。必ずスキルを極め、いずれは世界に「一意槍流」の名を広めて見せます!」
その意気です、と頷く師匠とひとしきり喜んだあとに、時間があまりないことを思い出し、残りの時間は「無槍」の習得に充てる。
だが、流石は基礎にして奥義、1時間程度の修練では、ほとんど上手くいくことはなかった。
肩を落とす私に師匠は肩に手を置き、顔をあげさせる。
目の前に、美しい師匠の顔がアップで映り、ドキドキしていると、
「景、あなたは努力家ですが、まだ入門したばかりのヒヨコにすぎません。この道は、本当に長い研鑽の先にまた更に道が続く、終わりなき旅路のようなものです。それでも、前に進みますか。」
師匠の瞳は相変わらず、吸い込まれそうに綺麗だが、その奥に少しの不安が垣間見えた気がした。
私は自分が情けなくなり、師匠の目をしっかりと見て答える。
「師匠、この程度で弱音を吐き、申し訳ありません。あの時宣言した「強くなります」は偽りではなく、本心です。修練を続けますよ、これからも貴方の槍を目指して。」
すると、ほっとしたような師匠は、私から離れていった。
ちょっと残念な気分になりながらも、修練を続けることを決意した私だが、残念ながら時間が来たようで、意識が浮上していく。
「景。さっきはああ言いましたが、ボスモンスターは貴方にはまだ厳しい相手かもしれません。それでも、戦士たるもの退いてはいけない時、場合もあります。わかりますね。」
「はい、師匠。私にとって、それは「仲間を守る」ときでしょう。そのために強くなりたいと思いましたので。」
その言葉に、笑みを見せてくれた師匠を見ながら、私は現実に戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます