第40話 Day2 中間報告
「ウルフが四匹。傷を負っているのがいるな。あちらさんに、追い立てられた口かね。まさか、モンスターに夜襲を仕掛けられるとは思わなかったよ。」
「加賀見さん。皆を起こしてきます。」
そう言い、榊原さんは中に向かう。
すぐにメンバーが起きてきて、ウルフ四匹は無事に撃退された。
「ふう。無事に撃退できましたね。運悪く見つかったようですが、次がないと良いですね。」
畑中さんがそういうが、恐らくこれでは終わらない。
私は自分の推測を皆に話す。
「何かによる観察。それに夜襲ですか。それはどの程度の確度がありますか?」
畑中さんからの問いに対して、私は歯切れ悪く回答するしかない。
「確度は正直ありません。榊原さんの感じた視線と、私と田代さんのウルフなど事象を組み合わせただけですので。ただ、夜襲については、傷のついたウルフだったこと。この後、襲撃が続けば、自ずとわかってしまうと思います。」
「確かに、そうですね。最悪の事態を想定して動きましょう。夜襲がこれからも続くとして、二人では対処が遅れる可能性があるので、三名の二交代制に変更します。」
組み分けは、(加賀見、榊原、田代)(畑中、真壁、上木)となった。
前衛、中衛、後衛を分けつつ、ステータス的に一対一が難しい、田代さんをステータスが最も高い私がカバーする形である。
基本的には、戦闘が始まったら、もう一班を起こすが、戦闘は当番が主体的に実施し、できるだけ片方を休ませる方針となった。
そうして、見張りが再開されたが、予想通り、1時間に一回のペースでモンスターが襲ってくる。
ウルフであったり、ボアであることが大半だが、狒々の時もあった。
こうして明け方まで襲撃は続き、結局睡眠をとることがほぼできずに、次の日を迎えることになった。
Day2
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「眠いです。」
榊原さんが、珍しく大きなあくびをしながら、つぶやく。
他のメンバーも似たり寄ったりの表情となっており、私も修練場のスキル効果で多少回復したが、疲労が抜けきっていない。
体操をしたり、顔を洗ったりと思い思いの目覚まし方法をとりつつ、朝のブリーフィングが始まった。
「えー。現状、我々は敵の襲撃を受けていることは明白です。この状況に対し、問題と課題を各々あげてください。」
意見を出し合い、以下が現状の問題だと整理された。
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■現状の問題と対策について
問題:モンスターの襲撃が続いていること
課題:攻撃を防ぎつづけ、疲労が蓄積
課題:敵の意図が不明なため、頻度、程度も不明
課題:拠点の場所が補足されている
課題:拠点防御がしにくい
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「ざっと、こんなものですかね。それでは、各自対策を検討してみてください。」
「やっぱり、敵の意図が分からないのがまずいと思います。そもそも、正体や規模も全く未知数ですし。」
榊原さんは、敵を把握することが重要と考えているようだ。
一方、上木さんからは、別の意見が出る。
「俺は、拠点場所を移すべきではないかと思う。加賀見さんがいれば、撤収は速やかにできるし、まずは安全を確保することを目的にすべきではないかな。敵を倒す必要性はないわけだし。」
「私は、疲労が蓄積して、思わぬケガになることが怖いかな。睡眠不足はお肌に悪いしね~。それに、ここより安全なところの見当がついていないのに動くのは、少し不安かな。」
田代さんは、体調面を気にしているようだ。
真壁さんは、「上木の意見に一理あると思う。」と言い、拠点を移動すべきとの意見のようだ。
畑中さんは、進行役のような形で各自の意見を深堀したり、別の視点を聞いてみたりと、進め方が上手いなと感心する。
「私は、三人の意見はそれぞれ大事だと思います。なので、拠点移動を前提としつつ、可能であれば敵の見極めもする。恐らく移動中の襲撃もあるでしょうし。ただ、午前中は仮眠をとるなど、体調面をできるだけ整えて出発とかはどうでしょうか?ただ、意見をまとめただけで恐縮なんですけど。」
私の意見に、ある程度皆は納得してくれたようだ。
畑中さんがそれを見て、締めに入る。
「粗方、方針はまとまったかな。それじゃあ、今日の目標は、別の拠点に移動すること。昼食をとった後に移動するので、午前中は各自、見張りと仮眠をとるように。」
方針が決まり、各自が準備をしていると、急に音が聞こえた。
”ピーン、ポーン、パーン、ポーン”
「やあ、皆。元気にサバイバルしてるかな~?一日目も終わり、二日目に突入したので、中間発表とお知らせがありまーす!」
奴の声だった。
他のメンバーも手を止めて、メモの準備をしている。
「それでは、中間発表からです。なんと、どのチームもまだ脱落はしていません。すごいね!ただ、メンバーが既に減ってしまったチームとか、一人しか残っていない可哀そうなチームもあるね。残り二日と少し、がんばろー。」
脱落したチームはないが、メンバーが少なくなり、かなり厳しいチームがあることを知らされ、やはり甘いゲームではないことを認識する。
私たちだって、事前に入念な準備をして、「亜空庫」という便利スキルを駆使し、やっと安定している現状なのだから、他のチームはより厳しいのだと想像する。
奴は話を続ける。
「それでは、お知らせのほうかな。えーっと、言い忘れたこと、三つあるや、ごめんねw」
三つって、おい。
前回のゲームより悪化してるぞ、と内心のツッコミが止まらない私をよそに、一つ目の説明に入る。
「一つ目は、配信の範囲だね。前回は戦いだけだったけど、今回は一日中だからね。皆もお手洗いとかが映されたらとか不安に思うよね。」
確かに、その辺は気になっていた。
うちのチームには女性もいるし、昨日は全員、目隠し布で完全に仕切った上で、軽く体を拭く程度にしていた。
「でも、大丈夫!僕はコンプライアンスにはうるさいからね。今回の配信は、戦闘中とか見せ場になる部分のみを映すように調整しているから、安心してね!」
奴は、その辺は厳しいようだから、言ったことは守るだろう。
不安が解消されて良かった。
「二つ目は、最初の転移場所だね。あれは、チームごとに飛ばされ方が違うよ。全員ランダム転移が、一番悪いパターンだけど、そうそう引くことは・・、あら、一班いたねww。まあ、難易度によって、クリア報酬も上がるから、許してよ。」
笑うんじゃねぇ。
思わず、自身の運の無さに愕然としていると、上木さんと榊原さんが自分たちのステータスのLUKが低いからと青い顔をしていたので、皆で「そんなことない」と慰める優しい空間が出来上がった。
いいチームだなと、しみじみ感じていると、三つ目の話に奴がうつる。
「三つ目はね。ボスモンスターの話だよ。」
ボスモンスターだと?
「そう、君たちが配置された島にはね、エリアごとにボスモンスターとも呼ぶべき強力なモンスターが生息してるよ。倒せば、物凄い報酬が出るから、興味があればチャレンジしてみてね。」
興味があればって、誰がそんな無謀なことをするんだ。
あのミノタウロスだって、こちらが舐められきって相手が油断していたのと、相性によって、奇跡的に勝利が転がり込んだに過ぎない。
奴の言い方だと、ミノタウロスと同格、もしくはそれ以上の可能性すらあるのだから、挑戦はあまりにも危険と言える。
「とはいえ、皆もどんな相手がいるのかわからないと挑みようがないかなと思うので、特別大サービス!相手の名前と簡単な特徴を公開しちゃいます。」
奴は自分で”パチパチ”と手を叩きながら、情報を公開するという。
「じゃあ、皆。ステータスにリスト化した一覧を閲覧できるようにしたから、自分たちのエリアのボスモンスターがどんな奴か探してみてね~。それじゃあ、今日の中間報告はここまで、皆引き続き、僕を楽しませるような奮闘を期待するよ。See you again!」
こうして、奴の声は去っていった。
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