第39話 Day1 急報と消えぬ疑念

 四人で榊原さん達の場所に向かっていると、トランシーバーから、切羽詰まった榊原さんの声がした。


 「真壁さん。こちら榊原です。こちらは今、サルのようなモンスターに襲撃をうけています。畑中さんが応戦中ですが、敵の数が多くて苦戦中です。救援をお願いします!」

 

 私たちは、急いで救援に向かうことにして、その場を後にした。

 真壁さんと相談し、最も足の速い私が先行して向かうことになった。 

 本来、分散は危険だが、そうでもしないと間に合わなくなる可能性があるため、安全性が最も高いと想定される組み分けで行動する。


 「畑中さん、榊原さん。何とか無事でいてください。すぐに行きます。」


 私は、二人の無事を祈りつつ、榊原さんの待つ方向に最速で向かった。




 目印の場所に行くと、畑中さんと榊原さんが、複数のサルのようなモンスターと懸命に戦っていた。

 どうやら、銃の効果が薄いようで、倒すことを目的とせず、時間稼ぎに徹したため、何とか耐えている。

 

 私は、早速戦闘に乱入する。

 モンスターは三体いたため、一番近い奴を背中から近づき、一突きで仕留める。


 数的有利をつくったことで、一体を畑中さん達が相手している間に、もう一体を私が相手にする構図ができた。


 少し余裕ができたところで、改めてモンスターを観察する。

 モンスターは大型のサルのような見た目をしており、こちらを見て笑う様子は、日本の「狒々」と呼ばれる妖怪のようであった。


 「ギリシャ神話の次は、日本の妖怪か?奴のゲームは節操が無いな。次は、どこの国のモンスターがでてくるんだろうな。」


 そんなことを言っていると、モンスターが飛び掛かってきた。

 その動きは素早く、攻撃を避けるとモンスターの拳が地面を強くたたいた。

 威力も中々ありそうである。


 再度こちらに飛び掛かってきたため槍を突きだすが、空中で体を捻り避けてきた。

 こいつは手古摺りそうだと思っていると、横合いから、何かが飛んできて、モンスターを切り裂いた。


 「加賀見さん、今です!」


 田代さんの「魔刃」スキルか!

 痛がるモンスターの隙を突き、無事に倒すことができた。


 残るは、一体と思って振り返るが、そちらには真壁さん、上木さんが参戦していたため、四対一では、ステータスの高いモンスターでも覆せず、その身を地に沈めた。


 どうやら、ラストアタックは榊原さんだったようなので、彼女も無事にLV2に上がっていた。


------------------------------------------------------------

■ステータス

プレイヤー名:榊原 楓 

所属:日本

称号:なし

LV:1 ⇒ 2


〇パラメータ

・HP:60 ⇒ 80 

・MP:15 ⇒ 20

・ATK:10 ⇒ 12

・DEF:8 ⇒ 9

・AGI:12 ⇒ 15

・DEX:10 ⇒ 12

・INT:8 ⇒ 9

・RUK:8 ⇒ 9


〇スキル

・軽身功

------------------------------

・軽身功

消費MP:3

能力

魔力を消費し、AGIを一時的に上昇させ、また体を軽くする効果がある。

一度だけ空中を蹴ることが可能。(再度、地面等の固定された物体に触れることで回数が回復)

持続時間は10分

上昇量、持続時間は熟練度によって変わる。

------------------------------

------------------------------------------------------------

 

 榊原さんはAGIの伸びが凄い。

 スキルも素早く動くことができるようだし、何より空中移動ができるため、三次元的に飛び回る、ヒット&アウェイ戦法が似合いそうだ。


 こうして、何とかメンバー全員が合流できたところで、畑中さんから拠点になりそうな場所の心当たりがあるとのことなので、ひとまず移動することにした。


 移動中に、一体のボアと出くわしたので、さっくりと畑中さんに倒してもらいLV2に上がってもらう。


------------------------------------------------------------

■ステータス

プレイヤー名:畑中 康太

所属:日本

称号:なし

LV:1 ⇒ 2


〇パラメータ

・HP:60 ⇒ 80

・MP:15 ⇒ 20

・ATK:10 ⇒ 11

・DEF:10 ⇒ 11

・AGI:10 ⇒ 11

・DEX:10 ⇒ 11

・INT:10 ⇒ 11

・RUK:10 ⇒ 11


〇スキル

・手当


------------------------------

・手当

消費MP:2

能力

魔力を消費し、外傷を回復させる。

回復速度、範囲、程度は熟練度によって変わる。

------------------------------

------------------------------------------------------------


 驚くべきことに、ステータスはまた揃って上がっていた。

 上昇値が1であることに本人は不満そうであるが、特筆すべきはスキルの「手当」だろう。

 前のゲームの川上さんの「治癒術」以外、初めて見る回復スキルだ。

 効果は、外傷のみで程度もわからないことから、「治癒術」よりは効果が低い可能性はあるが、貴重なスキルであることは変わりがない。


 だが、こうしてみると、最初のゲームで与えられたスキルは、やはり強かったんだな。 

 メンバー全員が、LV2でスキルを得たことから、確定で取得できると想定するが、私がLV2になったであろうミノタウロス戦では、ゲームクリア報酬以外のスキルがなかった。

 「力学」がそれにあたるのだろうが、田崎さんの「格闘」、川上さんの「治癒術」と明らかに今回メンバーが取得したスキルよりも、効果や応用力が高い。

 その辺りは奴が調整したのかもしれないが、強いスキルを最初から与える必要があると奴が考えていたのだとしたら、やはりあの最初のゲームの難易度は高すぎだったのだろう。

 奴の理不尽さを再認識していると、畑中さんの言っていた拠点候補に着いた。


 そこは、洞窟のようになっており、確かに雨風も凌げそうだ。

 ただ、洞窟の入り口までではないが、割と近くまで植物があるため、敵の接近や入り口前での戦闘は少し難がありそうである。


 念のため、洞窟の中も慎重に確認し、奥行きはそこまでないが、何かが住み着いている様子もなかったので、ここを拠点とすることになった。

 戦闘スペースの問題は、移動中のモンスターとの遭遇頻度は少なかったので、恐らく問題はないという判断である。


 早速、私の「亜空庫」から、物資を取り出し、テントを分担して組み立てる。

 あらかた、キャンプのような設置ができると、メンバー全員緊張の連続だったため、一度休憩をとることにした。


 休憩中に各々ステータスの再確認、スキルの使い方などの認識合わせをする。


 特に武器については、深刻だ。

 当初の想定の一つとして、ある程度の大きさのモンスターには銃の効果が薄い可能性があったが、狒々に対しては、拳銃はほぼ効果がなく、アサルトライフルでさえ、牽制以上の効果がなかった。

 いくら私の槍が強くなったとはいえ、物理的な威力では銃に及ばないはずなので、何か理由があるはずだが、事実として効果が薄いため、それぞれナイフや槍などを携帯することにしたようだ。


 ちなみに、昼間のサルのモンスターは私の発言が採用され「狒々」と呼称することになった。


 休憩後、時刻は17時を回っていたため、外は段々暗くなってきた。

 畑中さんの指示のもと、本日の夕食を簡単に済ませ、二名交代で夜の見張りを立てる。


 組み分けは、(加賀見、榊原)(真壁、田代)(畑中、上木)となった。

 最初の見張りの最中、ランタンの明かりをボーっと見ていると、榊原さんが話しかけてきた。


 「加賀見さん。少しお話してもいいですか?」


 「勿論大丈夫です。どうかしましたか?」


 彼女は、少し悩む様子を見せたが、


 「今日の昼間なんですけど、ずっと何かに見られていたような気がするんです。観察されるようにずっと。」


 観察されるように見られていたか。

 確かに言われてみると、最初の怪我をしたウルフしかり、狒々も今思うと最後まで戦っていたのは些か不自然に見える。

 普通はあそこまで不利な状況になったら、逃げるんじゃないのか?


 もしも、あれらが偶然ではなく、仕組まれていたことだとしたら、そいつは少なくとも、狒々に命令を強要できるだけの力があるってことになる。


 私が黙ってしまったことに不安を覚えたのか、榊原さんが「気のせいかもしれまんし。」と言ってくれたが、私の疑念は深まるばかり。

 

 この手のタイプが次にやることを考えたときに嫌な想像が浮かんだ。

 昼間の戦闘が威力偵察だとして、こちらの分析はある程度できたのだとしたら、次はこちらの戦力を削ってくるはず。

 

 人間は他の動物同様、睡眠が必要である。

 それを、あちらが理解していたとすると・・・

 そこまで、考えたとき、前方から木々をかき分ける音が聞こえ、想像が現実になってしまったことを理解した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る