第37話 ”ゲーム”開始


 「なんか、修練場では黒歴史ばかりが増えていく気がする。」


 修練場から戻った私は、またもテンションが変になっていた自分を思い出し、手で顔を覆う。


 「確かに、師匠は綺麗だったし、性格もタイプだったさ。だけど、いい大人があんな醜態を晒すとは・・」


 前にも似たようなことがあったなと思ったが、今はこれからの戦いに集中すべきと気持ちを切り替える。


 

 

 基地に向かうと、集合時刻より前だったが皆揃っていた。

 他の皆に挨拶をしながら、席に着くと、間もなく黒木さんがやってきた。


 「皆、揃っているな。これからブリーフィングを始める。とはいえ、重要なことは先週すましているから、簡単な確認事項のみ伝える。」


 作戦の目的等、基本的な事項を確認した後、各々の装備を受け取ることとなった。

 装備は、動きやすさを重視した軽く、そして丈夫な素材でできているらしいが、私も詳細は知らない。

 ただ、採算度外視の特注品であることは、やんわりと黒木さんから聞いていた。

 私以外は、モンスターに対する有効性は不明だが、銃器も装備して挑む形だ。


 装備を別の部屋で身に着けて、部屋に戻ると、食料品やテントなどが運び込まれていた。

 

 「それでは、加賀見さんお願いします。」


 「はい、わかりました。」

 

 私は、「亜空庫」にそれらの物品を収納していった。

 見る見るうちに消えていく品々に、皆は「ほお~」と感心する。


 「いや~。話には聞いてましたけど、本当に六人×三日分の食料、水、それにテントや医療品まで入ってしまうとは。もし、これが他の人間も使えたら世界が変わりますね。」


 今回のリーダーとなる畑中さんが、「亜空庫」をうらやましそうに見ているが、仕方がない、これは相当なチートだと私も思う。

 とはいえ、全てを亜空庫に入れては、私に何かあった時や逸れたときにどうしようもないので、それぞれ最低限の、水、食料、そして武器を持った。

 

 こうして、準備ができたころに、部屋が騒がしくなった。

 どうやら、総理がこれからのゲームについて、会見を開くらしい。

 テレビをつけると、これから会見が始まるところのようだ。


 「国民の皆さん。以前、ご説明した通り、これから、神と名乗る存在によるゲームが再び開催されます。これをクリアできないと、国土にダンジョンと呼ばれる設備が設置されてしまい、モンスターの脅威が突然皆さんに降りかかる可能性があるため、必ず阻止しなければいけません。」


 ここで、総理は一呼吸置く。


 「その理不尽を阻止するために、勇敢な六人の戦士がこれから命がけの戦いに臨みます。応援してほしいとまでは言いません。ですが、どうか命を懸けて困難に挑む者達がいることを知っておいてほしいのです。」

 

 総理の演説は終わり、他の職員が今後の想定等を話し始めた。


 「六人の戦士だって。何か恥ずかしいかも。」


 田代さんは、少し恥ずかしそうにしている。

 けれど、皆気合が入ったようだ。

 顔つきは適度な緊張感を残しつつ、気力が充実しているように見える。


 そして、時刻は12時を迎えたその時、 半年前に何度も聞いた鐘の音が聞こえた。


 「ついに来たか。」


 ”カラン カラン”


 こうして鐘の音に導かれ、私の視界は暗転した。


 


 「やあ、皆、久しぶりの人間も、はじめましての人間もいるね。僕は神だよ。」


 この、人を馬鹿にしたような感じ、少年のような声、間違いなくだった。

 奴が言葉を続ける。


 「皆は、ルールを覚えているかな?今回のゲームは、チームで挑んでもらうよ!勝利条件は、三回目の朝9時を生きて迎えること、簡単だね!」


 私は、今一度ルールを思い出す。


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■ゲーム:チーム力で生き残れ 3泊4日のモンスター島サバイバルツアー

〇ルール

・モンスターが生息する島でのサバイバル

・クリア条件:ゲーム開始から3回目の朝9:00を迎える 

・参加者:各国から6人を選出

 選出方法

 1.「戦いはやっぱり1on1だよね」でクリア者がいる場合:クリア者に6人の選択権有

 2.1.の該当者がいない場合は、各国の代表者(首相、総理大臣等)に選択権が移行

 3.1.2.も該当者がいない場合、もしくは、6人がゲーム前までに決まっていない場合は、ランダムに不足人数を選出


〇報酬

・世界報酬(今回の参加者の1人でも達成で取得)

 1.無

・国報酬(今回の参加者の国代表の1人でも達成で取得)

 1.通常ダンジョン(資材)の設置

 2.国ポイントの獲得

・個人報酬

 1.個人ポイントの獲得

 2.ゲームクリア時の各種条件達成による追加報酬


〇ペナルティ

・国単位でクリア者がいない場合

 国のどこかに、Iランクのインスタントダンジョンを3か所設置

 スタンピードまでの猶予期間:1週間

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 「うんうん。皆、ルールはダイジョブそうだね。あ~、ちなみに言い忘れてたけど、今回転移してもらう島は四つあって、それぞれのチームはそのどこかに転移しま~す。だから、他チームも一応共存してる感じです。とはいえ、島自体はかなり広いので、出会うことはほぼないだろうけどね。」


 なんか、またとんでもないことを言い忘れていたらしい。

 ただ、出会うことがないのであれば、あまり関係はないか。


 奴は早くゲームを始めたいのか、説明の締めに入っていた。


 「それじゃ、早速開始しようかな。僕も半年間待たされてるから、もう待てないしね。ちゃんと、このゲームも全世界配信してるから、ベストを尽くしてね~。」

 

 「全員、転移後の最初にやることは理解しているね。」 


 畑中さんが念押しし、全員が頷く。


 ”カラン カラン”


 私たちの視界が暗転した。




Day1

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 「ここが今回の会場か。周りは森って感じだな。皆はどこだ?」


 周りを見渡すと、木々ばかりで、畑中さん達は近くにいないようだ。


 「最初からバラバラか。想定パターンとしてはかなり悪いな。」


 その時、胸ポケットから「全員、無事か?応答求。」と声が聞こえた。

 私は、胸ポケットのトランシーバを取り出し、無事であること、周りは木々で覆われていることを報告する。

 奴のことなので、悪辣な仕掛けをしてメンバーが逸れてしまうことは想定できていたので、全員トランシーバを持ち込んでいたが、早速役に立った。

 これも、特別にカスタマイズされたもので、数km以内の複数人同時通話が可能な優れものである。


 他のメンバーからも無事の報告が来て安心したところで、畑中さんから、各メンバーに指示がでる。


 「全員、パターン「S」だ。最初に離れることも想定済み、各々慌てずに行動するように。」


 そう、事前の想定パターンとしてあらゆることを検討しており、このパターンの際の行動もある程度決まっている。

 確か、パターン「S」は、


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■パターン「S」

状態:全員が一人ずつに離れた場所にいる

目標:全員の集合


行動指針

1.周りの状況(目印があれば、特徴を掴む)、自分の状態を確認する

2.トランシーバで連絡が取れるメンバーがいるか確認

 連絡が取れる⇒3へ

 連絡が取れない⇒4.へ

3.連絡が取れるメンバーとどこで合流するか相談し、方針を決める

4.ひとまず、周囲の安全を確保できるように、一時的な避難場所を探す

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 「今回は、全員と連絡が取れているから、合流に向けて方針決めか」 

 

 私の近くには目印のようなものは見当たらないため、他のメンバーのところに向かう方が良さそうだ。


 「加賀見です。付近には目立つものがないので、動こうと思います。誰か、目印が近くにあるメンバーはいますか?」


 すると、畑中さん以外のメンバーは近くに目印になるようなものがあるらしい。

 私は、近くの木を登って、周囲を確認すると、そう遠くない箇所にそれぞれの目印が見えた。


 一番近そうなのは田代さんか。


 「田代さんの所が近そうなので、そちらに向かいます。何かあれば連絡ください。」


 初っ端から別の場所という波乱の展開だが、こうしてゲームは開始された。


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