第35話 手合わせ


 「ついに、あと一週間か」


 私は、来週のゲームを考慮し、先週から三週間の長期休暇を取っている。

 長期休暇自体は、三か月ほど前から、上司に相談していたため、業務の引継ぎ等済ませることで実現させていた。


 今日は官邸に行き、プレイヤーの参加者登録をすることになっている。

 

 ”ピンポーン”


 部屋のインターホンが鳴った。

 インターホンの映像を見ると、懐かしの山田さんが扉の前にいるようだ。

 私は玄関の扉を開けて挨拶した。


 「山田さん。お久しぶりですね。お変わりないようで良かったです。」


 「加賀見さん。お久しぶりです。そちらもお変わり・・・あったようですが、お元気そうで何よりです。」


 私の体は、半年前からは見違えているので、山田さんは少し面食らってしまったようだが、挨拶を返してくれた。


 そして、車に乗せてもらい、私と山田さんは最近の近況など話しつつ、官邸へと向かった。

 

 官邸に着くと、すぐに以前総理と会談した部屋に向かった。

 そこには、コンソールとまさかの総理がいた。

 今日は登録するだけだったはずなので、驚いていると、隣の山田さんも驚いていたので、元々予定されていたことではないらしい。


 「総理、どうされたのですか。本日はこちらに来る予定はなかったはずですが。」


 「山田君。今日は他の予定を繰り上げていてね。来週の戦いの大事なメンバーを見ておきたくてこちらに来てしまったよ。」


 やっぱり、この総理は少しやんちゃなようだ。

 山田さんも溜息をつきそうな表情であるが、とりあえず話を先に進めることにしたようだ。


 「承知しました。加賀見さん、登録予定のメンバーはもうすぐ到着するので、少しソファーでお待ちください。」


 ソファーに座ると、総理が話しかけてくる。

 

 「加賀見さん。お疲れ様です。前会った時とは見違えましたね。より信頼に足る人物に見えるようになりました。今度の戦いも、頼りにしています。」

 

 総理に激励された私は恐縮しつつ、戦いに向けての心情を話す。


 「総理、ありがとうございます。ただ、今度の戦いは私以外のメンバーも非常に優秀なので、私は足を引っ張らないように必死ですよ。ステータスだけではない、訓練に裏打ちされた確かな経験が彼らにはありますので。」


 総理は、頷き同意した。

 

 「そうですね。今日、登録する隊員たちは、優秀であり、そして危険な戦いに立候補してくれました。間違いなくこの国の至宝の一つにあたります。彼らにも期待しています。それでも、やはり、この戦いのカギを握るのは貴方、そんな予感が私はするのですよ。」


 そうして、少し総理と話をしていると、部屋をノックする音が聞こえた。


 「自衛隊員の畑中、以下五名到着しました。」


 畑中さん達が到着したようだ。

 入ってきた彼らは、総理がいるのをみて、ぎょっとしたようだが、何とか表情を変えることなく耐えた。


 その様子に笑っていると、彼らから睨まれたので、姿勢を正す。


 「それでは、加賀見さん。登録の方をお願いします。」


 山田さんに促され、私はコンソールの「ゲームプレイヤー選択」をタッチした。


 スクリーン上部には、名前を入れる箇所と、手形のようなマークが映し出された。

 スクリーン下部には、「ゲーム:チーム力で生き残れ 3泊4日のモンスター島サバイバルツアー」と登録プレイヤー(0/6)の記載がある。


 説明書きには、権利者が名前を書くと、認証装置である手形が起動するのでプレイヤーとなる人間の手を重ねることで登録となるらしい。

 早速、自分の名前を書くと、手形が淡く発行したので、手を重ねてみる。


 ”ぴろん”


 すこし、可愛い目の音が鳴り、プレイヤーの数字が(1/6)となり、「加賀見 景」の名前が記載されたので、無事登録できたようだ。

 他のメンバーも続々登録し、スクリーンには参加者六名の名前が表示された。


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■ゲーム:チーム力で生き残れ 3泊4日のモンスター島サバイバルツアー

登録プレイヤー(6/6)

・加賀見 景

・畑中 康太

・上木 智也

・榊原 楓 

・真壁 純也 

・田代 葵


ゲーム開始時間:2/8(土)12:00

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 結果的には、最初のメンバーから変わらない面子であり、この半年の訓練の中でこのメンバーであれば問題ないと自信があるチームであった。


 登録を終え、直前の一週間は自由時間となった。

 各々どうするのかと、聞いてみたら、実家に帰って家族に挨拶したりだとか、近場に旅行にいくだとか、思い思いの答えが返ってきたので、本当に自由だなと思ったが、危険な戦いの前だと思えば、むしろ頼もしいぐらいかと思い直した。

 2月8日の9時に、基地に集合することとし、解散する。


 私はというと、日課になってしまったトレーニングを完了させると、あることを実践するため、まずはベッドに入るのであった。




 「師匠、お疲れ様です。」


 あることとは、修練場の中で、師匠から一本を取ることであった。

 この半年、毎日、時には昼寝もしつつ、師匠と修練に明け暮れたが一本どころか掠りもしていない。

 素振りはあれから回数が増え、今では千本を二時間足らずで完了させられるようになった。

 更に、素振りも型を変えて実施するようになっており、ある程度どんな方向の相手にも有効打を与えられるようになっていた。


 そのため、槍の扱いもかなり上達していて、現に昼間の訓練で棒を使った模擬戦においては、圧倒的ともいえる戦績をたたき出している。

 それでも、師匠には全く歯がたたないため、師匠はどれほど強いのだと改めて尊敬するが、きたるべき戦いの前に、何とか師匠から一当てだけでも取りたい。

 

 しかし、そう都合よくはいかず、ついに残すところ、後一日になってしまった。

 今日、何とかしなければ明日はゲーム本番である。


 「師匠、今日こそは勝たせていただきますよ。一応、秘策もあるんでね。」


 いつもの素振り千回を終え、師匠の前に立つ。


 「汝、素振りの儀終えた。然らば、試しの儀を始める。」


 いつもと同じ文言で、師匠との試しが開始される。

 慎重に槍を構え、まずは私から仕掛ける。


 ”ヒュッ”

 

 最初と比べると、随分鋭くなった刺突が師匠に向かう。

 中段への突きであったが、師匠によって軽く払われてしまい、師匠の反撃が来る。


 ”シュッ”


 師匠の反撃は、こちらがギリギリ反応できる速度で行われており、慣れると速度が上がることから、まだまだ手加減されていると実感する。

 こちらの下段に来た槍を、半歩下がることで避けた私は、次は槍を横なぎにして足を払おうとする。


 ”ブン”


 槍がしなる音をさせながら師匠の足元に向かうが、師匠は自分の槍を半回転させ、私の槍を巻き取ろうとしてきた。

 

 「うおっ!?やばっ」


 慌てて、槍の軌道を上部に向けて、師匠の槍の回転に巻き込まれないようにする。

 こうして、幾度か攻防を繰り返すが、やはり師匠の牙城は崩せない。


 観念した私は秘策を出すことにした。

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