第34話 訓練の日常と和解

 夕方と土曜の午前中は自衛隊の訓練で体を鍛え、夜は修練場で槍と魔法の修行をする。

 訓練以外にも、ランニング等、体を動かしつつ、サバイバルの知識もいるかと調べ物をしたりして日々を過ごした。

 そして暑さも和らいだころになり、そんな生活を二か月も続けると、私の貧弱な体は見た目もだいぶ変わってきたようだ。


 「ちょっと筋肉がついてきたか。あのインドア戦士だった私も変わったものだ。やっとかな。」


 そう、体を鍛えるごとにステータスの恩恵をより受けられるようになった。

 ATKやAGI等の動きに影響を与えるステータスは、数値があれば補正も強くなるが、元の身体能力にある程度左右されるようで、鍛えるごとに早くなる反応に途中から面白くなってきていた。


 修練場の修行は、体こそ鍛えることはできないものの、現実の体のスペックは引き継ぐため、昼に鍛えた体の動きを夜に確認するみたいなこともできた。

 また、夢の中だからか、疲労や痛みもないため、昼の訓練の筋肉痛などもなく、快適に修行に明け暮れることが可能だった。

 スキルの熟練度の方も順調に上がっているようで、日常的に使っている「見切り」や、「魔法(雷)」、「武器生成(槍)」もある程度イメージ通りの実行ができるようになった。


 ある日の土曜日、私は訓練に参加するため基地に向かっていた。


 「今日も快適だ。修練場の回復効果は馬鹿にできないよな。あの厳しい訓練をしても筋肉痛はほとんど感じないぞ。」


 あれから、訓練は平日はできるだけ参加し、土曜日も午後まで時間を延ばしていた。

 最初は仕事と両立できるか不安だったのだが、人間目標があると仕事も効率的に終わらせられるようになるのか、意外と時間が取れそうだったので、機会を増やすことにしたのだった。


 基地につくと、真壁さんが訓練場にいたので、挨拶する。


 「お疲れ様です。真壁さん、今日もよろしくお願いします。」


 「お疲れ様です。今日もよろしく。」


 年齢もチーム最年長である真壁さんは、落ち着いた声で挨拶してくれる。

 彼は、身長180cm程度の大柄な体格だが、性格は寡黙で優しい。

 ステータスは、DEFの値が圧倒的に高く、チームの守護神的な役割を担うことになっている。

 ちなみに、チーム内の年齢順は、真壁>畑中>田代>加賀見>榊原=上木らしい。

 

 「あっ。加賀見さん、お疲れで~す。」


 次に気の抜ける挨拶をしてきたのは、畑中さんである。

 彼は、170㎝程度、中肉中背の雰囲気がふわっとした感じの性格だ。

 やる気を感じない言動であるが、きちんと仕事はこなすため、ON,OFFの切り替えがきっちりしている感じなのだろう。

 ステータスは、まさかのALL10で、万能なのか器用貧乏なのかは、彼のセンスにかかっているともいえる。

 更に、畑中さんは実は階級的には一番上で、チーム内では隊長のポジションになる。


 畑中さんの近くにいた、上木さんにも挨拶し、後の二人はと辺りを見渡すと、訓練場の奥に、榊原さんと田代さんがいたので、近づいて挨拶をする。


 「榊原さん、田代さん。お疲れ様です。本日もよろしくお願いします。」


 「加賀見さん。お疲れ様です。本日もよろしくお願いします。」


 榊原さんは普通に挨拶してくれたが、田代さんはこちらに近づいてきて、二の腕辺りを触ってきて言った。


 「あ~。加賀見君も少しは筋肉がついてきた感じですね。最初のひょろがり君は卒業か。良かった!良かった!」


 田代さんは、150㎝ない位の小柄な体格だが、性格は、はきはきしたさっぱり系である。

 ステータスは、INTが高いため魔法適正がありそうだが、残念ながら普通の人間には、手から火を出すことはできないので、スキルを取得するまでお預けとなっている。

 関西弁ではないが、年齢も私より少し上であり、まるで大阪のおば・・、おっと誰か来たようだ。

 私は、脳内の失礼な妄想を追い出し、田代さんに向き直る。


 「田代さん。最近では女性から男性への接触もセクハラになるんですよ。」


 そういうと、彼女はにんまり笑いながら言う。

 

 「え~、でも、加賀見君はそんなことしないでしょう?ちゃーんと人は見て、やってるよ!」


 そう言われると、何も言えない。

 ずるいな、と思いながら、「参りました」と降参していると、黒木さんが訓練場にやってきた。

 いつもは、別の教官がいるが、今日は黒木さんなのだろうか。

 そう思っていると、黒木さんが集合の合図をしたので、いそいで整列する。


 「今日は、私が教官を務める。全員気を引き締めてかかるように。」


 こうして、午前中は基礎訓練、午後はチーム連携の訓練をし、夕方は座学と、一日を訓練で過ごした。


 訓練が終わり帰ろうとしていると、黒木さんから声を掛けられた。


 「加賀見さん。少しお時間よろしいですか?」


 「黒木さん。ええ、大丈夫ですけど、何かありましたか?」


 黒木さんの用事は、二か月前に諍いとなった佐藤の謹慎が明け、その後の態度も問題なかったことから、私に謝罪の場を設けたいということだった。

 最早、完全に忘れていたが、これもけじめかと思い、申し出を了承した。


 黒木さんはその場で頭を下げ、私を佐藤が待つ部屋に案内した。


 部屋に入ると、佐藤が直立して待っており、その顔は確かに私を挑発した時とは異なるように見えた。

 佐藤が、”がばっ”と頭を下げて、言った。


 「加賀見さん。この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした。また、私の発言はかの戦いで亡くなった方々をひどく侮辱するものであり、深く反省しております。誠に申し訳ございません。」


 その姿は、確かに真摯な反省の色が見えた。

 だが、そこまで人は簡単に変わるかと思った私は、なぜ謝罪の場を設けたのかを聞いた。


 「佐藤さん。私の印象の貴方は、自らの力を誇示するような人でした。ですが、今の貴方は違うように見えます。一体何が貴方を変えたのでしょう?」


 頭をあげた彼は、少し言い淀みながらも、心情を吐露してくれた。


 「変わったですか・・。確かに変わったのだと思います。加賀見さんと模擬戦をして絶対に勝てないと思われたときに、私は心底恐怖したんです。」

 

 彼は、その時を思い出したのだろうか、顔を歪ませている。


 「恐怖した私は、途端に弱者となりました。私が日ごろ下に見ていた恐怖に立ち向かわない弱者にです。そして、恐怖に立ち向かうことの難しさを知った。それが、変わったように見える理由かもしれません。」


 恐怖を知った・・か。

 確かに私もミノタウロスに立ち向かうためには、負けたら自分の命、家族、友人を失う恐怖、それらによって突き動かされていた。

 種類は違うが、彼も恐怖から何かを得たのだろう。

 そう結論付けた私は彼の、佐藤さんの謝罪を受け入れることにするのだった。


 「佐藤さん。貴方の謝罪を受け入れます。それに、私も挑発するような態度をとってしまい、申し訳ありませんでした。」


 私からも謝罪をすると、佐藤さんは慌てたように、

 

 「加賀見さん、頭をあげてください。私も謝罪を受け入れます。」


 こうして、お互いに謝罪をすることで、2か月前の一件に決着がついたのだった。


 その後、なぜか佐藤さんも訓練に参加するようになり、私とも二人でご飯に行くほど、仲良くなった。


 その後、訓練を重ねるうちに、連携も格段に良くなっていった。

 私も、筋肉がだいぶついてきて、サバイバルの知識も一通り叩き込むことができた。

 私のスキルについても、基本的なところはチームに共有している。

 そのため、ゲーム参加直後はまず私のスキル中心に考え陣形を構築するなど、いくつかのパターンも想定した訓練を積むことで、柔軟な対応ができるようになっていった。


 月日が経ち、ついに奴のゲームまで、後、一週間に迫っていた。

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