第32話 家族

 今日は、土曜日。

 特にやることもなかった私は、スキルの考察を続けていた。


 「こうしてみると、ミノタウロス勝利の報酬の「修練場(槍)」と「魔法(雷)」はミノタウロスと関連があるスキルっぽいな。」


 ミノタウロス、ギリシャの神話に出てくる怪物である。

 一説には、「アステロペーテース(雷光を投げる者)」とも呼ばれていたとされ、確かに最後の突進では、雷のようなものを体に纏っていたため、「魔法(雷)」は、その由来に関連しているのかもしれない。


 また、ミノタウロスは、怪物を閉じ込めるために造られた迷宮にいたとされ、別の閉じられた空間を造る「修練場(槍)」は、そこに関連しているのか、とかなりこじ付けな妄想をしていると、スマホのチャットの通知があった。

 チャットの通知は、田崎さんからであった。


 「加賀見さん、今日はお時間ありますか?良かったら、お茶でもいかかです?」


 田崎さん、川上さんとはこちらに戻ってから、何度か連絡は取り、お互いの無事は確認している。

 あらたまって会おうとは、どうしたのかと思いつつ、了承の返事を返した。


 「田崎さん、お疲れ様です。もちろん、大丈夫ですよ。」


 こうして、落ち合う場所を決めて、そこに集まることにした。

 

 待ち合わせの喫茶店につくと、田崎さんはすでに待っていたので、私はアイスコーヒーを頼んで席に着いた。


 「加賀見さん。急に呼び出してすいません。ちょっと話したいことがあって。」

 

 田崎さんが少し言いにくそうに、話を切り出す。


 「実は、6か月後のゲームの事なんですが、・・」


 次のゲーム?

 まさか、田崎さん参加したいとか言わないだろうな。

 あれだけ危険な目にあったんだ、しかも次はスキルがない状態になるため、危険度は跳ね上がる。

 私は、気の逸るまま彼の話を遮った。

 

 「田崎さん。まさか、参加したいなんて言わないですよね。いけませんよ!」


 すると、田崎さんはきょとんとした後に、笑いだした。


 「いえいえ、違いますよ。俺だって身の程はわきまえていますって。政府の職員から話を聞いてます。自衛隊とかその辺のプロが参加する予定だって聞いてますよ。」


 なんだ、早とちりだったか。

 私は田崎さんに謝り、話を促す。


 「それは、すいませんでした。それで、参加でなければ話って?」


 田崎さんは、まだ少し笑いながら言った。


 「私が聞きたかったのは、加賀見さんの事です。加賀見さんは参加するんですよね。」


 特に、田崎さんには参加の意思は言っていなかったので驚いたが、私は肯定した。


 「はい、参加する予定です。でも、どうしてそれを?」


 「まあ、勘、ですかね。短いながらも、あのゲームでお互いの考えはさらけ出してますし、加賀見さんはきっと力のある自分がって、そう思っていると確信してました。」

 「俺は、加賀見さんの参加を止める気はないので、今後もできるだけサポートさせてもらいますよ!!」


 なるほど、応援か。

 一人で戦いに挑む気持ちでいたが、こうして私のこと、そしてあの戦いの恐怖を知る人が、背中を押してくれるのは存外良いものだな。

 そう思いながら、田崎さんと雑談していると、またチャットの通知が鳴った。

 相手は、川上さんだった。

 内容は、「今、電話してもいいですか?」という文章で、何かあったのかと思った私と田崎さんは、すぐに川上さんに電話を掛けた。


 「もしもし、川上さん?何かあったんですか?今ちょうど、田崎さんと一緒にいるんですが、助けが必要なら向かいますよ。」


 電話の向こうから、川上さんが少し元気がない様子で話し始める。


 「加賀見さん。急に電話をお願いして、すいません。田崎さんもそばにいるなら、ちょうど良かった。」

 

 彼女は、一呼吸おき、意を決したように相談してきた。 


 「実は、両親が二人にどうしても合わせろって聞かなくてですね・・その、明日とかってお時間あったりしますでしょうか?どうかお願いします!」


 なるほど、川上さんの両親が合いたいと・・ん?

 

 「どうして、会うというお話になったんですかね。何か、ご迷惑をおかけしてしまったとか・・」


 川上さんは、慌てて否定する。


 「いえ、何か文句があるとか、そういうのではないんです。ただ、私を助けてくれたのが二人だと伝えたので、どうしても御礼が言いたいと。呼びつける形になってしまって申し訳ないのですが、どうか一度会ってもらえないですか?」


 なるほど、御礼か。

 娘を傷物に~、みたいな感じではなさそうで、ほっとした。

 

 私は、田崎さんと確認し特に問題なさそうなので、明日の昼過ぎに訪問させていただくことにした。

 川上さんは、ものすごく喜んでいるようで、待ってますからと言い、元気よく電話を切った。


 


 次の日、約束の時間に田崎さんと最寄り駅で落ち合い、川上さんの家に向かった。

 少し緊張しながら、インターホンを鳴らすと、パタパタと足音が聞こえドアが開き、中から川上さんが出てきた。


 「加賀見さん、田崎さん。今日は、来てくれてありがとうございます。」


 中に案内してくれる川上さんに近場のお菓子店で購入した詰め合わせを手渡した。


 「川上さん。今日はお招きありがとうございます。こちらはご両親に渡してください。」

 

 「えっ!?お菓子ですか。ありがとうございます。こちらが呼んだのに、気を使わせて、すいません。」


 こうして、話をしながら玄関をくぐると、女性と男性が玄関で待っていた。

 川上さんの両親だろうかと思っていると、二人は深々と頭を下げた。


 「加賀見さんと、田崎さんですね。この度は娘の命を救っていただき、本当にありがとうございました。」


 私と田崎さんは慌てて、「気にしなくて良いです。」といい、二人の頭を上げさせた。

 その後も、感謝の言葉が止まらない二人に川上さんに助けを求めると、川上さんはうんうん頷くだけで、助けにならなそうである。


 どうしたものかと、半ばあきらめながら、二人をなだめて数分後、やっと感謝連打から解放された。


 「あら、いつまでも玄関にいさせて、申し訳ありません。すぐにリビングにお越しください。」


 川上さんの母親(茜さん)にリビングまで案内いただき、席に着いた。

 茜さんが、紅茶を用意してくれて、一息ついていると、川上さんの父親(五郎さん)が当時の様子を話してくれた。


 川上さんは、二人の一人娘であり、帰ってこれないと聞いた時の絶望、配信で見た娘の最後、もう会えないと思っていた時にまさかの生還をしてくれたこと。

 それらを話す様子から、二人がどれほど川上さんを愛しているのかが伝わってきて、不覚にも鼻の奥がツンとした。


 そして、一通り話が終わった後に、茜さんと五郎さんは再び頭を下げた。


 「お二人には本当に感謝しています。娘と再会させてくれて、ありがとうございます。」


 また、感謝連打が始まってしまいそうだったので、田崎さんと目配せし、違う話を田崎さんが振った。


 「もう十分御礼は受け取りましたので、大丈夫ですよ。そういえば、恵美さんの伝言で、由美ちゃんという方が出てきましたが、中は良いんですかね?」


 「由美ちゃんですか?はい、私の大学の同級生で、クール系の子なんですけど、親友みたいなものですね。勉強がとても得意で、いつも課題を教えてくれたりするんですよ!」


 川上さんが、自慢するように由美ちゃんの話をしてくれたので、上手く感謝連打からは逃れられたようだ。

 私が胸をなでおろしたところで、雑談は続き、あまり長居しても悪いのでといい、川上さんの家を後にした。


 田崎さんとも別れ、家に着いた私は、久しぶりに実家に電話した。


 「あ~。母さん。俺だよ。景。」

 

 電話の向こうの母さんは、久しぶりの息子の電話に驚いたようだが、何かを感じたったのか、体は大丈夫かと聞いてきた。

 どうやら、私があのゲームに参加していることは知らないようだ。

 テレビ等では、プレイヤーの情報は報道されていないので、知らない可能性もあるかと思う。


 「いや、体調は問題ないよ。久しぶりに母さんの声が聞きたくなっただけ。」


 母さんは、何かあったら帰ってきなさい。といい。

 二言、三言話をして、電話を切った。


 「意外と、電話越しでも何か感じるものかな。流石は母親だ。」


 自分では隠していたつもりだが、やはり張り詰めたものがあったのかもしれない。

 母さんの声を聞いてから止まらない涙に、自分が結構限界だったことを理解した。


 こうして、気持ちをリセットできた私は、ひとまず、明日からの仕事を頑張ろうと意気込み眠りについた。

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