第29話 不穏

 「それでは、次の議題ですが、六か月後のゲームについてです。」


 やはり、その話題か。

 私は、元々こちらの話題が主だろうと考えていたので、こちらから先に話を展開する。

 

 「六か月後のゲーム。それは、私ののこと、という認識でよろしいでしょうか?参加できる、いや、させられるといった方が正しいですかね。権利といってもあまり嬉しくはありませんが。」


 愚痴のように話してしまったが、総理は気にしない風で、話を続ける。


 「そうでしょうね。加賀見さんにとって、やっと戻れた日常を、もう一度非日常に突き落とすようなことだと思います。それでも、今はあなたに頼ることが恐らく最も多くの人を守れる道だと、私はそう思います。だから、私は貴方にお願いするのです。どうか、またへ行ってくれないかと。」


 総理は、真っすぐな視線を私に向けて言った。

 その視線を受けながら、私は、昨日から考えていた答えを総理に告げた。


 「総理。私は、あの戦いで大事な友人を失う恐怖を知りました。運よく、本当に奇跡のようなことが重なり、取り戻すことができましたが、次は同じことができるかわかりません。もう戦いなんてという気持ちも当然あります。」

 

 一度、言葉を切り、呼吸を整えて、私は決意を口にする。


「それでも、誰かがやらなければいけないのなら、そして誰かに自分や大事な人の命運を預けるぐらいなら、「生きるために」私がやります。」


 総理は大きく頷いた。

 

 「ありがとうございます。貴方の勇気に深く感謝します。」

 

 その後、少し他の話をしていると、総理がぽつりとこぼした。

 

 「話は変わりますが、参加者はどうやって指定するのですかね。」


 総理にそう言われた私は、確かに権利を確認していなかった。

 もしやと思い、コンソールを操作すると、「ゲームプレイヤー選択」の項目があった。


 「総理、コンソール画面に選択できる項目があるようです。」


 そう言うと、総理がコンソール画面を触ろうとしてきたが、項目をタッチすることはできなかった。


 「やはり、権利のある加賀見さんしか操作はできないようですね。権利は加賀見さんにありますが、参加者については別途相談させてもらうことは可能でしょうか。」


 「はい。この権利も正直持て余していますので、然るべき箇所と相談はさせていただく予定でした。」


 私が、承知した旨を返すと、総理は笑顔を浮かべていた。

 ここで、総理の時間が来たようで、この後は別の担当と話を詰めていくらしい。


 「加賀見さん、今後ともよろしくお願いします。何かあれば、私が必ず力になります。ですから、どうかこの国に力を貸してください。」


 最後に総理はそう言い残し、部屋を後にした。


 「は~。すごく疲れた。」


 私は、倒れこむようにソファーに身を沈めた。

 何で、ただの一般人が総理と対談する羽目になってるんだ。

 そう嘆いていると、山田さんが近づいてきて言った。

 

 「お疲れのところ、申し訳ないのですが、次の担当者のところに案内させていただいてもよろしいでしょうか?少し車で移動する形になりますが。」


 車で移動?

 官邸とは別の場所で打ち合わせするのか、正直疲れていたが、また別日にされるよりはましか、と思い山田さんに案内をお願いした。


 「わかりました。案内をお願いします。できれば、あまり遅くならないようにお願いしたいです。」


 こうして、再び車に乗り、30分ほど移動して目的地に着いた。

 ここは、何かの基地のようだが、まさか。


 「ここは陸上自衛隊の駐屯地になります。」


 山田さんが答えを告げた。

 陸上自衛隊か、一体ここで何を。

 私が疑問に思っていると、入所の手続きを済ませたようで、山田さんに連れられ、建物の中に入る。


 そして、また会議室のような部屋に入ると、中には数名の男女の自衛官が座っていた。

 数えてみると、六人いるようだった。

 私と山田さんが席に着くと、男性の自衛官が話始めた。


 「貴方が加賀見さんですね。本日はお疲れのところ、ご足労いただきありがとうございます。今回お招きしたのは、六か月後に再び出現するであろう、ゲームと呼ばれる超常現象に対して、対策を協議したいと考えたからとなります。」


 唐突な開始に面食らっていると、隣の女性隊員が男性の頭を小突きつつ、口を挟む。


 「こら、上木。あんたは、いつも先走りすぎなのよ。まずは、自己紹介からでしょうが。加賀見さん、すいません。私は、榊原 楓といいます。こっちは、上木 智也です。」


 上木と呼ばれた青年は、20代半ばくらいか、榊原さんも同じくらいといったところである。

 それから、他の隊員にも挨拶をされて、上木さんの話は再開した。


 「それでは、話を再開させてもらいます。我々は、次のゲームに対し、自衛官が参加すべきと考えております。ここにいるメンバーは、急な招集ではありましたが、本部に集められた精鋭となります。」


 なるほど、確かに一理ある。

 前回のゲームでは、ランダムに選ばれたため、ほとんどが一般人であり、日本は誰一人戦闘経験者はいなかった。

 次のゲームは、私に選択権がある状態なので、強い人を選ぶことができる。

 日本で強いといえば、色々あるが、自衛官もその一つであり、私も協力先の候補として有力ではあった。


 「確かに、ゲームには戦いの要素が強く、また次のゲームがサバイバルである以上、自衛官の皆さんの力が借りられるのは心強いですね。」


 協力を得られればと、発言したのだが、彼らの反応が鈍い。

 どうしたのかと、首をひねると、別の若い男性隊員(名前は確か、佐藤さん)が、含み笑いをしながら、話始めた。


 「いやいや、加賀見さん。今は、戦いのプロの話をしているんですよ。確かに貴方は、たまたま、スキルとかいう能力で危機を脱したようですね。ですが、そもそも貴方のような一般人が出る幕ではないんです。選択権でこの場の6人を選んでもらって、帰ってもらって結構ですよ。だから、」


 そこまで言ったところで、上木さんが話を遮る。


 「佐藤さん、もうそこまでにしてください。私たちは加賀見さんに助けられた側でもあるんです。失礼ですよ。」


 上木さんはこちらを向き直り、申し訳なさそうに佐藤さんと同じ内容を私に依頼した。


 「加賀見さん。佐藤が言ったことは、全くの間違いというわけではないと思っています。貴方は、危険な戦場になど行かず、どうか我々に任せてもらえませんか。」


 上木さんの視線に、こちらへの嘲りはなく、純粋に心配してくれているようだ。

 その気持ちはとても嬉しい。

 普通であれば、感謝し任せるべきなのかもしれない。

 だが、私の心に浮かび上がってきたのは、全く別の怒りにも似た感情だった。


 こいつら、モンスターをのか。


 確かに実際に対峙したわけでもなければ、あの恐怖は分からないだろう。

 ましては、彼らは戦闘のプロを自称している。

 一般人ではなく自分たちならという、思いがあるのも仕方がないことかもしれない。

 そう思い、自分の中の感情を抑えようと思ったが、次の一言で、その気持ちは消え去った。


 「まあ、あんなゴブリン?みたいなやつにも負けるんだからな。庶民はおとなしくしておいた方が身のためですよ。」


 「佐藤!あんた、いい加減にしなさいよ。私たちは、国民を守るために日々訓練してるの。その私たちが国民を貶すことは決して許されない。」


 榊原さんが、窘めているが佐藤はあまり聞く耳をもっていないようだ。

 まあ、どちらにしても私の気持ちは決まっていた。

 

 「佐藤さん。それでは、模擬戦でもしませんか?モンスターとの戦いを少しはお見せできるかもしれません。」


 佐藤は、少し驚いたようだが、笑いながら辞退してくる。


 「加賀見さん。馬鹿言っちゃいけませんよ。私のような訓練を積んだ人間に一般人が模擬戦なんて、怪我じゃ済みません。モンスターを倒して、自分の強さを誤認したのかもしれませんが、とてもお受けできない相談です。」


 私は、もう一度依頼した。

 今度はもっと直接的な挑発を込めて。


 「そうですか。ただの一般人が怖いというのなら、ここは引きましょう。私は善意で申し出をしたまでです。「貴方程度ではモンスターに勝てない」とね」


 流石にこの挑発には、佐藤はボカンとした後、顔を怒りに震わせながら、立ち上がった。


 「なんだと!?そうか、そこまでいうなら、模擬戦だ。もう、吐いた唾は吞めないぞ。」


 こうして、私と佐藤さんは模擬戦のできる場所に移動することとなった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る