第二章 「変わりゆく日常」
第24話 プロローグ
ゲームから戻った後、私は急いで会社の上司に電話をした。
報連相は社会人の基本である。
「はい。私は大丈夫です。仕事から急にいなくなってしまい、ご迷惑をおかけいたしました。詳細は明日説明させていただきます。」
私は電話の向こうの上司に概要を話し、謝罪をした。
明日出社することを伝えると、上司は私に休むように提案してきた。
どうやら、私が例のゲームに参加していたことはご存じらしい。
「えっ?今週は休めですか。ですが、仕事の引継ぎは・・問題ないと。わかりました。ご厚意に甘えさせていただき、明日と明後日は休暇をいただきます。はい、来週また、よろしくお願いします。」
そうして、急な4連休を獲得してしまった。
思わぬご褒美?を得た私が、疲れた体を引きずり、自宅に帰ろうとすると、聞きなれた声が聞こえてきた。
「せんぱ~い。加賀見せんぱ~い。」
ぜぇぜぇと息を切らして近づいてきたのは、会社の後輩、矢上だった。
「加賀見先輩、やっぱりここにいましたね。俺の推理的中です!」
矢上は、なぜか嬉しそうにしていたが、自分の目的を思い出したのか、あれこれと質問を浴びせてきた。
「先輩、あのゲームは何だったんですか。あと変な能力使ってませんでしたか?というか、体は大丈夫ですか?服はボロボロだけど、怪我は・・あんまりなさそうですね。」
そう言われて、体を見ると確かにあちらこちらに穴が開いた服が見えるが、怪我はない。
恐らく、ゲーム終了時に治っていたようだが、衝撃的な出来事のオンパレードのせいで気が回っていなかったな。
「矢上、少し落ち着け。私は、まあ酷い目にはあったが大丈夫だ。後、質問は明日にしてくれないか?色々あって、正直もうベットに飛び込みたい気分なんだ。」
すると、矢上は理解してくれたのか、俺の荷物を持って言った。
「そうですよね。すいません、大騒ぎして。あんな戦いをした後ですもんね。とりあえず荷物は俺が持つんで、先輩の家まで送りますよ。」
さきほどまでとは、打って変わって、しょんぼりしてしまった後輩になぜか罪悪感を抱いてしまう。
「あ~。あれだ、移動しながらで良いなら、話してあげるよ。少しだけな。」
思わず、そう言うと、矢上はまた元気が良くなり、「早く、いきましょうよ~」と先にどんどん向かってしまう。
まるで、ゲーム直前の光景が再現されたようで懐かしさを感じてしまうが、まだ現実時間では半日しか経っていないことを思い出し、あの戦いがどれほど濃密な時間だったかを再認識した。
「おい、矢上。だから、俺は疲れてるんだって。先に行くな~。」
ヘロヘロになりながら矢上を追って、懐かしの我が家に向けて、帰宅の途に就いた。
そうして、我が家のマンション付近まで来ると、何かに見られている気配を感じた。
なんだ?と思って周囲を見渡すと、明らかにご近所さんではなさそうな人間がちらほらと見つかった。
彼らは、上手く周囲に溶け込んでいるように見えるが、あの戦いを乗り越えレベルアップした感覚が、私を観察している視線を感じ取っている。
矢上は全く気付いていないようなので、マンションの玄関から立ち止まっている私を不思議そうに見て首をひねり、割と大声で言った。
「加賀見先輩!なんで、立ち止まってるんですか。早く部屋に入りましょうよ。ねぇ、聞こえてます?加賀見せんぱーい。」
矢上が、「加賀見」という名前を呼んだ瞬間、こちらを観察していた視線が一斉に動き出す。
私は一気に警戒心をあげ、部屋の鍵を矢上に放り投げて、早口で話す。
「矢上!とりあえず、部屋に行っててくれ。場所はわかるだろう?」
矢上も何事かと思ったようだが、周囲の様子を見ておとなしくマンションの中に入ってくれた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。」
周囲の人間は少なくとも5人以上はいるようだ。
視線は更に遠くからも感じ、完全に囲まれてしまっている。
また厄介事かと嫌になるが、相手が人間であれば、奴のゲームよりましかと思い直し、周りに集まってきた何者かに告げる。
「私に何か用でしょうか?あいにく、私は貴方達のような方とは面識がないのですが、人違いではないですかね」
私が、警戒していることを隠さずにいると、周囲を囲んでいた中から一人の男性が出てきて、深々と頭を下げた。
「加賀見さん。我々はあなたに害を及ぼすつもりは毛頭ございません。大変申し訳ございませんでした!!」
すると、周囲の人からも「申し訳ございません」と口々に聞こえた。
私が、面食らっていると最初に頭を下げた男性が自己紹介をして、名刺を手渡してきた。
思わず無警戒で名刺を受け取ると「防衛相 職員 山田 健一」と記載があった。
防衛相か、この名刺が本物であれば、つまりそういうことだろう。
観念した私は、山田さん達にフランクに告げる。
「山田さんですか。それで、一体どういう要件なんですか。疲れてるんで、長話は遠慮してほしいですが、少しなら話を聞きますよ。」
警戒心を解いた私に、彼らは安堵したようで、山田さんが経緯を話し始めた。
「お疲れのところ、申し訳ありません。もうお気づきかもしれませんが、世界は謎の失踪事件、神と名乗るゲームによって、大混乱となっております。我々政府は、この件に加賀見さんが事情を最も詳しくご存じではないか、そう考えて大変失礼ながら、ご自宅を見張らせてもらっておりました。」
見張らせてもらった、ね。
口調は丁寧だが、割とはっきり言うもんだ。
これは、あえて包み隠さずに伝えるポーズを見せて、警戒心を無くさせる算段かもしれないな。
だが、相手の思惑が友好的なのであれば、乗らない手はないと感じた私は、そのまま流れに乗ることにした。
「なるほど。確かに世界は混乱の最中ですものね。こちらこそ、いきなり警戒してしまい、申し訳ないです。それで、具体的に私にどうしてほしいのでしょうか?」
山田さんは、申し訳なさそうに、要望を言ってきた。
内容は、「私に、総理官邸まで来てほしい」というものであった。
流石に今の疲れ切った状態では、御免被りたいので、明日にしてくれないかと頼むと、しぶしぶ(かなり粘られた)明日の朝、9時に迎えに来ることで納得してくれた。
それにしても、山田さん何て押しの強さだ。
物腰は丁寧でかつ低姿勢なのに、いつのまにか会話の主導権を握られていた。
これが、政府の役人。
内心、戦慄していると、私は一つ彼ら政府の人間にお願いしたいことを思い出した。
「山田さん。一つお願いがあるのですが、警察もしくは病院に伝手はありますか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます