第23話 その頃の・・

#第3者視点が続きます

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#田崎

 

 「暑いな。」


 俺がいるのは、トレーニングジムの休憩室だった。

 見慣れた景色に帰ってきて最初に出た言葉としては、冴えないなと思いながら、

 自宅へ帰る準備を始める。


 トレーニングジムには誰もおらず、不思議に思っていると、職員らしき人が部屋に入ってきた。

 職員は、ぎょっとした様子で俺を見つけ、その後怒ったように説明してきた。

 なんでも、例のゲーム騒ぎのせいで、臨時休業をしているらしく、俺だけ見つからないから荷物とかの処遇を揉めていたようだ。


 俺は、平謝りしつつ、急いでトレーニングジムをあとにした。


 自宅に帰る途中でも、いつもは人通りの多い商店街も人影は少なく、いかにあのゲームが注目されているかを理解した。

 夕飯の準備のため、馴染みの総菜店に立ち寄ると、店主のおっちゃんが幽霊でも見たかのような顔で聞いてきた。


 「おい、あんちゃん!あんた、テレビでは・・その・・、大丈夫なのか?」


 俺は、笑って回答する。


 「おっちゃん。俺は大丈夫さ。ぴんぴんしてるよ!」

 「いや~。あんちゃんが無事で良かった。じゃあ、あのテレビもドッキリか何かだったんだね。じゃないと、世界が混乱するようなことなんて・・ね。なあ、その顔ってことは、あれは本当なのかい?」


 おっちゃんは破顔して、俺の無事を喜んでくれたが、ドッキリだったんだろうと言った後の俺の顔を見て、これは冗談ではなかったと察したようだ。


 「あれは、本当だったんだよ、おっちゃん。正直俺も、ある人に助けられてなかったら今頃ここにはいないさ。これから、世界は変えられてしまうらしいし、おっちゃんも十分に気をつけてくれよ。」


 そう俺が言うと、「ありがとうよ」とおっちゃんは言い、注文した鳥の唐揚げとアジフライを手渡すまで他に会話はなかった。

 ちなみに、なんだかんだで総菜の量は多めにサービスしてくれた。


 自宅のアパートに帰ると、建物の前に見慣れぬ車が止まっているのが見えた。

 気にせず通り過ぎようとすると、中からスーツ姿の男性が二人降りてきた。

 視線の先には俺がいるため、どうやら用事があると見える。


 「なんですか?今日は色々あって疲れているので、大した用事でなければ日を改めてもらえませんか。」


 俺が少し身構えながら伝えると、相手は意外と丁寧に回答してきた。


 「田崎 勇樹さんですね。私は、政府の防衛相に所属する田中と申します。現在、世界各国で発生している失踪事件について、お話をお聞きできないでしょうか?」


 政府の職員、本物か?

 少し鎌を掛けてみるかと思った俺は、とぼけて返す。

 

 「何のことです?私の知り合いも特にあのゲームには参加していなかったはずですし、唯一勝利した10人目とも俺は違いますよ。」


 すると、職員は少し笑みを浮かべ


 「警戒なさるのも、無理はありません。確かに我々も、生存者は「加賀見 景」さんの一人と思っていましたが、先ほど「川上 恵美」さんが生還したと連絡がありまして、他の参加者についても改めて確認しているところなんです。」


 加賀見さんの名前を知っているか。

 それに、川上さんも無事に戻れたようで良かった。

 思いがけず、仲間の情報が得られて満足していると、田中と名乗る職員が話を続ける。


 「田崎さんも無事で本当に良かった。実は、加賀見さんとはまだ接触できておらず、川上さんも今はご家族とのお話し中で、我々は情報を得られていません。どうか、少しで良いのでお時間いただけないでしょうか?」


 防衛相の職員かどうかは分からないが、政府の人間であることは間違いなさそうだ。

 結局、ゲームでは加賀見さん任せになってしまったし、少しは彼の負担を少なくできるかも、そう思った俺は話を聞くことに決めた。


 「わかりました。話を聞きましょう。ただ、夕飯食べながらでも良いですかね?せっかく買ったこいつらが冷めてしまうので。」

 「ありがとうございます。夕飯等はご自由にしていただいて問題ありません。我々も同席させていただくことになりますが、気にせずに結構です。」


 ほっとしたように、田中さんが条件を了承してくれたので、俺の家に案内することにした。

 一応、部屋の様子を確認するため、15分ほど時間をおいて尋ねてきてほしいと言い、一旦彼らとは別れた。


 部屋に帰ると、いつもと変わらない部屋だった。

 当たり前だが、出かける前と変化はない。

 お気に入りのソファーに腰かけると、俺は今日一日を振り返った。

 いきなりの拉致から、戦い、そして敗北。

 今でも、あれは勝ったでしょ。と認めたくない気持ちはあるが、結果は結果だ。


 「結局、俺は主人公ではなかったってことかね。」


 別に主人公になりたかったわけではない。

 ただ、アニメやゲームに登場するように華麗に問題を解決していく”ヒーロー”に憧れがないわけではない。

 一度で良いから、そう思ってしまうことは誰しもあると思っている。


 そうして、夕飯の準備が終わった頃に、部屋のインターホンが鳴る。

 どうやら、田中さん達が来たようだ。

 時間ぴったり15分後であるのを確認し、お役所的だなと思いながら、玄関に向かう。


 「もし、次があるなら。その時はきっと」


 別にヒーローになりたいわけじゃない。

 ただ、一緒に戦った仲間と、俺を救ってくれたあの人の力になりたい。

 その思いが強くなっていくことを実感し、自分に何ができるのか、それを考え続けようと思う。


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#第3者視点が続きます

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#A国 ウィリアム


 「以上で、報告を終わります。」


 私は、所属している軍の上官への報告を終えた。

 あの神と名乗るイカれた奴が始めたゲーム。

 その参加者となっていた私は、無事にクリアしたため、こちらに戻り次第、報告に参上していた。

 私の報告を聞いた上官から、尋ねられる。


 「ウィリアム。結局、モンスターの脅威度はどうかね。正直で良い。」


 モンスターの脅威。

 私は自分の戦い、そしてスキル、他の参加者の戦いを思い出しながら答える。

 

 「モンスターの脅威度は、非常に危険といって良いでしょう。私の相手はオークで、武器はナイフで応戦しましたが、正直スキルがなければ危なかったです。銃が効くかは不明ですが、あの巨体ですとハンドガン程度では効果が薄いかと。」

 「我が部隊でも指折りの近接戦闘のプロの君がそこまで言うとはね。やはりモンスターは危険、ということだね。それと、スキルか。確か君のスキルは「強度変化」だったかな。」


 そう、私のスキルは「強度変化」だった。

 こんな得体のしれない力に頼らなくてはいけなかった自分に、忸怩たる思いを持ちながら、私はステータスの内容を思いだしながら説明する。


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■ステータス

プレイヤー名:ウィリアム・ジョンソン

所属:A国

称号:なし

LV:3


〇パラメータ

・HP:120

・MP:16

・ATK:18

・DEF:18

・AGI:13

・DEX:14

・INT:7

・RUK:7


〇スキル

・強度変化

・短剣術

・スラッシュ


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・強度変化

消費MP:任意

能力

自身、もしくは触れる対象の強度を変化させる。

持続時間は30分。熟練度によって持続時間は伸びる。

強度変化量は消費するMPによるが、その消費量と効果の上限は熟練度によって変わる。

また、自身以外の強度変更は、対象の魔力の大小によって効果が変わる

・無機物:魔力純度が高いほど効果が”高い”

・有機物:魔力純度が高いほど効果が”低い”

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・短剣術

消費MP:なし(パッシブ)

能力

対象の短剣を装備した戦闘時に補正(大)。

短剣は長柄の武器を使用していないときに有効。


短剣戦闘時は、「短剣動作補正(大)」、「ATK補正(中)」、「DEF補正(中)」、「AGI補正(中)」を取得

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・スラッシュ

消費MP:2

能力

MPを消費して任意のタイミングで発動可能。

刃物もしくは、自身の体の軌跡の0.5cm先に軌跡と同様の魔力の斬撃を発生させる。

威力は、熟練度によって変化する。 

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 この「強度変化」により、自身とナイフの強度を高め、またモンスターの表皮の強度を低くすることで、勝利した。

 最初はほとんど切れなかったモンスターが、このスキルを使用した途端、ほぼ抵抗なく切れた際は、逆に恐怖を覚えたものである。

 短剣術とスラッシュは「クリア等級:中級」によって得たため、詳細は分かっていない。


 「改めて聞いても、とんでもない力だな。スキルというものは。」


 上官も私も疲れたように、椅子に座りなおす。

 確かにスキルは脅威だ。

 世界の理を無視しているかのごとく、横暴とさえ思える。

 特に、最初に与えられたスキル「強度変化」は、他のスキルとは一線を画しており、概念に干渉するスキルともいえる能力を有していた。


 私は現状の整理を棚に上げて、上官に今後のことを尋ねた。


 「私はこれからどうなるのでしょうか?それと、我が国にはもう一人クリア者がいたはずですが、はどちらに?」

 「君が事前に参加者の情報を聞いていたお陰で、間もなく接触できる見込みだ。彼女もこれからの世界に重要な人物となるからな。奴が言うことが本当なら、6か月後に再び君たちには戦場に行ってもらう可能性が高い。」


 そう、既に次の戦場は決まっている。

 少なくとも軍属の私は、その戦場への参加が確定しているだろう。


 逃れられない現実に溜息をつきながら、神と名乗る不届きものへの皮肉を込めて、叫ぶ。


 「oh my God!」


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