第22話 使徒の来訪

#前回の続きの第3者視点です

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#総理大臣 中村 (ゲーム外)


 「私が、この国の現在の総理大臣を務めている中村といいます。貴方はどちらさまで、何をしに来られたのでしょうか?」


 侵入者は、淡々と答える。


 「私は、●●の使徒の●●という。」


 ●●の部分が聞き取れず、再度問い直す。


 「申し訳ない。恐らく名前の部分が聞き取れずに、もう一度お願いできないでしょうか?」

 

 侵入者は、再度答える。


 「私は、●●の使徒の●●で・・、これは認識できないのか。私は”神”と名乗り、貴方方とゲームをした存在の使徒となる、そうですね”フテラ”とでも呼んでください。」


 ”フテラ”、スマホで検索してみるとギリシャ語で翼をさすらしい。

 

 「フテラさん、とお呼びすればよいですかね?それで、フテラさんはどうしてこちらに?」


 私が尋ねると、彼はゲームの国報酬の引き渡しに来たと答えた。

 

 「国報酬ですか、そちらは一体?」

 「国報酬とは、国単位に与えられるゲーム報酬になります。ポイント制で付与され、さまざまな”モノ”に使用、交換ができます。」

 

 ポイント制であり、“モノ”と交換ですか。

 この言い方だと単純に物品だけをさすわけではなさそうですね。


 「具体的にどういったものと交換できるか、リストのようなものはありませんか?」

 「リストですか。それは、これを使用すれば見れます。」


 そう言い、彼はこちらに近づく。

 その時、自衛官や護衛の警察官たちが一斉に銃を彼に向けた。


 「待て、待つんだ。ここで争ってはいけない。銃を下ろすんだ。」

 

 私は、彼らに命令するが、彼らもそう簡単には頷けない。

 迷う彼らにもう一度命令し、銃を下ろさせた。


 「フテラさん。申し訳ない。彼らも職務なので、大目にみていただけないでしょうか?」


 私が深く頭を下げると、周りの職員も頭を下げる。

 

 「構いませんよ。どちらにしろ、その武器では私をどうにもできませんしね。」


 彼は真顔のまま告げると、再度こちらに近づき、球体の物体を手渡してきた。

 球体は水晶のようにも見え、まるで占い師の水晶玉のようだった。

 私が球体をどうしようかと眺めていると、彼が使い方を教えてくれる。

 球体に手をかざし、「オープン」といえば良いようだ。


 「オープン」


 私がそういうと、球体の上に半透明のスクリーンが出現した。

 スクリーンには以下のことが記載されている。


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■国コンソール

〇使用方法

・タッチすることで、選択する


〇現在の国ポイント

・10,000 ポイント

※獲得履歴

 2024/8:「1on1」ゲームの勝者1名達成により、付与


〇利用可能項目

・情報取得

・アイテム交換

・ダンジョン操作 ※現在対象無

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「これは、一体・・」

 

 私が、見慣れない画面に戸惑っていると、彼は用事が済んだとばかりに帰ろうとしているではないか。


 「待ってください。もう少しお話を聞かせてもらえませんか?なにか、お茶でもいかがでしょうか。」


 何とか、時間を引き延ばし情報が欲しい。

 そう願っての言葉だったが、彼はもう用事はないとして、光の球体を再度出現させ消えてしまった。


 「引き止めることはできなかったか。ひとまずは、この球体、コンソールの解析を急がせなくては」


 世界はたった一日で変えられてしまった。

 それでも、私は国の代表として、責務を果たすことに全力を尽くそう。


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#また、第3者視点です

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#川上


「帰ってきた。帰ってこれた。」

 

 加賀見さん、田崎さんと別れ、視界が元に戻った時に、私は自宅の自分の部屋にいることに気づいた。

 今、大学は夏休み。

 私は、友人の由美ちゃんと、遊びに行く約束をしており、その準備をしていたら、あのゲームに巻き込まれてしまった。

 その時のままの部屋を見て、帰ってきた実感を得られ、無性に家族に会いたくなった私は、1階のリビングに向かう。

 私の部屋は2階にあるので、階段を下りていると何やら話し声が聞こえる。

 そっと、リビングを覗くと、父さん、母さん、そして見知らぬ男性がいた。

 ここからでは表情が見えないが、重苦しそうな感じだったので、ひとまず様子を見る。

 

 「あの娘はもう戻らないと・・。貴方方はそう考えているのですね。どうしようもないのでしょうか?」

 

 これは、父さんの声だ。

 何やら、悲壮な声で誰かに話しかけている。

 

 「はい、残念ながらその可能性が高いと思います。あの配信は、恐らく現実であり、ご家族である恵美さんはそれに巻き込まれてしまったのかと。そして、映像を確認した限りでは、娘さんは・・」


 今度は、見知らぬ男性の声が聞こえてくる。

 そのとき、母さんの叫ぶような声が聞こえた。


 「どうしてっ!どうしてあの娘なんですか・・どうして・・」


 それだけを言い、母さんは泣き崩れてしまい、父さんが肩を抱き、慰めている。

 見知らぬ男性は、言葉少なに続ける。


 「現在、居場所が判明している参加者および参加者の家族の元へは、国の職員が向かって話を聞いています。ただ、現在は誰も戻ってきていないという情報しかなく、申し訳ございません。」


 それだけ言うと、男性は黙り込み、リビングには母さんのすすり泣く声だけが響く。

 

 ここまで聞いて、私は悟った。


 「これ、私の話じゃない。」


 考えてみれば、当然だ。

 神は配信しているといったのだ、しかも放送局をジャックして全世界に。

 当然、家族も見ていただろうし、部屋にいない娘を確認したら通報だってする。

 そうして、国の職員が来たのだろうと納得した私はうんうんと頷き・・


 「この状況、すごい出にくいんですけど・・」


 考えても見てよ。

 私がもう帰れない。みたいな感じで、泣いている場面にどうやって乗り込めばいいわけ?

 「帰ってきました(笑)」とか言えないよ、私は。

 とはいえ、このまま父さん、母さんを悲しませるわけにもいかず、悶えていると、後ろから”ガシャン”という音がした。


 「恵美!?無事だったのね!」


 その声は、友人の由美ちゃんだった。

 そういえば、遊ぶ約束をしていたのだから来ていてもおかしくないな。

 そんな、現実逃避じみたことを考えている間に事態は動く。


 ”バタン”

 リビングからは椅子が倒れるような音が聞こえ、バタバタと足音が聞こえてきた。

 これは、覚悟を決めるしかないなと思ったが、よく考えたらよりはましだと開き直る。


 顔面が涙と鼻水でぐしょぐしょの母さんが飛び込んできて、背中からは由美ちゃんが抱き着いてくる。

 少し離れた父さんも涙ぐんでおり、知らない男性は慌てたように電話しているようだ。

 私自身も涙で前が見えないので、もはや何が何だかといった感じだ。

 

 それでも、私は帰ってきたと、加賀見さんのおかげで伝言ではなく、自分の言葉で伝えれることの喜びを噛み締めながら話す。


 「父さん、母さん、由美ちゃん、今までありがとう。よろしくお願いします。そして、ただいま!!」


 これからも、世界は元通りにはならないことを知っている。

 それでも、今は大事な人たちと一緒にいられる、それだけで十分だと私は思った。

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