第18話 報酬と選択

 「田崎さん、川上さん。それに長谷部君や、他の人もか。」


 そこには、この戦いの中で知り合った人、画面越しで戦いを見届けた人、そして大事な友人となった人が横たわっていた。


 彼ら、彼女らが再び目を開けることはない。

 比較的綺麗な状態の体に疑問を覚えた私は、奴に尋ねる。

 

 「戦いで、もっと傷ついていたと思うのですが、どうなっているのでしょうか?」

 「傷?あ~それは、報酬の効果かな。誰だってご褒美に傷だらけの物は欲しくないでしょ?外見は整えるようにしたんだよw」


 言い方はいちいち癪に障るが、良い方の結果のため文句を言わず、適当に奴にお礼を言って会話を終了する。

 

 「せめて、貴方たちの体は家族に届けられるように尽力します。どうか安らかに。」


 彼らの手を合わせた私は、「亜空庫」に収納していく。

 そして、七人を収容した私はついに二人の前に立つ。

 

 「田崎さん、川上さん。貴方たちの戦い方、スキルのおかげで何とか勝利することができました。なんとか、最後の約束だけは果てせます。」


 震える言葉を絞り出し、決壊した涙により前が見にくいが、それでも、まずは川上さんを「亜空庫」に収容・・できない。


 「収容できない?なぜだ、田崎さんもでき・・ないな。」


 田崎さんも「亜空庫」に収容できず、奴に再度確認する。

 すると奴は、笑いながら「スキル」の説明を見ろと言ってくるので、私はまだスキルの詳細を確認していないことに気づき、スキルを確認する。


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〇スキル

・亜空庫

消費MP:1

能力

位相をずらした空間に物体を保存できる。

容量は熟練度によって、増加する。

消費MPは亜空庫を開ける際のみに必要であり、閉じる際や中に物体が入っていてもMPは消費しない。

保存された物体は、時間、空間から切り離されるため劣化が著しく遅くなる。

生物は保存できない。(生命活動を完全に停止した生物は物体とみなすが、仮死状態は生物とみなされる。)

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 消費MPや保存した物体が劣化しない等、中々チート臭いスキルである。

 説明文を読み進めると、ある部分の記載を思わず凝視した。


 「仮死状態は、生物とみなし保存はできない・・だと。つまり、二人は仮死状態ってことなのか?おい、どうなんだ神!!」


 私は、焦りのあまり見せかけの敬意を投げ捨てて、奴につかみかかる勢いで確認する。

 奴は私の態度には触れず、にやにやしながら状況を説明した。


 「まったく、しょうがないな~。教えてあげるよ。二人はね。まだ完全には生命活動は止まっていないんだよね。そもそもさ、戦いのルールは「相手を倒したら」なんだよね。」

 

 いや、それはおかしい、なぜなら注釈に「※デスマッチ、要注意」という記載があったし、実際に戦いは「気絶」では終わらず必ずモンスターが止めをさしていたはず。

 そこまで、考えたときに私の脳内に荒唐無稽な考えが生まれた。

 そんな馬鹿な、と思いながら一縷の希望を抱き、奴と答え合わせをする。

 

 「つまりは、仮死状態でも、なんなら気絶等でも本来は「倒れた」と判断されるってことなんですね。」


 「そうだよ。大体はモンスターが勝つから、止めまでいっちゃうんだけどね。※はあくまで注釈wその方が緊張感あって面白いでしょう?」


 私は推測を続ける。


 「川上さんは、リザードマンと戦い、スキルの麻酔効果で仮死状態になった。あのリザードマンは結局止めをささなかったので、そのまま仮死状態で戦いが終了した。」


 「そうそう、あれは僕もびっくり。リザードマンの戦士としての矜持が止めをささなかったんだよね。リザードマンは誤魔化す必要があると勘違いしたのか、はた目には止めを刺したように見せかけてたみたいだけど。」


 「田崎さんの場合は、ケガで意識を失って判定負けになったけど、オーガも止めを刺せる状態ではなかったから、そのままになったということか。」


 「時間切れって幕切れだったからね。僕としてはちゃんと決着をつけてほしかったんだけどね~」


 二人はまだ助かる。

 その事実に、喜びを噛み締めていると、新たな疑問が生じる。

 生きているなら、なぜ目を覚まさないのかと。

 見えた光に暗雲が立ち込めたようになり、不安を払拭したい私は矢継ぎ早に確認する。


 「なら、なぜ目を覚まさないのでしょうか?何か条件が不足しているのでしょうか?」


 「条件はね。ただ単純に足りないのさ。目を覚ますためのエネルギーが。」


 「エネルギーとは何ですか?どこで手に入るのでしょうか。」


 「特別なものじゃないよ。考えても見てごらん。片方はスキルの限界まで使用した大量の麻酔での昏睡状態。もう片方は、内臓破裂に大量出血からのショック状態。両方ともに報酬としての効果、「綺麗な状態の維持」によって辛うじて命を取り留めているにすぎないんだよw」


 それじゃあ、助けられないってことじゃないのか。

 あると思った希望がまやかしであると知り、膝から崩れ落ちる。

 助けるためには、病院、いや奴の言うことが正しければ、報酬として受け取った時点で、効果がなくなり、すぐさま命を落としてしまう。

 今助けるためには薬等・・そこまで考えたときに他の報酬を思い出し、急いで確認する。

 

 「あった、これならいけるはず。」

 

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〇アイテム

・エリクサー

効果

古今東西、すべての病気、怪我をたちどころに治す、神のごとき液体の薬。

虫の息であろうと、生きてさえいれば万全の状態に完治させる。

外傷であれば、かけても有効だが、基本は飲んで服用した方が効果が高い。


服用すると、以下のスキルを得る。

・スキル:病毒耐性(小)

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スキル:病毒耐性(小)

消費MP:なし(パッシブ)

能力

病気、毒に対して耐性を持つ

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 エリクサーを2本取り出した私を見て、奴が声をかけてくる。


 「あれ、貴重なエリクサーを使用するんだ。それ、相当なことがないと手に入らない激レアだよw」

 

 私は奴の言葉を無視して準備をする。

 他の報酬にポーションの体力(中)があったが、それは効果が明らかに不足していた。

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〇アイテム

・ポーション 体力

効果

怪我を治療する液体の薬。

等級によって効果が異なる。

特上:欠損まで治療可能

上:意識不明の重体レベルの怪我を治療可能

中:重傷レベルの怪我を治療可能 ※人間の治療の限界値

下:骨折レベルの自然治癒可能なレベルの怪我を治療可能

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 エリクサーを取り出した私は川上さんと田崎さんに1本ずつ飲ませる。

 女性の川上さんの顔に触れるのは心苦しいが、緊急事態として我慢してもらう。

 途中、少しこぼしてしまうが問題はないようで、彼らの顔色はみるみる良くなった。

 

 そして、数分後にその瞬間が訪れた。

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