第17話 最終戦決着

 「グオー!」


 雄たけびを上げながら、ミノタウロスが迫る。

 突進のスピードは今までで最速。

 奴の体からは、雷のようなものが発生しており、何らかのスキルを発動しているようだ。

 まるでトラックが突っ込んでくるかの如く、そんな圧倒的な迫力である。


 「さあさあ、仕上げをご覧じろってね。」


 そんな軽口を叩き、逃げろ逃げろという本能をごまかす。

 使用できるスキルは残り3回。

 これを逃せば後はなく、失敗すれば間違いなく終わる。

 私の命はもちろん、日本の人口2割、参加者の親しい人から奴によって消されてしまう。

 本来であれば、重すぎるプレッシャーであるが、今はそのプレッシャーもこの場から逃げないための重しとなる。


 ミノタウロスが振り上げた斧が唸りをあげる。

 ”ゴオッ”

 こちらのスキルが使用できないと誤解させた甲斐があったのか、早いが直線的な振り下ろし。

 感覚が冴えている今でも、かろうじて見えるそれを、ミノタウロスの腕の動きから推測し、スキルを使用する。

 生成された力場は、ミノタウロスの斧をとらえ、その斧を弾き・・とばせない。


 「なぜ。なぜ、弾けない!」


 ここにきての想定外、ミノタウロスの渾身の一撃はスキルの力場の反発力に拮抗してしまっていた。


 「そうか、力学スキルの熟練度が足りないのか。くそったれ!」


 スキルの説明欄には、「操作できる力や種類は、熟練度によって変わる。」という記載があった。

 まさか、ここで引っかかるとは。


 ミノタウロスの攻撃は、力場を今にも突破しそうであり、更に力を籠めようと、ミノタウロスが踏み込んでくる。

 

 「イチかバチか、やるしかない。やるならおまけつきだ。」


 私はスキルをもう一度発動してみた。

 すると、願望通りにもう一つの力場を、ミノタウロスの踏み込む直前の足の裏側に発生させることができた。

 足の裏および斧と拮抗している力場、双方の力の方向を限界まで調整したことで、ミノタウロスは私のダイビングするかのように突っ込んでくる。

 

 「これで最後だ。」


 私は当初のプラン通りに、ミノタウロスの心臓目掛けて槍を突き出し、槍の反発をギリギリまで確認するため、槍を強く握る。

 ミノタウロスによって槍は押し出され、私の手のひらの皮が剥けるが構わず最後のスキルを槍の石突付近に発動させる。


 ミノタウロスの圧倒的な突進によって発生する力が、スキルによって反発、槍の穂先に伝わりミノタウロスの硬い肉体を貫通した。

 しかし、槍はそこで折れてしまい、突進の威力は落ちたもののミノタウロスの体に私の体は吹き飛ばされてしまう。

 本来は、ラストの1回でミノタウロスの体をしのぐ予定だったが、途中の追加使用により、生身で受ける羽目となってしまった。


 2度、3度とバウンドして止まり、体の痛みに耐えていると、同じく吹き飛んだミノタウロスが立ち上がる気配を感じてしまう。


 「勘弁してくれ。こっちの手札はもうないぞ。」


 立ち上がるな、そんな願いもむなしくミノタウロスはこちらに近づいてきた。

 

 「ここまでか。田崎さん、川上さん。申し訳ない。」


 私は諦めを感じて、目を閉じるが、最後の一撃が来る気配がない。

 なぜ、と思い目を開けると、目の前まで来ていたミノタウロスが動いていない。

 心臓付近には、槍の折れた部分が見えており、大量の血液が流出した痕跡がある。


 痛む体を引きずり、ミノタウロスの体に触れると、心臓が動いていないようだ。

 イチかバチかの博打であったが、穂先が細かったために上手く骨を避け、心臓まで到達できたようであり、この奇跡とも呼ぶべき事象には、神(勿論、のことではない)にでも感謝してしまいそうだった。

 本当に倒すことができたのか、また復活するのではないか。

 不安が拭えなかったため、もう少し確かめようと、体を押してみる。


 ”ズン”

 軽く押したミノタウロスの体は仰向けに倒れ、そして2度と起き上がることはなかった、


 「congratulations!!素晴らしいね、まさかミノタウロスに勝つなんて!!」


 興奮した奴が出現して私は自分が勝利したことを理解した。

 

 「私が勝ったのか。」


 思ったよりも興奮は少ない。

 そんな私に奴は納得いかなそうに話しかけてくる。


 「加賀見君さ~。もっと喜ぼうよ。僕のとっておき、このゲームの圧倒的な最高難度、ミノタウロスを倒したんだよ!空気読んでよ空気。」

 

 何が空気だ。

 むしろ、お前が読め。

 内心で罵声を浴びせるが、口に出すことはできない。

 奴は、ミノタウロスのようなモンスターをで使う規格外である。

 自分だけならまだしも、日本や世界にも悪影響を与える可能性がある以上、表面上は迎合する必要がある。

 この理不尽なゲームを体感して、改めてそう感じた。


 「それじゃあ、他の10回戦もすべて完了したし、結果発表だ~!ドン!」


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■ゲーム リザルト

10回戦:加賀見 VS オーガ

勝者:加賀見


神の評論

 「いや~、加賀見君が勝つとはね。僕の目は節穴じゃなかったよ。これからも楽しみだね。また遊ぼうね、加賀見君」

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 「やっと、日本にも勝利がついたか。二人とも、約束は何とか守れそうだ。」


 日本の全敗は免れた。

 ただ、他の結果を見ると、全敗が確定してしまった国がほとんどであり、世界の惨状を考えると憂鬱になる。

 そう考えていると、視界が暗転し私は白い部屋にいた。

 そこには、他のクリアしたプレイヤーはおらず、私だけのようである。


 「じゃじゃーん。お楽しみのクリア報酬の時間で~す。」

 「クリア報酬?他の人はいないのでしょうか?」

 「他のプレイやーは、それぞれ僕の使徒が個別に報酬を渡しているよ。加賀見君は特別だから、僕が直接渡しちゃいます!」


 他の使徒?まだ奴にはいろいろ不明なものがあるようだ。

 だが、ひとまずは報酬である。

 私は、もしかしたらと思い、考えていた報酬を訪ねる。


 「報酬には、死者をよみがえらせることはできますか。今回の参加者限定でも構わないのですが。」


 だが、奴は首を振った。


 「それは、無理だね。いくら僕でもやって良いことと悪いことはあるんだよね。死者の蘇生は、悪いことにあたります。」


 奴にしては、神妙な顔で発言され、私は一番の願いが叶わないことを理解した。


 「それじゃあ、報酬を発表します!」


 奴の提示した報酬は以下であった。


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■報酬一覧

クリア等級:最上級

特殊条件:スイッチを押さずに撃破 クリア

特殊条件:最終10回戦のプレイヤー クリア

特殊条件:神話の化け物の撃破 クリア


1.ゲーム前に獲得した”スキル”の保持

・スキル:「力学」の保持


2.個人ポイントの獲得

・ポイント:100,000を付与


3.参加ゲーム難易度による、追加報酬

最上級クリア ※戦いの内容により適切なスキルを付与

・スキル:「亜空庫」の獲得

・スキル:「武器生成(槍)」を獲得

・スキル:「見切り」を獲得

・スキル:「MP容量増加(大)」を獲得


特殊条件:スイッチを押さずに撃破 クリア ※以下から報酬を一つ選択

①ポーションセット(体力(中)5本、魔力(中)5本)

②戦いで身に着けていた防具一式(新品)

③戦いで身に着けていた武具一式(新品)


特殊条件:最終10回戦のプレイヤー クリア ※以下から報酬を一つ選択

①ポーションセット(体力(上)5本、魔力(上)5本)

②武器庫内の好きな武器、防具一式(新品)

③他の参加者(所属国のみ)の肉体を持ち帰る権利


特殊条件:神話の化け物(最上級)の撃破 クリア ※以下報酬を獲得

・「エリクサー(3本)」

・スキル:「修練場(槍)」の獲得

・スキル:「魔法(雷)」を獲得

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 「報酬ありすぎだろ。」


 思わず突っ込んでしまうほどの量に面食らっていると、奴が言う

 

 「加賀見君は、ぶっちゃけ不可能な条件をクリアをしてるからね。こんな報酬になっちゃうのはしょうがないよ。時間はたっぷりあるから、確認したり選んだりしてよね。」

 「なら、じっくり確認させてもらいます。んっ?他の参加者の肉体だと・・」


 報酬画面を流し見すると、気になる報酬があった。

 

 「神よ。この報酬は・・」

 「これはね、読んで字のごとく、他のリタイアしたプレイヤーの肉体を持って帰れれる権利だよ。加賀見君の場合は、「亜空庫」があるから、楽だね!これにするかい?」


 悩むまでもなかった私は即答する。


 「ああ、まずはこれを選択します。」

 「OK!じゃあ、報酬を渡します。えいっ」


 こうして、私は再び彼らと対面した。 

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