第15話 真実

#ここから、元の視点になります。

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 鐘の音がなり、私は武器庫の前にいた。

 決めていた装備を取り出し、身に着ける。

 軽めの皮鎧に、関節を守るプロテクター、そして槍。

 3人で決めた事を実行していると、目の前が滲んできてしまう。


 「もう私も年かな。涙もろくなってるのかもしれない。」


 そう独り言を言いながら、準備が完了した。

 田崎さんは、会場に入ったときにギミックを見つけた合図をしていた。

 つまり、この武器庫と会場の間のどこかで、ギミックの場所があるということだろう。

 少し待つと、視界が暗転して、狭い部屋にいた。

 その部屋には、スイッチと取説があった。


 「これが、ギミックか。さて、何が書いてあるのか。」


 私は取説を手に取り、内容を確認し、その取説を破り捨てた。

 内容は以下のような記載だった。

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■スイッチの取説

・やあ、スイッチの説明をするね。

 このスイッチは救済措置に近いシステムなんだ。

 戦いなんてやったことがない、そんな君たち向けにゲームの難易度を下げる。

 それがこのスイッチさ。

 条件は簡単、「押す」だけ。

 さあ、レッツプッシュ


・スイッチ条件

 押すと、今回に限り難易度が一段階下がる。

 ただし、以降のプレイヤー挑戦時は、難易度が一段階、継続的に上がる。

 また、最後のプレイヤーはこのスイッチを押すことはできない。

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 一見すると、難易度が下がって良いように思えるが、以降のプレイヤーの難易度が上がるということは、押してしまうと下限となるモンスターがどんどん上がっていくという仕組みになっているようだ。


 「だから、2回戦目以降に極端にゴブリンが出なくなっていたのか。ふざけた仕組みだ。」


 この想定は、おそらく間違いない。

 前のプレイヤーが押していたため、最下限であろうゴブリンは早々に姿を消したと思われる。


 試しに、スイッチを押そうとしてみたが、反応はない。


 「だれかに押し付ける責任がない最後は、利益を得られず難易度だけあがるのか。丸損って感じだな。」


 そうして愚痴をこぼしていると、ふと机の上に、違う紙が置いてあるのを見つけた。

 紙は何回戦目かと、〇、×が書かれており、スイッチを押した人と、押さなかった人が記載されているようだ。

 その紙をみて、私は武器庫でこらえた涙がこぼれてくるのを感じた。


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■スイッチ早見表

・押した人が〇だから、誰かわかるよ

 1回戦目:×

 2回戦目:×

 3回戦目:〇

 4回戦目:〇

 5回戦目:×

 6回戦目:〇

 7回戦目:〇

 8回戦目:×

 9回戦目:〇


※ちなみに、ランダム要素の難易度の選出確率は最低ラインが四割、一つ上の難易度が三割、さらに上が二割で、三段上が一割って感じだよ。

難易度が上がったプレイヤーはLUKが低いのかなw

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 「川上さん、田崎さん。貴方たちは自分のことを最優先にしてよかったのに。」


 川上さんの5回戦目と、田崎さんの8回戦目は×になっていた。

 それと、長谷部君の1回戦目とファイアボールの2回戦目も×だった。

 彼らは、最初期だったので、押す必要を感じなかったのかもしれない。


 3回戦目以降は、オークの脅威を目の当たりにしてしまい、連続で押されていったと想定される。

 そうなると、モンスターのレベル的に、「ゴブリン⇒オーク⇒リザードマン⇒オーガ」と思っていたが、ゴブリンとオークの間にもう一体何かいたのかもしれない。

 川上さんと、田崎さんがスイッチを押していれば、それぞれもっと勝機があった相手だっただろうが、10回戦のプレイヤーつまり私に、負担をかけまいとしてくれたのだと確信した。

 そんなことを考えていると、重大なことに気づいてしまった。

 この並びだと9回戦目で押されているので、最低ラインがオーガを超えている。

 

 「ここにきて、これは。どうしたものかね。」


 正直、オーガでも厳しいラインなので、あれ以上となると何が出てくるかさえ想定がつかない。

 奴が言っていた、 「君は面白そうだからね。とっておきを用意しとくよ。」の不気味な発言がここに来て、重みを増しているように思えた。


 「嘆いても仕方ない。ひとまず、やるべき事をやる。それでダメならその時でいきましょう。」


 そうして、私は部屋を出て会場に足を踏み入れた。


 会場は異様な雰囲気に感じた。

 先ほどまで、スクリーン越しに見ていた場所に立っていると思うと、少し不思議な感じさえする。

 ここで様々な戦いがあったはずだが、血痕も、オーガのぶつかった壁も見当たらず、綺麗になっているようだ。

 対戦相手が来ないなと思っていたら、まさかの奴の声が聞こえてきた。

 

 「やあ、加賀見君。ご機嫌はいかがかな?」

 「あまりよくありませんね。なんたって友人を2人も亡くしたばかりですので。」


 手に持つ槍を必死に抑え、表面上は冷静に返す。


 「そうなんだ。まあ、5と8回戦は、種類は違うけど見てて面白かったよね。片方は、なんかモンスターと会話しちゃうし、片方は、まさかの時間切れだもんね。」


 そういって奴は笑った。

 私は、内心が怒りでぐちゃぐちゃになりながらも、奴に尋ねる。


 「それで、結局何の用でしょうか。私も次の戦いに備えて精神集中でもしようかと思っていまして、用がないなら、お引き取り願っても?」

 「まあ、待ってよ。次のモンスターはね。とっておきなんだ。なぜかモンスターの下限も上がってるし、確実に加賀見君に当たるよ。」


 やはり、そのことか、正直当たってほしくなかったが、それでも早めに情報が知れたということで、追加で情報を引き出せないか質問してみる。


 「とっておきですか、それは凄いですね。ちなみに、何がとっておきなんでしょうか?すごい大きいとかですかね。」


 そういうと、奴は自慢のおもちゃを見せびらかすかのように特徴を話し始めた。


 「大きさはそうでもないよ、オーガと同じくらい。だけど、オーガより強いんだ。それに、神話に出てくる、有名な怪物だからね。モチーフは牛の・・。あっ、これ以上はネタバレだから、ダメだよ。あってからのお楽しみさ。それじゃあ頑張って、僕を楽しませてね。」


 奴は、しゃべりすぎたと思ったのか、適当なことをいって去っていったようだ。

 それにしても、牛と神話、オーガと比較したということは人型と仮定すると恐らく相手は、「ミノタウロス」。

 ギリシャ神話に登場する、牛頭の半人半獣の怪物である。

 最近の有名アニメの最初の敵役としても登場する、割とメジャーな怪物でもあり、その巨体からの圧倒的なパワーが良く取り上げられている。


 「パワーか。それなら、やりようはあるかもしれないな。」


 私の持つスキル「力学」は、力の向きを変える能力であり、単純な脳筋戦法の方が相手をしやすい。

 新たに得た情報から、戦い方を組み立てていると、遂に相手が会場に入ってきた。

 予想通り、牛頭の半人半獣「ミノタウロス」のようだ。

 手には、でかい斧をもっており、私の体なんか、簡単にばらばらにできそうである。

 

 「さあ、始めようか。「ミノタウロスよ、武器の準備は充分か?」」


 こうして、田崎さんのセリフを更にパクりつつ、最終戦の戦いの火ぶたが切って落とされた。

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