第13話 運命の行方

#ここから、第3者視点になります。

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#田崎 


「まったく、俺のくじ運もよくないのかね。」


 まさかの、オーガである。

 よくある小説等では、人型の中では強い方ぐらいの位置づけではあるが、生身の人間では絶対に立ち向かってはいけない、そんな圧力をひしひしと感じる。

 現にオーガはこちらを格下とみているのか、その場から動こうとはせずに、笑いすら浮かべている。


 「まったく、とりあえず「おい、オーガ。武器の手入れは充分か?」。さすがにそのままは芸がないから、変えたみたけど、一度言ってみたかったんだよな。」


 俺は、長年の夢の一つが叶い、ニヤニヤとご機嫌である。

 オーガも何かを言われたのは、わかったのか、笑みを消したが、その後のこちらのニヤニヤでバカにしていると思ったのか、お冠状態であり、腰の大剣を構えて向かってくる。


 「やべ。なんか怒ってるみたい。とりあえず、加賀見さんも待たせてるし、ちゃっちゃとやりますかね。」


 そうして、俺とオーガの戦いが始まった。

 オーガの体長は2m~2m30mといったところ、高さはオークとさほど変わらないが、その体格はまるで違う。

 オークは体重差で押しつぶすような動きをしていたが、オーガはその類まれな筋肉により、早く、鋭い移動からの的確な攻撃による、メリハリの利いた動きであった。


 「うおっ。やばすぎ。なんつーバネだよ。」


 正直、最初は避けるのに精一杯だったが、段々と慣れてきた。

 俺のスタイル的には、インファイト必須だから、この相手の動きを見切るができないと何も始まらない。

 

 「ここから、反撃といきましょうか。」


 オーガの大剣を左側に誘導しつつ、空振りさせ右側の懐に潜り込む。


 「とりあえず、これはどうかな!」


 籠手を用いて、右フックをオーガの脇腹に叩き込んだ。

 だが、筋肉の壁が厚すぎて、ダメージがあまり通っていない。

 

 「ただの打撃だと効果が薄いな。ナイフでいってみるか。」


 オーガの攻撃をいなしつつ、今度はナイフで関節部分など筋肉が薄そうな箇所を狙ってみるが、浅い傷を作るのが精々で致命傷には至らない。


 「こいつはまいった。攻撃が通らない。」


 何度か攻撃場所を変えてみたが、ATKが足りない。

 生物としての格が違う。

 そんな、絶望的な気分にさえなってしまう。


 何度か攻防を繰り返していると、オーガの方も俺の動きに慣れてきたのか、攻撃に当たりそうになる場面がある。

 このままでは、いずれ体力が尽きて負ける。

 そう感じた俺は、奥の手を使うことにした。


 「さて、作戦開始だ。」


 まずは、相手の懐に入り込み、かつ相手の動きを止める必要がある。

 戦闘中にそんな隙を作るのは困難だが、やるしかない。


 「まずは、こいつで」


 その辺にある石を数個拾い、オーガに投げつける。

 オーガはそんなものは効かないことが分かっているため、無視して攻撃してくる。


 「そうだよね、次はこいつ」


 懐から取り出した、粉上なものを投げようとしたが、オーガはいきなり石を投げてきたので、驚いて脇腹に当たってしまった。

 更に追い打ちの大剣の攻撃がきたが、何とか左腕で受け流し一度体制を立て直す。


 「痛てて。こりゃ、左腕は使い物にならないな。」


 先ほどの攻防を何とか防いだが、左腕の籠手は破壊され、腫れあがっている。

 骨折はしていないようだが、まともな攻撃には使用できない。


 「全く。ついてないよ。」


 そう、ぼやきつつも。ここで負けるわけにはいかない。

 そう言いつつ、懐から先ほどと異なる袋を取り出し、中の飴を舐める。


 「ちょっと、休憩っと。おっ!結構おいしい。」


 こうして、少しの回復をした後、 痛む脇腹と左腕をかばいながら、再度オーガの懐に潜り込もうとする。

 オーガとしては、こちらに有効打がないと見たのか、防御はおざなりになっており、代わりに一度受けたら終了の猛攻が襲ってきた。


 「どちらにしろ、隙を作るにはこれしかないな。」


 懐から、再度袋に入った粉上のものを取り出し、ここが勝負の岐路として覚悟を決めて進む。

 

 そして、オーガの懐に入ると同時に封を解除した袋を顔面に向けて投げつけた。

 オーガは、懐に来た田崎を確実に仕留めるため、投げつけられたものは無視していた。

 どうせ、先ほどの石のようにとるに足らないものという判断である。

 確かに、威力という意味ではとるに足らないものではあったが、動きを止めるという目的を持ったそれを、オーガは無視するべきではなかった。


 「グギャー」


 オーガの苦しみの声が発せられた。

 田崎の攻撃?では、初めて明確なダメージとなっていた。


 「さすがに、世界でも有数の辛さであるジョロキアの粉末をもろはキツイでしょう。地球なめんな。」


 田崎が投げつけたものは、有数の辛さを持つ唐辛子、ジョロキアの粉末である。

 これは、ホールのビュッフェにあったものを拝借してきた。

 そうして、オーガの動きが止まっている数秒で、奥の手の準備は完了した。 


 「さあ、俺のとっておき、全ぶっぱ気功弾もしっかり味わえよ!」


 スキルの気功弾により、消費MP「任意」であったため、たった1発に全てをかけるという荒業で勝負をかける。

 気功弾を受けたオーガは、その場から吹き飛び、何度か地面をバウンドしながら、闘技場の壁にめり込んだ。


 「これでダメなら、後はガチンコ殴り合いしかないけど。できれば出てこないでね。」


 祈るような気持ちで待っていると、オーガのめり込んだ壁から、パキパキと音が鳴る。


 「やっぱ、ダメか~。しゃあない、気合入れましょう。」


 壁からは満身創痍のオーガが出てきた。

 腹からは大量に出血しており、人間であれば死は免れないが、そこはモンスター、 驚異的なまでの生命力で動いているようだ。

 ただし、今にも倒れそうであり、恐らく逃げ回っていれば、その内力尽きるだろうとも思える。

 そんなオーガに対し、俺はもう一度ファイティングポーズをとる。

 なにも、カッコつけというわけではない。

 実は、左半身の感覚がなくなってきていた。

 どうも脇腹に当たった石、あれの当たり所が悪かったらしく、大ピンチってわけ。

 しかも、気功でも一部補っていたようで、全ぶっぱ気功弾でMPも空にしたので、俺の方も逃げ回っている時間がない。


 オーガに向かって進むと、オーガもまたこちらに近づいてくる。

 そして、お互いに手が届く場所まで来たときに一気に動いた。

 オーガは、既に大剣を持っておらず、素手のままだが、その右ストレートは唸りをあげて、俺に迫る。

 オーガの方が上背があるせいで、前に出ないとこちらの有効打は当たらない。

 当たったらお陀仏なのは間違いないが、それでも俺は前に進む。


 「さあ、最後の一撃だ。」


 格闘スキルの補正に全てを任せ、オーガのストレートを地面すれすれに這うように進むことでかわした俺は、渾身の右ストレートを繰り出した。

 その一撃は、オーガの腹の傷口にぶっ刺さり、オーガの口からは断末魔の叫びが聞こえる。


 オーガは仰向けに倒れ、俺もまた仰向けに倒れこんだ。

 すでに、四肢に力は入らず、限界を超えている。

 オーガの声が聞こえていたが、それもやがて聞こえなくなり、俺は勝利したことを確信した。

 

 「これで、やっと初勝利ですよ。我ながらよく頑張りました。加賀見さん、先に行って待ってますよ。少し、疲れたので、ちょっと、寝てます。」


 目が覚めれば、きっと加賀見さんが出迎えてくれる。

 そして、趣味の話をしよう。

 それがいい、そう思いながら、俺は、ゆっくりと目を閉じた。

 

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 第8回戦終了、日本に「win」の文字はなかった。



 








 









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