第11話 疑惑

 5回戦まで戦い、勝利は無し。

 この事実が、私たちの間に暗い影を落とす。

 

 ましてや、さきほどまで一緒に話をしていた仲間が、もう帰ってこない。

 それは、想像していたよりも遥かに心を締め付ける。

 そして、何も話せないまま、6回戦がスタートする。


 6回戦は、40代に見える男性で、彼の相手はオークだった。

 なぜ、オークなんだ、つい彼を呪ってしまいそうになる。

 オークであれば、川上さんにも勝機はあった。

 三人で考えた案でいけば、傷さえつけられれば何とかなったはずなんだ。

 あり得ないことを、妄想してしまうほど、私の心は疲弊していた。


 そんな時、田崎さんがぽつりと言った。


 「必ず、必ず、私たちが川上さんの言葉を伝えましょう。」


 誰に、などいう必要はない。

 彼女が大切に思っている人に彼女の言葉を届ける。

 それが、私たちができる最後のことなのだから。


 私と田崎さんが、再度闘志を燃やしたところで、6回戦が終わった。

 日本はまた、勝てなかった。


 何かがおかしい。

 そう、私は感じていた。

 なぜなら、奴は「難易度はランダム」、こう言っていたからである。

 

 なのに蓋を開けてみたら、以下の組み分けで明らかに偏りがある。

 最弱であろう、ゴブリンが最初の1回戦しか出現しておらず、他はオーク、5回戦にいたっては、オークより確実に上であろう、リザードマンが出現している。

 ・1回戦:ゴブリン

 ・2回戦:オーク

 ・3回戦:オーク

 ・4回戦:オーク

 ・5回戦:リザードマン

 ・6回戦:オーク


 「こうみると、ランダムにはとても見えないですよね。」

 田崎さんの言葉に私も肯定を返す。

 「これは、明らかにおかしい。ゴブリンが一度目しか出ないなんて、絶対に異常だ。他の国はどうなっているんだ。」


 そこで、他の国の情勢も改めて見てみると、おかしなことが分かった。

 2回戦目以降で勝利している国が激減している。

 出るモンスターを確認してみると、どの国もゴブリンが出るのは、2回戦までで、3回戦目以降で出ている国は、数か国しかなく、4回戦目以降では0である。

 これは、ランダムという言葉では到底片付けられないため、どこにいるかわからないが、私は奴に問いかけてみることにした。

 

 「神よ。この統計を見てください。明らかにモンスターの出現率に偏りがあります。これは、貴方が定めたルールに違反しているのではないでしょうか?」


 真正面から批判はできないので、奴が守るゲームの範囲での違反ということを強調した。

 奴のゲームへの執着を利用し、誘い出す魂胆であったが、ルール違反と言われたからか、奴はすぐに出てきた。


 「あれ~。なんか不穏なこと言ってると思ったら、加賀見君じゃん。どう楽しんでる。」


 その奴の言葉に、私は瞬間的に頭に血が上ったが、今はその時ではないと何とか思いなおし、再度モンスターの出現について問いかける。


 「これを見てください。明らかに出現率に偏りがあります。何か、ゲームに支障があるのではないでしょうか。」


 奴はこれに対し、ニヤッとしながら回答してきた。


 「いや~。これはねだよ。仕様。だからね、心配しなくても大丈夫。」

 

 これが、仕様だと。ふざけているのか。

 私はたまらず言葉を重ねる。


 「これが仕様ですか。そんなわけはないでしょう。これでは、後に参加する人が不利になるだけだ。これではとても公平なルールとは言えない。」

 「あ~、そこに引っかかったのか。あのね、加賀見君。僕はいつこのゲームがなルールの元なんて言ったのさ。そもそも、公平だったら、君たちを無理やり連れてきたりしないし、スキルだってもう少し柔軟に与えるでしょうよ。常識で考えてよ。」


 奴に常識と言われて、一周回って怒りが沈下したが、確かにそうだ。

 なぜ私は奴が用意したルールが公平だなんて、思い込みをしたんだ。

 最初から奴の手のひらで遊ばれているこの現状で、公平なんてあるわけがない。

 改めて、絶望の気分になっていると、奴は続けて言った。

 

 「でもね。僕が意図的に悪条件にするみたいなことは誓ってしていないからね。あくまで、ギミックととしてさ、選んだのは君たちともいえるんだよ。この状況をさ。」


 何を言っているんだ、この状況を私たちが選んだだと。

 自分たちで、ゲームの難易度をあげるなんてことを態々するわけがない。

 私は投げやりな気持ちで奴との話を切り上げた。


 「わかりました。貴方の意図でないということで。この状況を元に戻すなどもしていただけないと理解しました。」

 「うんうん。わかってくれて良かったよ。それじゃあ、引き続き楽しんでね。」


 そう言って、奴の声は聞こえなくなった。


 「結局、何もわかりませんでしたね。」


 田崎さんは、邪魔をしないようにか、口を挟まないでいてくれたが、会話が終わったとみて、声をかけてきた。


 「はい。残念ですが、状況の改善は見込め無さそうです。ただ分かったことは、この状況はやはりある程度の意図があるということです。」

 「意図ですか?」

 「ええ、神は「ギミックとして」と言っていました。つまり、こうなった原因は確かにあるんということです。」

 「じゃあ、そのギミックがわかれば!」

 「この状況を改善する手が見つかるかもしれません。」

 

 そうして、二人でホールの中を隅々まで探したが、それらしきものはなく、ましてや何を探すのかも明確になっていない状況では徒労でしかなかった。


 「何も見つかりませんでしたね。」


 田崎さんが疲れた顔で言う。

 彼はこの後の8回戦があるので、これ以上は無理をさせられない。


 「探索はあきらめましょう。もしかすると、戦う直前、直後等の限られた場面でしか関われない場所なのかもしれませんし。」


 そういうと、田崎さんも納得したようで、


 「じゃあ、私が8回戦で見つけたら、合図しますね!見つけたら、会場入り後に右手をあげますよ」


 彼は最後の晩餐だ~なんて縁起の悪いことを言いながら、またご飯を取りに行った。


 「私も取りに行くか。」

 

 そして、二人でおにぎり(具材は鮭とツナマヨ)を食べていると、7回戦目開始、そして、終了の合図がなった。


 日本はまた、勝てなかった。









 

 

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