第10話 届かない思い
#ここから、第3者視点になります。
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#川上
「は~。これはまいったわね。」
戦いが始まる前に、私はまず相手の観察をしてみた。
身長は、180cm程度、細身で全身は鱗で覆われており、尻尾まで生えているようだ。
武器は、あちらも槍。
ただ、こちらよりも長いため、正直間合い勝負になると厳しい気がする。
「まったく、神のばかやろーって感じね。」
先ほどの部屋のことが頭をよぎるが、その選択に後悔はない。
「さて、それでは小手調べからですね。」
震える体を武者震いとごまかし、空元気のため声を出していく。
まずは、相手の攻撃範囲、防御を確認するため、慎重に近づいてみる。
だが、相手はなぜか動かない。
不思議に思いながら近づき、相手の槍の範囲どころか、こちらの槍が当たるところまで近づけてしまった。
「わからないけど、倒すためには前進するしかないわよね。」
意を決して、槍を突き出す。
だが、槍はリザードマンの鱗に傷一つつけることなく、弾かれてしまった。
その後、何度か場所を変え、時には顔や目を狙ったが、それでも特にダメージを与えることはできなかった。
10分以上続け、すでに腕が上がらなくなった時に、私は気づいた。
どうして、このリザードマンは何もしないのかと、それは、私が一切の脅威にならないからであると。
その事実に気づいたときに、私は諦めてしまった。
「ああ、ここまでか。まあ、頑張った方ではあるかも。」
そして、その言葉を聞いたからか、リザードマンが動き出す。
「できれば、痛くしないでほしいな。って言っても通じないか。」
冗談で言ってみたが、なんとリザードマンは了承したかのように、頷いた。
「えっ。通じた?じゃあ、ここから見逃すとかは、さすがに無理か。どちらかがリタイアまでだから、決着はつける必要あるもんね。」
見逃すのところでは、リザードマンは首を横に振った。
その人間のような動きに、思わず笑ってしまう。
「首を横に振るで、拒否ってリザードマンでも同じなのね。さてと、本当は戦い対策だったけど、治癒術の麻酔効果試そう。まさか、介錯的な感じの時に使う羽目になるとは。とほほ」
私はスキルの治癒術の麻酔効果を最大で使用した。
これは、二人と話しているときに思い付いたもので、治癒術には痛みを和らげる効果、つまり麻酔機能みたいなものもついているのでは、という考察の元、尊い犠牲(田崎)により、実証された効果である。
ただ、最大まで使用したことはなく、恐らく眠りに入ってしまうだろうということから、敢えて誰も言わなかったが、最後の手段として考えていたものである。
自分ではなく、他人に施した場合は、眠りまではいかず、起きようと思えば、すぐに意識を取り戻すため、完全に無防備もしくは、一切を受け入れるような状態でなければ、意味はない。
麻酔は即効性のため、すぐに効いてきたようで少しうとうとしてきた。
私は、最後の挨拶をするため上を見る。
「父さん、母さん。大学まで行かせてくれたのに、ごめんね。ここまで育ててくれて、ありがとう。由美ちゃん、遊びに行く約束が守れなくて、ごめんね。仲良くしてくれて、ありがとう。加賀見さん、田崎さん、色々アドバイスくれたのに、ごめんなさい。結果は残念だったけど、意外と頑張れたのは、二人がいたからだと思います。ありがとうございました。」
そして、私の視界は閉じ、夢の中に向かっていった。
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#ここから、元の視点になります。
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「待て! 止めろ!」
どうしようもないことを分かっていながら、それども私は声を抑えられなかった。
川上さんの奮闘虚しく、攻撃が通らないことが分かった以上、こうなることは必然だ。
リザードマンが近づいているのが見える、時折首を振ったりしており、モンスターと意思疎通ができるのかと思うが、今はそんな考察に頭を使う余裕はない。
それでも、どうにかする方法がないか、必死で考える。
ただ、答えは何もできないだ。
田崎さんも、涙が止まらず、「ああ」という声が時折漏え聞こえてくる。
そうして、最後に川上さんが上を見上げて、何かを話している。
この配信は音が入っていないので、口元を必死に読み解く。
そして、すべての言葉をメモした後に、私は力なく項垂れるしかなかった。
日本、第5回戦はまたしても、敗北で幕を閉じた。
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■ゲーム リザルト
5回戦:川上 VS リザードマン
勝者:リザードマン
神の評論
「見ごたえはなかったけど、興味深い感じだったね。リザードマンが、ああいう態度をとったのは、彼が戦士しか相手にしないという信条があったからみたいだね。うんうん、モンスターもちゃんと個性があって面白いね。」
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