第9話 第五回戦開始

 4回戦も敗北し、いよいよ川上さんの番となってしまった。

 彼女は表面上は明るくふるまっているが、顔色はすこぶる悪く、無理をしているのが明白である。

 どうにかして、緊張をほぐさなくてはと、田崎さんとあれこれ話しかけてみるが、効果はあまり無さそうだ。


 そんな中で、彼女は自分の両親のことなど、身近な人の話を私たちにし始めた。

 まるで、遺言のようであるが、かといって止めるわけにはいかず、耳を傾ける。


 「私の両親は、結構放任主義でして、いろんなことに私が首を突っ込んでいっても、いつも許してくれるんですよ。困ったときにはいつも助けてくれるし。だから、いつか私もそんな両親のように、誰かを支えられるような、そんな人間になって、そしたら、両親に今までありがとうってそう、言えたらいいのにな、ってずっと思っていて。」


 そこで、彼女の言葉は途切れる。


 「まだ、あきらめるのは早いですよ。まずは、しっかりとした武器を選び、そして相手を見る。一つ一つ積み上げていけば、きっと生き残る道はあるはずです。」


 自分の言葉が軽いという自覚はあれど、それでも精いっぱい彼女をつなぎとめられるように言葉を紡ぐ。

 そうしたら、川上さんは少しだけ笑顔を見せてくれた。


 「そうですね。まずはやるべきことをやって、それでもだめならその時はその時です。」


 その後、川上さんは「だけど、もしもの時も考えておく必要はありますからね。」と言いつつ、私たちに伝言を残した。

 そして、”カラン、カラン”という音とともに消えていく、彼女を見送った。

 どうか、彼女が無事に戻ってこれますように。

 ただ、祈るだけの自分をやはり私は悔しく思う。


#ここから、第3者視点になります。

--------------------------------

#川上

 私は、加賀見さんと田崎さんが見送ってくれているのを見て、少し笑いそうになってしまった。

 だって、私よりもきっと悲壮な顔をしている。

 あんまりにも、心配そうにするから、泣きたい気分がどこかにいって逆に二人を心配してしまうぐらいだ。


 最初、声をかけるかは正直迷った。

 こんな、異常事態で知り合いもいなく、話しかけた相手が安全かもわからない。

 ただ、そんな状況で同じ日本人ということもありながらも、二人は必死に対応を話し合っていて、それがとても眩しく見えた。

 1,2回戦のリタイアした試合を見て、不安で仕方がなかった私にとって、その眩しさは思わず声をかけるには十分な輝きだった。


 実際話をしてみると、二人はゲームの対策だけでなく、ホールのどこの食べ物がおいしかったとか、全然違うことも話していて、それもまた面白かった。

 今思うと不安な私を励ますために敢えて、そんな話題をあげたのかもしれない。

 そう思うと、やはり必死になっている二人がまた面白くて、思わず、


 「戻ったら、聞いてみよう」


 そんな言葉が、口から出てきて驚いた。


 そうして、少し待っていると、武器庫についたようだ。

 目の前には、たくさんの種類の武器が置いてある。

 私は事前に決めていた通り、動きやすい皮鎧と各関節のプロテクターを選び、自分でもって少し軽いと思う槍を選択した。

 これも、相談したうえであり、加賀見さん曰く、「戦いで振り回すのだから、少し軽いくらいじゃないと継戦能力が・・」らしい。

 正直よくわからないけど、納得感はあったので、それを選ぶことにした。

 それにしても、加賀見さんは結構オタク気質だよね。

 「継戦能力が」とか普段考えないでしょうw

 ああいうのが、すんなり出てくるあたり、結構なオタクだと思う。


 「これも、帰ったら聞いてみよう。」


 ああ、話す前は生き残ることを考えられなかったのに、今は帰った後のことを色々考えている。


 そうして、装備を終えると、また別の部屋に移動した。

 そこには、一つのスイッチとその取扱い説明書のようなものが置いてあるだけの小さな部屋だった。

 

 私は、説明書きを見たときに一つの確信を得た。


 「やっぱり、あのは碌でもないで、合ってたみたいです、加賀見さん。」


 加賀見さんと神について話すときに、彼ははっきりとは口にしないが、かなり悪い印象を神にもっているように感じた。

 それも、個別に神と話したからというのだから、彼はやはり特別なのかもしれない。


 また、加賀見さんと話したいことができてしまった。

 そう思うと少し得した気分にさえなる。


 私は、取扱い説明書を置き、部屋をそのまま後にした。


--------------------------------


#ここから、元の視点になります。

--------------------------------

 川上さんが、会場についたようだ。

 事前に話をしていた通り、軽装な鎧と関節をまもるプロテクター、そして彼女の肩程度の長さ(1m30cm位)の比較的小型のものをチョイスしたようだ。

 

 彼女の相手は、トカゲ人間。所謂「リザードマン」である。


 「おいおい、何でそんな強そうな相手になるんだよ。」


 田崎さんが、不平を漏らす。

 私も同じ思いだ。


 先ほどまでは、ゴブリンが1回でオークが3回、こんな初見なモンスターはいなかった。

 他の国の戦いをみると、数か国はリザードマンが出現しており、どうして急にと驚きを隠せない。

 

 「どう思います。」


 田崎さんが、不安そうに聞いてくる。


 「あの鱗のようなものが、どの程度の防御力を持つかですね。もし、川上さんの槍がダメージを与えられなければその時は。」


 私は言葉を濁す。

 その先を言ってしまったら、きっともう後戻りはできない。そんな気がした。


 「そうですよね。きっと大丈夫ですよ。あの槍も業物に見えますし。」


 田崎さんの空元気に相槌を打ちながら、私は彼女の戦いを見守った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る