第8話 魔法の存在
二回戦目は、私と同じ三十代くらいの男性であった。
男性の対戦相手は、豚の顔をした、所謂「オーク」と呼ばれるようなモンスターである。
オークの身長は2mを超えているように見え、三十代の男性と比較すると体格差は歴然である。
特に横幅はオークの方が圧倒的であり、体重差で言えば数倍はありそうだった。
まだ、お互いの距離は50m以上離れているが、先ほどの長谷部君の最後が頭から離れず、不安なまま画面を見つめる。
まず動いたのは、オークだった。
巨体を揺らし、男性に突進するかのように進む。
画面外でも地響きを感じるような、圧倒的な前進に思わず息をのむと、男性が何かをつぶやいたように見えた。
すると、男性の手から、炎のようなものが出てきて、球状になったではないか。
「あれは、魔法?」
私のつぶやきに隣の田崎さんが反応する。
「加賀見さん、魔法ですよ!魔法!うわ、すげ~。あれは、ファイアボールってやつですよ、絶対。」
田崎さんは、大興奮である。
かく言う私もファンタジーのド定番である、魔法が出てきてテンションが上がっている。
興奮して、見ているうちに形成が終わったのか、男性の手から魔法が放たれる。
オークは、それを見て止まろうとしていたが、止まり切れず、そのままファイアボールに突っ込んだ。
すると、ファイアボールと接触した箇所が燃え上がり、そのままオークを焼いているようである。
「あれ?爆発とかはしないんですかね。燃えてるだけに見える。」
田崎さんは、疑問を口にするが、それを明確に回答できるものはいない。
「まあ、火の玉を飛ばしているだけなら、爆発はしないかもですね。爆発性の何かが仕込まれているわけではなさそうです。その場合、手元で形成したときに爆発しちゃうかも。」
私の推測に、田崎さんはすこし首をひねりながらも納得したようだ。
私もちょっと期待していただけに残念ではあるが、そう都合よくはいかないのかもしれない。
魔法により、燃えていたオークであるが、どうやら地面に転がり火を消したようで、存外賢い。
立ち上がったオーク、その顔面は焼けているが、戦闘不能なダメージは与えていないようであり、また突進を始めた。
男性は慌ててファイアボールを一回、二回と放つが、腕を使いガードをしているのか、顔の前にクロスにした腕でオークは強引に突き進む。
「あれやばくないですか。なんで、逃げないんですかね。とりあえず、避けないとあのままじゃ。」
田崎さんが口に出すが、恐らくあれは逃げないのではなく、逃げられないのだろう。
「あんな、巨体が迫ってくるんです。おそらく、あの人もパニックになっているんだと思います。なまじ攻撃できる手段があるので、それに固執してしまっているのかもしれません。」
オークとの距離はどんどん近づき、男性のMPも尽きてしまったのか、最後はファイアボールを出せずに、茫然とした様子で、オークに跳ね飛ばされてしまった。
男性はその後起き上がることはなく、日本の二回戦の負けが確定した。
「負けちゃいましたね。」
田崎さんが二回連続の敗北を嘆く。
「そう、ですね。」
私も、そう返すしかない。
魔法という神秘を目の当たりにして、もしかしたら勝てるのではと思ったが、それでも勝利は得られなかった。
二回負けた、つまり二人の命が失われてしまったという事実が、更に重くのしかかる。
そして、全ての二回戦目の戦いが終わったようで、結果がスクリーンに映し出される。
「今回は、数か国が勝利したみたいだね。このまま、モンスター全勝みたいになったらどうしようかと思ったよ。これで、世界単位の報酬はクリアだよ。やったね!」
確かに、スクリーンを見ると、A国のほかに、何か国かのプレイヤー名に「win」の文字が記載されている。
これで、世界単位はクリアしたということで、全世界にいきなり、ダンジョン、モンスターが出現するという事態は避けられた。
一年という短い時間ではあるが、猶予を与えられたということになる。
とはいえ、自分と日本の命運はまだ崖っぷちであるという現状は変わらない。
クリアした人間に話を聞こうと探したが、クリア者は別の待機場所に向かうようで、ホールには戻ってこなかった。
そして、三回戦目が始まろうというときに、私たちに声をかけてくる人物が現れた。
「ねえ。少しお話できないかしら。」
声をかけてきたのは、20代くらいであり、ショートカットの髪型と、快活そうな雰囲気の女性である。
「お話ですか。大丈夫ですよ。私は加賀見といいます。こちらは、田崎さんです。」
私が、会話の了解と、田崎さんを含めて軽い自己紹介をすると、彼女は席に座り話始める。
「ありがとうございます。私は、川上 恵美といいます。〇〇大学の四年になります。」
大学四年生か。若いと思っていたが、まだ学生だった。
高校生だった長谷部君のことが頭をよぎり、なぜ若者がという思いになる。
彼女から話を聞くと、二回連続で勝利できていない現状で彼女は五番目であり、このままでは、自分の身が守れないと考えたようで、何かアドバイスが欲しくて来たとのこと。
「私のスキルとかを教えるので、どうかアドバイスをもらえないですか?このままだと不安で。」
あまりアドバイスはできないかもしれない、と一度は遠慮するのだが、それでも良いということで彼女のステータスを見せてもらった。
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■ステータス
プレイヤー名:川上 恵美
所属:日本
称号:なし
〇パラメータ
・HP:40
・MP:15
・ATK:2
・DEF:3
・AGI:5
・DEX:6
・INT:6
・RUK:4
〇スキル
・治癒
消費MP:3
能力
身体的なケガを治療する。
病気、毒等にも多少効果はあるが、ケガの治療ほどではない。
効果は落ちるが、食べ物等にスキルを使用することでその食べ物を摂取した際に治癒効果を与えることも可能
治療の程度は、熟練度が上がることにより、程度や範囲などが成長する。
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これは、正直厳しいかもしれない。
私のスキルも防御向きに思うが、彼女のスキルはまさしく後方支援特化といえる。
1on1という今回のゲームにおいて、回復系のスキルしかないのは敵にダメージを与えることが、ほぼできないということになるからだ。
田崎さんもスキルの説明を聞いていて、思わず頭を抱えそうになっている。
とはいえ、彼女を生き残らせるためには、何とかして勝利の道筋を作らなければならない。
私は無い頭を使って、なんとかこれならという案を絞り出し、田崎さんとも相談する。
「そうですね。こうなると、いかに攻撃手段を持つかということが大事だと思います。ゲーム開始前に武器を選べるようなので、どういう武器をもつか、どう戦うかを考えた方が良いと思います。なにか、スポーツ等はやられていますか?」
私が尋ねると、少し恥ずかしそうに川上さんは答える
「スポーツだと、ラクロスを少しやってました。あまり関係ないですよね。」
ラクロスか、確かに武器とは関連は薄いが、これから進める武器とは長物という点で多少は近いかも。
「いえいえ、そんなことはないですよ。私が考えていた武器は、「槍」ですから、同じ棒を使うので、少しは扱いやすいかもしれません。」
「へえ~。槍ですか。それはどうしてですか?」
田崎さんが横から口を挟んできた。
「槍は攻撃範囲が広いですし、他の武器と比較して扱いやすいと聞いたことがあります。基本的には槍の内側に入れないように突くという動きがベースになりますから。」
そういうと、田崎さん、川上さんは感心したようにうなづいている。
「確かに、剣とかは振り方がわからないと、逆に危なそうですよね。ありがとうございます。私も槍を選んでいこうと思います。」
川上さんは、納得してくれたようだ。
一安心していると、田崎さんが縋り付いてくる。
「私のスキルは格闘なので槍は使えないじゃないですか~。加賀見さん私はどうすればいいんですか~」
縋りつかれるのを、引きはがしながら答える。
「田崎さんは、長柄じゃなければいいんですからナイフでいいでしょ。大の大人が縋り付かないでください!」
田崎さんは、引きはがされながらも何故か嬉しそうにしている。
まさか・・こいつ・・!?
「いや~。なんか加賀見さんは先輩というか、兄貴っぽいというか。そんな感じなんでつい。」
その言葉に、私は内心安堵する。
まあ、確かに年齢は私の方が上なので、仕方がないとは思うが、なんだかな。
ただ、そう言いつつも私も田崎さんに対しては口調が砕けてきているのを感じ、どうか無事に乗り切れるように、そう祈るのであった。
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