第7話 第一回戦とその顛末
#ここから、第三者視点になります。
------------------------------
#長谷部
「ここが、戦いの会場か。なんかコロシアムみたいな場所だな。」
周りを見渡すと、円形の会場となっており、俺の出てきた入口以外にもいくつか入口があり、闘技場といわれれば納得の作りだ。
「さて、俺の相手はどこかなっと。」
すると、正面の入り口から、物音が聞こえてきた、
「ギャギャ」
出てきたのは、ファンタジーの代名詞、ゴブリンのような生き物であった。
ナイフのようなもので、武装はしているが、数も一匹しかいないため、正直拍子抜けである。
「さくっと、終わらせて帰るか。これからの道筋も考える必要があるしな。」
明るい未来を妄想し、笑いそうになるが、一応命のやり取りをするわけだからと、気を引き締めて相手を倒すことに集中する。
「一気にいくぜ。「聖剣化」!」
煌めく魔力が剣を包み、その刃は輝きを増す。
こいつは、五分しか持続しないが切れ味と耐久があがるスキルだ。
しかも奥の手まである、まさに主人公らしいスキル——そう、俺はこの力で、ここを生き抜いてみせる。
――だが、現実は上手くはいかない。
「おら、当たれ、当たれってば。」
頑張って、剣を振ってみるがゴブリンにはひらひらと回避されてしまい、当たらない。
そもそも、普段そこまで運動をしないし、ましては剣なんて振ったことがない高校生が、いきなり生死をかける戦いをしている訳で、当たらない方が自然なのかもしれない。
今更、スキルだけではダメかもしれないという不安が沸き上がるが、そんなことはないと、不安を無視する。
そうこうしているうちに、三分ほど経過してしまい、俺は焦っていた。
「どうする、全然当たらない。このままだと、時間切れになるし、もう一度発動するためのMPはないぞ。」
俺のスキルは優秀であるが、今のステータスではMP5しかないため、一度しか発動できない。
そこで、イチかバチかではあるが、奥の手の「解放」で決着をつけることにした。
あえて、疲れたフリをしてゴブリンを誘い出し、近寄ってきたところを、「解放」の「範囲補正(大)」で仕留める算段である。
「そうと決まれば、早速。あ~、もう疲れたぜ。剣も振れなくなって来た~」
声にわざとらしさを込めて、剣をふらふらと振り、疲労を装う。
案の定、ゴブリンは演技に気づかず、気をよくしたように間合いを詰めてくる。その顔には、狩人のような不気味な笑みが浮かんでいた。
「(はっ。人間の知恵ってものを見せてやるよ)わ、わぁ~、来るなぁ~。」
俺は、ふらふらと剣を振り、限界をアピールする。
そして、演技に徹しながら、じりじりと距離を計る。
「ギャ、ギャギャ、ギャ」
ゴブリンは獲物が弱ったと興奮しているのか、先ほどまでと違い、鳴き声を何度かあげている。
俺は作戦が完璧に嵌まっていることに、内心笑みを浮かべながら、ゴブリンが近づいてくるのを待つ。
「(正直時間はギリギリだが、このペースなら間に合うな。)」
「聖剣化」の持続時間を気にしつつ、目の前のゴブリンと時間に視線を行き来させる。
そして、遂にゴブリンが射程に入ったところで、俺は奥の手を切った。
「今だ――「解放」!。これで終わりだ!」
放たれた一撃は、眩い光の刃となって空間を切り裂き、広がる斬撃は3メートルにも達した。
その圧倒的な力に、ゴブリンは逃げ場なく飲み込まれ、蒸気のように掻き消えた。
「これが、俺のスキル。これで俺も・・。」
勝利の余韻に浸る——はずだった。
そのとき、背後から何かが動いた気がした。
「・・え?」
振り返った瞬間、腹に鋭い痛みが走った。冷たい金属の感触、流れ出す熱。
目をやると、そこにはまたしてもゴブリンがいた。
そして、自分の腹にはナイフが深く刺さっている。
「なんだこれ?いや・・なんで・・・まだ、ゴブリンがいるんだよ。」
喉の奥で声がにごる。
どくどくと流れる血に、意識が朦朧としつつも、とにかく逃げそうとするが、人生で感じたことのない痛みにより、体はまともに動かない。
それでも、ゴブリンは近づいてきており、手には、別のナイフを持っている。
「おかしいだろ・・。さっき確かに倒したのに・・。こんなのイン・・チキだ。チートかよ・・。」
怒りと悔しさを吐き出すことしか、今の俺にはできなかった。
ゴブリンはもう目の前に迫っており、その目には哀れな獲物が映っている。
振り下ろされる鈍色の輝きを最後に、俺の視界は闇に染まった。
「ああ、何でこうなったんだ。」
------------------------------
------------------------------
■ゲーム リザルト
1回戦:長谷部 VS ゴブリン
勝者:ゴブリン
神の評論
「いや~。なかなか滑稽で面白かったよ。特に、ナイフで刺された時の顔はすごかったね。人間の知恵を見せるみたいな感じだったけど、ゴブリンの方が賢かったみたいw」
------------------------------
#ここから、元の視点に戻ります。
------------------------------
戦いが終わった。
私は、まだ信じられない。
長谷部君が、ゴブリンが背後に回り込んでいたことに気づけなかったなんて。
最後の長谷部君の攻撃時に、彼は一瞬ゴブリンから自分の光の刃に視線を移してしまった。
その時に、ゴブリンの姿が霞んだようになり、その場にいるゴブリンと素早く長谷部君の視界から外れ背後に潜んだゴブリンに分かれたようだった。
そして、長谷部君の光の刃は、その場に残ったゴブリンを消し飛ばしたが、背後からの一撃で倒されてしまった。
あれは、ゴブリンのスキルのようなものだったのかもしれない。
幻影のようなものを作る能力——それが、勝敗を決した。
配信では全体が見えていたが、当事者にとっては、初めての戦い。
緊張から視野狭窄に陥った可能性は高い。
命のやり取りという現実を、彼はあまり実感できていなかったようだった。
でも、前向きに戦おうとしていた彼を、私はどこか安心して見ていた。
——でも、長谷部君は普通の高校生だったのだ。
不安も、恐怖も、きっとあったはずだ。それを押し殺していたのだと、いまになって気づく。
もっと話をすればよかった。もっと、心に寄り添っていれば・・そんな後悔が、胸を締めつける。
そのとき、空間から奴の次のアナウンスが響いた。
「うんうん。一回戦目は目新しくて面白かったね。まさか、誰もクリア者がいないとは、ちょっと予想外だったけど。まあ、二回戦目の参加者は、こちらです!後、面倒になってきたから、これからの順番も出しちゃいます。はい、ドン!じゃあ、五分後に開始するからね」
私は、そのアナウンスを聞いて慌ててスクリーンを見る。
一回戦の結果が並んでいる——そのすべてに、冷たい”LOSE”の文字が刻まれていた。
「まさか、全敗なんて・・。」
絶望が心を染める。
それでも、私が現実を思い出す。
——ここに連れて来られたのは、戦いなど知らない普通の人々だということを。
本当に、誰かがこの試練を乗り越えられるのだろうか——そんな不安が、静かに広がっていく。
「加賀見さんは、最後みたいですね」
力のない声で、田崎さんが隣に座った。
誰かと話したいと思っていた私は、その声に、少し救われる。
「田崎さんは、八番目ですか。長谷部君はその、残念でしたが、私たちも自分の命を大事にしないといけないですね。比較的時間があるので、どういう戦い方にするかよく検討して臨む必要があると思っています。」
勝者なき一回戦、響く敗北の記録。
それでも、二回戦はすぐそこまで迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます