第6話 ”ゲーム”開始
このまま、ゲームを始めようとする奴に、流石に黙っているわけにもいかず、声をあげようとすると、ほかの人からも一斉に抗議の声がでる。
「いや、君たちに選択権なんか無いよ。」
奴は抗議の声を受けて、めんどくさそうに続ける。
「そもそもさ。何で要求が通ることが当たり前みたいになってるのかな。これはね、僕のゲームなんだよ。君たちは僕を楽しませるために、頑張ってくれればいいわけ。力の強い方が正義、これ君たちもそうでしょ。」
それでも、抗議の声は止まらない。
それはそうだろう。
勝手に連れてこられた上に、命まで握られて、さらに家族、友人の命まで危ないとなれば、黙って従う人なんていない。
現代の民主主義において、主義主張を述べることは当然の権利であり、特に欧米の国出身と思われる人からは、罵倒に近い抗議が上がっていた。
すると、収まらない群衆に対して奴は言う。
その口調から感じる感情は明らかにイラついているようだった。
「じゃあ、今から抗議した人はリタイアにしようか。うるさいし。」
その瞬間、とてつもない悪寒を感じた。
奴の口調から、今まで感じていた楽しげな雰囲気は消えて、機械のような冷たい発言に変わる。
最初から、こちらを見下すというか玩具にしか見ていないような口調ではあったが、今は完全に興味が消えたような感じだ。
その変化に、思わず黙る人が大半であった。
それでも、気にしないのか鈍感なのか、いくつか抗議の声は上がっていた。
だが、それも急速に少なくなって、やがて静かになった。
あれだけしつこく抗議をしていた人が静かになったことに疑問を感じていると、ご機嫌になった奴が話を再開する。
「うんうん。good girlだね。少し人数が減ったけど、まだプレイヤーは十分だし、続けていこうー」
「人数が減った」その意味を、深く考えることはせず、今はどう生き残るかを最優先にしなければならない。
そう、心に言い聞かせ奴の話を聞く。
「それじゃあ、ゲームの進行なんだけど。一斉に実施すると勿体ないから、各国単位で一人ずつ進めるね。最初の人はこちら!名前のある人は、五分後に転送されるから準備してね。」
そうして、ホール中央に巨大なスクリーンが出てきて、そこに各国代表の名前が載っていた。
その名前を見て、例の高校生が「俺が一番か」とつぶやている。
その後も高校生は「これで、カーストが」とか「あわゆくば、ハーレムだって」など、思春期特有の思いが抑えられないのか、戦いの緊張とは別の興奮状態になっているようである。
まあガチガチになるよりはましかなと思いつつ、一応声をかけることにした。
「君が日本の一人目みたいだね。私は加賀見といいます。どんなモンスターが出るのかもわからない状況で、未成年の君に任せることになって申し訳ないけど、無事に生き残ってほしい。」
すると、高校生(長谷部君というらしい)は自信満々な様子で、
「いや、俺のスキルは結構チートなんで、大丈夫ですよ。おじさんも自分の番に生き残ることを心配した方がいいと思いますよ。」
確かにその通りだった。
彼は自分のスキルに自信があるようだし、どちらかというと「力学」という癖のあるスキルを持ってしまった私の方が心配されるべきかもしれない。
とはいえ、彼には生き残ってほしい。
そう思いながら、御礼を言う。
「そうか。長谷部君がそういうなら、大丈夫なのかもね。ありがとう、私も自分が生き残ることを心配しときますね。」
そういうと、長谷部君は御礼を言われて照れたのか、準備があるので、と言ってその場を離れていった。
どうか、無事に生き残ってほしい。
私にはそれしかできないことを歯がゆく思いながら、開始の時間を待つ。
その間に、田崎さんから話しかけられる。
「加賀見さん、あの高校生の様子はどうでしたか?」
田崎さんも、やはり一回戦の彼が気になっていたようである。
だが、私の心配など不要だったかもと伝えると、それに対しては、田崎さんは懐疑的なようだった。
「加賀見さんが言うなら、そうなのかもしれないですけど・・。本当に、こんな異常事態に巻き込まれて平静にいられる人なんているんですかね。」
その言葉に、私も見て見ぬふりをしていた不安が沸き上がってくる。
「そう・・かもしれませんね。もしかしたら、もっと話をしておくべきだったのかも。」
考え込んだ私に、田崎さんは慌てたようにフォローしてくれる。
「いや、俺も直接見てないんで、分かりませんよ。ただ、落ち込んだり、塞ぎ込んだりするようなマイナス方向だけが、冷静さを失うって訳ではないかなと思っただけですので。」
確かに、長谷部君の様子は、落ち込んではいなかったが、冷静とは違った気がする。
どちらかというと、極度の興奮状態でこちらの言葉もあまり届いていなかったかもしれない。
「彼ともう一度話をしてきます。まだ間に合うかも・・。」
そうして、立ち上がった私の耳に鐘のような音が聞こえる。
”カラン、カラン”
その音が聞こえると、奴のアナウンスが聞こえた。
「時間になったから、ゲーム開始だ。プレイヤー諸君、精々楽しませてね。」
すると、あちらこちらから驚きの声があがる。
一人目となったプレイヤーの体が光っているらしく、少し経つとその体が消えていった。
私は、その光景に間に合わなかったことを悟る。
「遅かったか・・。」
「加賀見さん。きっと大丈夫ですよ。少なくとも、諦めてる感じではなかったんですよね?」
田崎さんの言葉に力なく頷き、席に着く。
そうこうしているうちに、奴の説明は続いていた。
「待機中の君たちには、外の人間と同じ配信が見れるようにしておくよ。難易度は人によって違うから、モンスターはランダムだけどね。」
ホール中央の巨大スクリーンが分割されて、それぞれの画面に各プレイヤーが映っている。
長谷部君も見つかり、今は武器庫のようなところで、武器、防具を選んでいるようだ。
長谷部君は、片手剣を右手に持ち、左手は小型の盾、皮鎧を身にまとうという、意外とシンプルな構成で向かうらしい。
そして、いよいよゲームが開始されてしまった。
#ここから、第三者視点になります。
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#長谷部
俺は、長谷部弘樹。
今年で、高校二年になる。
正直俺は、学校が好きではなかった。
カースト的には、中の下という感じで、特にいじめられるということはないが、人気者というわけでもなく、パッとしない。
昨今は、感染症の関係で対面で話すことよりも、スマホを介した会話も多く、そこでも俺は話題の中心になることはなく、いつも相槌を打つ、モブでしかなかった。
ある日、学校の帰り道にいきなり目の前が真っ暗になって、気が付いたら、神とか 名乗る奴のゲームに参加していた。
命の危険があるらしいが、そんなことよりも、俺はスキルに興奮した。
俺の、俺だけの特別だった。
きっとこのスキル(聖剣化)があれば、俺は主人公になれる。
「ああ、これが俺の新たな人生の幕開けなんだ。」
俺はこれからの、明るい未来を思い描きながら、ゲームの会場へと足を進める。
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■ステータス
プレイヤー名:長谷部 弘樹
所属:日本
称号:なし
〇パラメータ
・HP:45
・MP:5
・ATK:6
・DEF:6
・AGI:4
・DEX:3
・INT:3
・RUK:3
〇スキル
・聖剣化
消費MP:5
能力
対象の剣を、「聖剣」とする。
持続時間は、5分。熟練度によって持続時間は伸びる。
「聖剣」となった剣は、「切断補正(大)」、「耐久補正(大)」を取得し、1回の発動中に一度だけ「解放」を使用できる。
・解放
消費MP:なし
能力
「聖剣化」中の剣を所持している場合のみ発動可能。
「聖剣化」を解除してしまうが、高威力の光の剣を具現化し、振るうことができる。
「威力補正(極大)」、「範囲補正(大)」を取得。
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