第2話 奴との邂逅

 「一体、何が・・?」


 慌てて周りを見渡してみると、先ほどまでの太陽照り付けるコンクリートジャングルはなくなり、黒一面の空間にいるようだった。


 「こんな・・。あり得ないだろ。まさかドッキリとかか?」


 一瞬で目の前の景色が切り替わる。

 そんな非現実な状況に、心の中では違うと確信しつつも、動揺が抑えきれずに願望込みの言葉が出てしまっていた。

 だが、現実は変わらず、目の前の光景が元のコンクリートジャングルに戻ることはない。


 「現実逃避をしている場合ではないか。まずは連絡を取らないと。」


 とりあえず、矢上と連絡を取ろうと、スマホを取り出す。

 だが、電波は圏外となっており、使用はできなさそうでる。

 当然、GPSも機能しておらず、現在位置も不明となっている画面を見て、がっくりと肩を落とす。


 「はあ~。ひとまずは、現状把握をしたいけど、現在位置もわからないんじゃ、どうしようもないな。」


 遭難時は、できるだけその場を動かずに救助を待つ方が良いと聞いたことがあるが、この景色と状況がその判断で良いのかと迷いを生む。

 今置かれているこの非現実的な状況が、とても通常の遭難とは思えないのだ。


 そもそも、ことは、明らかにここが普通の場所ではないことを表している。


 混乱する頭を冷やすためにも、少し様子をみようと、休憩することにする。

 そう思い、腰を下ろそうとしたが、踏ん張り切れずに尻餅をついてしまった。


 「これは・・。思ったよりも、緊張しているな。」


 自分が思っているよりも、この異常事態についていけていない・・。

 気づけば、緊張によるものか、体の強張りを強く感じていた。


 「ははっ。この年になって、こんな醜態をさらすとは、人生何があるか分からないもんだ。」


 私は、恐怖を紛らわせようと、敢えて軽口を叩く。

 だが、心臓の音はうるさいぐらいに聞こえており、全く落ち着けていないことを物語っていた。


 「とりあえず、深呼吸だ。状況把握と連絡手段の確保、後何が必要か、冷静に導けなければ、終わりだぞ。」


 どうにかして現状を把握して、連絡手段を確保しなければ、命にかかわる可能性すら十分にある。

 その時、私はあることに気づく。


 「そういえば、持ち物の確認すらしていない・・。どれだけ緊張しているんだ、私は。」


 慌てて、現在の持ち物を確認したら以下となった。


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■持ち物一覧

・スマホ(充電有) ※圏外

・腕時計

・リュック ※仕事用の少し大きめのやつ

・水(500ml) 2本

・ゼリー飲料 1個

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 私は、心許ない内容物をみて、肩を落とす。


 「これじゃ、数日と持たない。早いとこ外にでるか、救助が来てくれないとまずいな。」


 水だけは、熱中症対策のために二本ほど持っていたが、食料はゼリー飲料一つしか入れていなかった。

 節約したとしても、もって二~三日だろうと思われる。


 外に出るために動くか、救助を待つか。

 私の現状、スペック、そして優先すべき事項。

 それらを総合して、私は判断を下す。


 「待つか。」


 決断は”待つ”ことにした。

 少なくとも今日一日は、様子見をした方が良いという判断である。

 この状況が、どこかの諜報機関の拉致なのか、超常現象なのかは不明であるが、もし何かであるならば、必ず接触があるはず。


 こちらの意志を完全に無視する相手が友好的とはとても思えない。

 いざというときに逃げる体力を温存したいと考えた結果、待つことにしたのである。


 いざ方針を明確にすると、緊張も和らぎ落ち着いてきたようで、改めて周りを見渡してみることができた。


 「本当に黒一面という感じだな。そもそもどうやって見えてるんだ。」


 全方位見てみたが、光源となるものはなく、建物も見当たらない。

 そうして、しばらく観察していたが、何者かの接触もイベントも何も起こらなかった。


 「これは、暇だな。体力温存のためには、横にでもなるかな――。」


 安心するべき材料は何もないのだが、人間、横になると、なぜだか瞼が重くなる。

 というよりも、一般人の私には緊張をし続けるということがそもそも無理であり、横になるという行動を取ったことにより、半強制的に緊張が解けてしまったようだ。


 「寝てはまずいと思うのだが、かといって体力を無駄に消費するのもな。」


 何もすることがないため、リュックを枕にしながら上を眺めて続ける。

 ここまで、無防備にしていても、何も起きないことから、やはり襲撃などはないと判断しても良さそうである。

 素人判断であるが、安全と思い込んだ瞬間に、一気に疲れが押し寄せる。


 考えてみれば、今日は炎天下の中で、移動により疲れが溜まっていた。

 そこに来て、この拉致からの緊張の時間により、疲労をかなり感じる。


 「いや・・、だからと言って、ここで・・寝るのは・・。」


 ハッと目を覚ますと、いつの間にか眠っていたらしい・・。

 恐る恐る、時計をみたら、六時間程たっており、まさかの爆睡してしまっていたようである・・。


 「まじか、ここで寝られるのは、ちょっとヤバいだろ(笑)」


 流石にこの状況で、寝てしまえたことには、自分のことながらアホ過ぎて、笑ってしまう。

 

 「はははっ!ここで寝るとか、笑えるww」


 だが、そこに自分のものではない笑い声が混じっていることに気が付く。

 ぎょっとして、すぐに飛び起き、辺りを警戒する。


 すると、笑い声は収まり、何かが話しかけてきた。


 「いや、まさかこの場面で寝るとは恐れ入ったね。他の人間も色々な反応をしているけど、君ほどにユニークな動きをするのはそういないよ。」


 声はすれども、姿は見えない。

 声の感じからして、すこし子供っぽいような気がするが、逆にこんな場所にいる子供の方が異常なので、より警戒心が高まる。


 恐る恐る、こちらからも丁寧に声をかけてみる。


 「この場面で、声をかけてきたということは、貴方は私をここに連れてきた人と関係があるのでしょうか。良ければ、現状の説明等いただけないですかね。」


 「うーん、まあ面白かったから、教えてあげるよ。君をここに連れてきたのは、僕だね。そしてここは、君が元居た空間とは隔離されている。理由はいくつかあるんだけどね。こんな説明で良いかな?」


 いいわけがない。私は更に質問を重ねる。


 「申し訳ないのですが、もう少し詳しくご教示ください。例えば、私は元の場所に返してもらえるのか。貴方の目的は何か。そもそも貴方は何なのか。」


 少し間があってから回答がある。


 「僕が何か・・ね。ははっ!例えば、人ではないって思っているのかな?」


 その不気味な質問に対して、踏み込んで聞くか迷う。

 だが、ここで臆したところで事態は好転しないと腹をくくり、思い切って聞いてみた。


 「それはわかりません。ただ、こんな非常識な空間を用意できること、そして貴方が先ほど「ほかの人間も」という言葉を使用したので、貴方は「人間」以外ではないかと、思っただけですね。」


 「なるほどね。推理としては、あてずっぽうだけど、結果としては合ってたね。そう、僕は「人間」ではないね。」


 「では、貴方は・・」


 私の言葉を遮るようにはその名前を口にした。


 「僕はね、君たち風に言うとってやつだ。」


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