第2話 奴との邂逅
「何が起きたんだ。」
慌てて周りを見渡してみると、先ほどまでの太陽照り付けるコンクリートジャングルはなくなり、黒一面の空間にいるようだった。
「一瞬で場面が変わるとか、あり得ないだろ。まさかドッキリとかか?」
心の中では、違うと思いながらも、動揺が抑えきれずに願望込みの言葉が出てしまう。
とりあえず、矢上と連絡を取ろうと、スマホを取り出すが、電波は圏外となり使用はできなさそうであり、GPSも機能していない画面を見て、がっくりと肩を落とす。
「ひとまずは、情報把握をしたいが、現在位置もわからないんじゃどうしようもないぞ。」
遭難時は、できるだけその場を動かずに救助を待つ方が良いと聞いたことがあるが、現状は通常の遭難とは異なるように思える。
そもそも、光源が見当たらないのに、周りが黒い空間であると見えることは、明らかにここが普通の場所ではないことを表している。
ひとまずは、少し様子をみるため休憩することにしたが、腰を下ろす際に尻餅をついてしまった、
「思ったよりも、緊張しているな。」
自分が思っているよりも、この異常事態についていけていないらしく、体の強張りを強く感じる。
どうにかして現状を把握して、連絡手段を確保しなければ、命にかかわる可能性もある。
「そういえば、持ち物の確認すらしていないぞ。どれだけ緊張しているんだ、私は。」
慌てて、現在の持ち物を確認したら以下となった。
・スマホ(充電有) ※圏外
・腕時計
・リュック ※仕事用の少し大きめのやつ
・水(500ml) 2本
・ゼリー飲料 1個
「早いとこ外にでるか、救助が来てくれないと、これじゃ、数日と持たない。」
水だけは、熱中症対策のために2本ほど持っていたが、食料はゼリー飲料1つしかなく、もって2~3日だろうと思われる。
外に出るために動くか、救助を待つか、どちらにするにしろあまり時間はなさそうであり、決断が必要な場面だと感じた。
「待つか。」
決断は”待つ”ことにした。
少なくとも今日一日は、様子見をした方が良いという判断である。
今回のこれが、どこかの諜報機関の拉致なのか、超常現象なのかは不明であるが、もし意図的な何かであるならば、必ず接触があるはず。
相手が友好的とはとても思えないので、いざというときに逃げる体力を温存したいと考えた結果、待つことにした。
いざ、方針を明確にすると落ち着いてきたようで、改めて周りを見渡してみることができた。
「本当に黒一面という感じだな。そもそもどうやって見えてるんだ。」
全方位見てみたが、光源となるものはなく、建物も見当たらない。
特に何も起きることはなく、正直、何もすることがないため、リュックを枕にしながら上を眺めていたら、どうやら寝てしまったようだ。
時計をみたら、6時間程たっており、ここで爆睡できるメンタルは自分のことながら、笑ってしまった。
ひとしきり、笑っていると、そこに自分のものではない笑い声があることに気が付き、すぐに飛び起きて辺りを警戒する。
「いや、まさかこの場面で寝るとは恐れ入ったね。他の人間も色々な反応をしているけど、君ほどにユニークな動きをするのはそういないよ。」
声はすれども、姿は見えない。
声の感じからして、すこし子供っぽいような気がするが、逆にこんな場所にいる子供の方が異常なので、より警戒心が高まる。
恐る恐る、こちらからも丁寧に声をかけてみる。
「この場面で、声をかけてきたということは、貴方は私をここに連れてきた人と関係があるのでしょうか。良ければ、現状の説明等いただけないですかね。」
「うーん、まあ面白かったから、教えてあげるよ。君をここに連れてきたのは、僕だね。そしてここは、君が元居た空間とは隔離されている。理由はいくつかあるんだけどね。こんな説明で良いかな?」
いいわけがない。私は更に質問を重ねる。
「申し訳ないのですが、もう少し詳しくご教示ください。例えば、私は元の場所に返してもらえるのか。貴方の目的は何か。そもそも貴方は何なのか。」
少し間があってから回答がある。
「僕が何かか、人ではないって思っているのかな。」
最後の質問は、聞くか迷ったが、ここで臆するわけにはいかないと思い、思い切って聞いてみた。
「それはわかりません。ただ、こんな非常識な空間を用意できること、そして貴方が先ほど「ほかの人間も」という言葉を使用したので、貴方は「人間」以外ではないかと、思っただけですね。」
「なるほどね。推理としては、あてずっぽうだけど、結果としては合ってたね。そう、僕は「人間」ではないね。」
「では、貴方は・・」
私の言葉を遮るように奴はその名前を口にした。
「僕はね、君たち風に言うと神ってやつだ。」
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