神の遊び場
@yutomoto
第一章 「崩れ落ちる日常」
第1話 プロローグ
私の名前は、「
しがない三十歳のサラリーマンである。
「こつこつ真面目に」、「生きるために仕事」を信条としているからか、サラリーマンとして仕事と家の往復生活でも辛いなと感じることは少ない。
むしろ、変化がない生活というのはストレスも少ないため、楽とさえ言えるのかもしれないなんて思ってたりもする。
まあ、三十代に突入したため、そうした熱量の高い気持ちがなくなりかけているのかもしれないが・・。
これを読んでくれている皆には興味ないだろうが、休日の趣味は少し高級な店に食事に行ったり、アニメやラノベを鑑賞するそんなインドア勢である。
まあ、自分語りはこの辺にしよう。
これから話すのは、こんな愛すべき退屈かつ平凡な生活が奴のせいで、一変してしまった。
そういう話である。
--------------------
「暑い、暑すぎる。このコンクリートジャングルめ。」
私は思わず悪態をついてしまうが、それも仕方がないだろう。
季節は八月に入ったばかり、じりじりと照り付ける太陽がアスファルトを焼き、反射された熱が全身を包んでいた。
「なんで今日みたいな日に、外に出ないといけないんですかね。普段はクーラーの効いた室内でデスクワークしてるのに。」
そう横でぼやくのは、四つ下の後輩の「矢上」である。
矢上は、先ほどから数分に一度のペースで愚痴を言っているのだが、その気持ちも良くわかる、わかるのだが。
「そんなこと言ったって、しょうがないだろ。誰かはやる必要があるんだから。」
正直、私もぼやきたいのだが、後輩の手前ありきたりなセリフを吐く。
「ほら、頑張れ。多分もう少しで現場に着くはずだぞ。」
そして、適当に相手をしながら、足を今日の現場へ向けて懸命に動かす。
本日は出張込みの仕事であったため、いつものクーラー完備の部屋から追い出され、仕事場に向かう必要があった。
「あ~あ、いっそ仕事がなくなるなんてことないですかね。歴史的な大事件が起きるとかしないかな~」
矢上が、物騒なことを言い始めた。
軽口だとしても、言って良い事と悪い事があるだろうに。
「そんな事になるのは、大災害ぐらいだろうが。むしろもっと大変になるだけだと思うけどな。」
私の注意に流石の後輩もばつが悪そうに弁解を始めた。
「確かに、そうかもしれませんけど・・。でも、こう、毎日同じような仕事をして生きてるだけなんですよ。それが、虚しくなる時があるじゃないですか。」
虚しいか。
人生を嘆いている後輩に対して、私は自分の見解を述べた。
「いや、平凡な生活は大事なことだろ。命の心配が基本不要な生活はすごいことなんだぞ。」
この現代であっても、ふと世界をみれば日々の生活すらままならない人たちがいて、何人もが命を落としている。
そんな気持ちを込めてみたのだが――
「まあ、先輩は「生きるために仕事」が信条の人ですからね。必要だからで黙々とこなせるのは結構尊敬してますよw」
矢上からは、軽い説教位にしか伝わらなかったようで、逆に軽口が帰ってくる始末である。
なら、別口で応戦するか。
「何か、尊敬されてる気はしないな。今日の帰りに肉でも奢ろうと思ったが、別の後輩といったときにするか。」
私がわざと悲しそうにすると、矢上は途端に慌てた様子になる。
「いやいやいや、こんな健気な後輩を連れてかなくてどうするんですか!ホント、尊敬してますって。先輩の選ぶ店はちょっと高いけど、めちゃめちゃ美味いから、楽しみです!!」
やはり、鞭より飴だな。
私は、一気に態度を改めた後輩に対して、呆れながらも、まあこんなものかと思い直し、肩をすくめる。
「調子のいい奴だな。まあ、夏バテされても困るし、今日はちょっといい所にするか。」
なんだかんだで、私の数少ない趣味の一つである、おいしい店探しを誉められ悪い気はしないので、素直に奢ってやることにした。
「よっしゃー!サクッと仕事終わらせて行きましょ~」
矢上はテンションが上がったらしく、どんどん先に行ってしまう。
相変わらず調子の良いことだが、彼が会社に入ってから、なんだかんだ面倒を見てきたので、可愛い後輩という感じがしてしまい、つい甘くなってしまう。
あまり甘やかすと、この先別の人間と組んだ時に辛くなることがあるので、本当は良くないんだがな・・。
そんなことを思いつつ、大分先に行ってしまった矢上に叫ぶ。
「おいおい、そんなに急ぐと余計な汗かくし、体力使うぞ!というか、先に行きすぎだ。まだ、仕事まで時間あるんだから、ゆっくり行こうじゃないか。」
私は、照り付ける太陽の下では、出来るだけ体力を使いたくないので、ゆっくり進むことを提案する。
「それにしても、上司もタクシー禁止とか、なんて酷いんだ。経費削減とか・・、いや、分かるけども!!」
昨今の不景気によって、経費の使い方もかなり厳しくなっていた。
タクシーの移動も基本的には認められず、自腹か歩きかの二択を迫られていており、結局歩きを選択したのである。
そのため、これでも駅から三十分近く歩かされていて、中々疲労が溜まっているのであった。
悲しいことにアラサーになり、体力的にもそんなに自信がなくなってきた今日この頃。
辛い・・。
そんな私に対して、矢上が先の方からとんでもないことを言う。
「大丈夫ですよ。まだ若いですからね!先に行って待ってますから。」
あいつ、なんてことを言ってくれるんだ!!
私は、夜の飯について、あいつだけデザート無しだな、なんてしょうもないことを考えながら返答する。
「わかったよ。後から行くから準備しててくれ。」
そうして、矢上がビルの角を曲がって見えなくなり、私も向かおうとしたとき、世界が反転したかのように目の前が真っ暗になった。
------------------------------
作者コメント
初投稿になります。
自分が書きたい事優先なので、流行りとは異なるかもしれませんが、少しでも楽しんでもらえたら幸いです。
★や、応援は励みになりますので、いただけた方々ありがとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます