第2話 ユニコーンにF×××。


 倒れてバラバラに散らばった。

 人間が3センチ程度の立方体に分割されて、地面のアスファルトの上に散らばった。現実ならあり得ない事だ。正真正銘の現実ならば起こり得ない。


 一瞬、佐伯の脳裏にあり得ない発想が浮かぶ。

 もし本当にここがゲームの世界なら、どうだ。

ゲームのような仮想現実バーチャルリアリティーなら、どうだ。

全ての人間がNPCのようにプログラムされただけの存在なら。


「もしもし」


 猟奇的殺人現場を前にして考え込む犯人――またの名を佐伯。その前で、ロッカーのドアが開く。

 その小さすぎるドアの中から、声が響く。


「そこ、動かないでもらえますかね?」


 ロッカーの中の"顔"がそう言う。

 どういう訳か、ロッカーの中に人間が詰まっていた。ギチギチだ。


 これまた、どういう訳か。その人間はロッカーの中から、銀色の銃を持った右の手を引っ張り出して、こちらに突き出す。


「今から、あなたを殺すんで」


 オモチャみたいな銃を右手に脅す、ロッカー男。

 これは殺人現場に似合わない茶番だ。

なんという道化なのか。


「あるいは、"構成コード"をよこしなさい」


 何が"あるいは"なのか、佐伯には分からない。

 けれど、そんな意味不明な状況は更に悪化する。

マンホールの蓋の上をコツコツと歩く靴音の後に。


「きゃあああぁッ!」


 偶然、通りかかった通行人が叫び声を上げた。

 死体のような立方体の群を見つけたのだ。


 当然の出来事だった。ここは渋谷なのだ。

 日本でも指折りの人混みが出来る街である。

そんな所で殺人が起きれば、即時発見される。

それでもって殺人犯は、即時通報、即時逮捕、即時に公開処刑。


 だが、実際に処刑されたのは殺人犯ではない。


処理エクスキュートしろ」


 目撃者の女性。ゆるくパーマのかかった髪に、白いワンピースに黒く小さなジャケットの今時コーデな女性。

 彼女の背後の分厚いマンホールの蓋が開く。

その仄暗いマンホールの穴の中から、巨大な腕が出て来る。雑居ビルくらいの長さで、デパートの連絡通路くらいの太さの、生々しい人間の男の腕。


 その腕が彼女を引きずり込んだ。

 マンホールの中に引きずり込んだ。

その後に、くちゃくちゃ――と音が聞こえる。

何かが肉を咀嚼する音。


「うわあああああぁあああッ!」


 今度は佐伯が叫んで、ノートパソコン小脇に走り出す。

 その後ろで、ロッカーから男が出て来る。

青い作業着の男。そいつが右手の拳銃を向ける。

佐伯を殺そうとする。


「警察……警察ッ!」


 佐伯は叫びながらに、スマートフォンを胸ポケットから取り出す。

 左の腋の下にパソコンを挟んで、右手でスマートフォンを弄る。

スマートフォンの画面を点けると、その一杯にvtuberの姿が映る。ここに来るまでに見ていた娘、電子美少女アノンたんの動画が映る。


「アノンたん……クソッ……この腐れビッチ! お前の動画のせいで、こんな事に! 死ね! 彼氏作ってユニコーンにF×××されろッ!」


 泣き叫ぶ佐伯。

 推しからの反転アンチになり掛けた化け物童貞。

その耳を青い閃光が掠める。ロッカー男が拳銃から放ったレーザー。


「諦めなさい。“鳴神なるかみ工兵社こうへいしゃ”に敵うと思っているのか」


 そう言い放つ、ロッカー男。

 その後ろで、散らばった立方体が一つに集まり、数列だった男が立ち上がる。さっき佐伯が殺した男が復活する。


 そして、男だった者は大きく口を開けた。

 顎が裂けるくらいに大きく、首まで裂けるくらいに大きく、アングリと。


「あ?」


 次の瞬間、ロッカー男は丸呑みにされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

World Hack!= ~この世界;が仮想現実なら、殺りたい放題しても良いですか? 松葉たけのこ @milli1984

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ