第7話「色欲の王」

別荘について弁償はどうするか。

事が済んでから三日が経過している。


「良いよ。僕、別にこの別荘に愛着は無いから。それより改めて名乗ろう。

僕は七柱の悪魔が一柱、色欲の王アスモデウス」


アスモデウスはザガンを古くから知っているらしい。今では冷静沈着でも

ザガンも悪魔らしい残虐な一面を持っていたとか。だから彼が人間を保護したと

知って驚いていた。それだけ長い年月が経っていたという事か。


「君の事も知ってるよ、ベヒーモス君。君も昔は随分暴れてたらしいね」

「…あんまり掘り起こさないでくださいよ。反省はしてるんですから」

「そのようだね。その首輪を見る辺り。意地悪しようと思ってしてるわけじゃ

無いんだ。気分を害したのなら謝るよ」


穏やかな悪魔らしい。本題に入る。レイラが魔界に迷い込んだこと。人間界へ

戻る方法。だが今まで前例が無いため、戻る方法には皆目見当がつかない。


「ごめんね。僕の事を頼ってくれたみたいだけど」

「良いんです。来ることが出来たから、きっと戻る方法だってあるはずですし」

「僕が知らないだけかもしれない。他も当たってみると良いよ。何時でも力に

なる。頼ってね」


アスモデウスも魔界と人間界を行き来するような方法も術も知らないらしい。

彼は手を差し出した。


「僕も君が元居た世界に戻る方法を調べてみるよ」

「ありがとうございます、アスモデウス様」


そう呼ぶと彼は苦笑した。


「僕の事はアスモデウス、それで構わない。君とは対等でいたいから」


彼の手を握る。すると指輪が光り出した。この指輪は不思議な力があるようだ。

用途は悪魔を使役する、そのための触媒らしい。アスモデウスとザガンの

使役の為に動いたらしい。だがレイラはそんなことはしないと拒否した。


「…そう言う事か」


アスモデウスはザガンにだけ話があるといってベヒーモスとレイラは外に

締め出された。レイラは眠そうだ。それに気づいたベヒーモスはレイラに

声を掛けた。


「徹夜でしたし、寝ても良いんだぞ」

「うん…ごめんね」


レイラは壁に寄り掛かって目を閉じた。すぐに眠りについた。熟睡だ。

華奢だ。改めてみるとそう思う。ベヒーモス、荒れていた。なりふり構わず

喧嘩を吹っ掛け、時には殺すことも厭わなかった。ある日、ザガンに喧嘩を売り、

そして何も出来ず惨敗した。反省はしている。



部屋の中ではアスモデウスがレイラについて話していた。別荘にあった鏡はもう

処分した。邪魔くさいと思っていたし、既に傷やひび割れがあった。


「レイラちゃんは転生者かもしれないね。そう思って、彼女を保護

したんじゃないのかい?」

「…」


レイラの前世は、七十二柱の悪魔を使役していた人間の王、名前をソロモン。

鏡が映していた男の姿は生前のソロモンの姿だろう。


「その話はもう良いだろ。必要になれば明かす。それで、あの悪魔は

どうなったんだ」


グラシャラボラスは後に逮捕され、監獄行きになったらしい。未だにアバドンに

ついては口を割っていない。厳重に監視されているので悪さは出来ないだろう。


「他の六人もそのうち動き出すさ。さっきの光、ソロモンの魔力を感じて

表舞台に戻って来るかもね」

「そうか。今回はありがとう、アスモデウス卿。レイラの事はこちらで

しっかり見ておくよ」

「君も変わったね。良い方向に」


悪魔アスモデウスと繋がりを持った。彼から自分も調べておくという言質も

貰った。心強い。レイラたちは他の七柱の悪魔たちを探しに行く。



別の場所では悪魔が策を練っていた。送り込んだ刺客が、手駒が消えた。


「姿を現したと思ったら、平和ボケしてやがるな。それに比べれば、暴食と

強欲は俺と同盟を結んでくれるはずだ。憤怒は面倒だな。義理がどうこうずっと

言っている。嫉妬は上手く言いくるめられるだろう。問題は怠惰か。アイツは

どっちに転がるか分からねえし、傲慢に至っては明言してるし…」

「楽しそうにしてるじゃないですか」


他の悪魔が指摘した。


「楽しいに決まってる。世界征服の真っ最中だぞ?俺は魔神になり、魔界をかつての

渾沌とした世界に変える。元に戻すだけなのに反対するなんて、阿保らしい」


悪魔バアル、混沌としたかつての魔界を再び蘇らせるために魔界を統治しようと

企んでいた。今の魔界の在り方に不満を持つ悪魔たちを集め、アバドンという組織を

作り出していた。そしてレイラが魔界に迷い込んだ原因でもある。


「邪魔な悪魔どもだ。アイツらだって昔は誰もが恐れる凶暴な獣だった」



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魔界探偵ファウスト 花道優曇華 @snow1comer

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