第6話


「今回は重力魔法について考えようか」


「師匠。師匠は納得して毎回話を終わらせますけど、私は全くもって理解出来ないこと、謎ばかりが増えて行くのですが?」


「まず、重力とは何だと思う?」


「……はぁ。重力ですか?それは、地面に引きつけられる力。のことでしょうか?」


「まぁ、半分正解。かな?重力っていうのは、質量をもった物質が引き寄せる引力と、星が回転しているせいで発生する遠心力を合わせた力をを重力と呼びます」


「つまり、星が持つ引き寄せる力と、星の回転で生まれた吹き飛ばす力を差し引いた時の、私たちが星に留まる力。ということですか?」


「そんな感じ。たぶん」


「なんですか?その曖昧な同意は」


「で、重力魔法と言えば、軽くなって浮いたり、重くして足止め、或いは筋トレするでしょ?」


「筋トレは、聞いたことありませんね。そもそも扱える人も少ないですし」


「じゃあ、まず、重くすることから考えよう」


「はい」


「体を重くするには恐らく、三通りある。何だと思う?」


「そうですね……。では、先ほどの話を元に考えると、星の引き寄せる力、引力を弱める方法。星の回転で引き離す力。遠心力を高める方法。そして、私たちが止まる力。体重を軽くする。とかどうでしょう?」


「正解。つまり、引力が遠心力、そして質量のいずれかを弄ればいい」


「師匠。何となくではわかるのですが、質量とは何ですか?」


「質量っていうのは、物を動かしにくくする力であり、引力でもある物、かな?」


「……質量が引力、ですか?」


「そうだよ。引力っていうのは、質量を持つ全ての物質に備わる力、らしいよ」


「つまり、私が師匠に惹かれるのは、質量があるから。ということですか?」


 そう言いながら少しずつ青年との距離を縮める少女。


「それで、まずは引力から考えよう。まず、魔法で世界の引力を、つまりは質量を増やすしてみよう。するとどうなる?魔法を当てたい対象。どころか、全人類、いや、全物質がより強く地面に抑えつけられることになるだろう。もしかしたら月や隕石なんかも引き寄せられたりして」


「前回の時間魔法もそうですが、まず、そんな魔力を用意すること自体が難しいですね」


「そうだね。これじゃあ想像している重力魔法とは程遠い。対象も選べないし。では次に、遠心力を無くしてみよう。遠心力は引力の300分の1らしい。これは赤道で感じることの出来る最も強い遠心力で、北極、南極ではほぼ0に近い数値とのこと。これがどれくらいの力かというと、赤道で50Kgの人間が、北極や南極では49.75Kgまで、体重が減るらしい」


「……ほとんど変わっていませんが」


「だね。仮に赤道で自転を止めても、ほぼ重力の変化は感じないだろうし、北極や南極だと、変化なんてないようなもの。でも、そうだなぁ。赤道にいた人は自転が急に止まると時速1700kmで自転方向に飛ばされることになるから、違う変化は感じることが出来るだろうね」


「そういえば、普通に話が進んでますけど、私、世界が回転していることすら知りませんでしたからね?」


「そうなると、最後。重力魔法は相手の質量を変える力。になる訳だ」


「また相手に干渉するタイプの魔法ですか?」


「そうなるね。対象の質量が増えればその分動きにくく、つまり、重くなる。すると、加わる重力が必然的に増えるから相手は動けない。逆に、質量を減らしていくと、浮くことすら可能になる」


「なるほど。でも、師匠。よく見る重力魔法は周りの草木までぺたんこになってますが、あれは……?」


「さぁ?周りの草木の質量も増やしてるんじゃないの?魔力の無駄遣いだね。あ、それで思い出したんだけど、多分、周りの、上空の空気を操作して圧迫しても似たような現象が出来るよ。台風の時に強い風で前に進めない。みたいな感じの強いバージョン。もちろん、風は漏らさないようにしてね。そっちの方が草木まで潰れてよく知る重力魔法ぽいし、コスパもいい」


「風魔法で空も飛べますからね」


「いや、それはどうだろう?風だけで人はあんなに綺麗に飛べるのか?空気を固定して動かす。とかならまあ……。或いは、台風の風に傘を用いて体が浮くように、皮膜のような物を用意して……?いやいや」

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魔法について、現代科学で考える。 @attomaku

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