第4話ひょんなことでMっ気が目覚める
休日の土曜日の朝食は、食パンにマヨネーズを塗り、スライスした玉ねぎとコーンをのせた『マヨコーントースト』を作った。
マリナがかぷっとパンの角にかぶり付くと、サクッと音がした。
「んー! マメタリンさん天才!」
「良かったらハムものせる?」
「はい! もうどうしよ……わたしマメタリンさんから離れられないかも」
(へ? とっ、突然何てこと言うんだよ)
「マメタリンさん、何かお顔が赤いですよ。まさか! お熱あるんじゃ!」
マリナの顔が近づいてきて、おでことおでこが、こっつんこ!
(ひょえー!)
「やっぱり少しお熱ありますよね?」
「だっ、大丈夫! 牛乳飲めば治るから!」
俺は接近戦にすこぶる弱い。
◇
「食器洗い完了です! マメタリンさん、他にお手伝い出来ることありますか?」
「それじゃあ、俺はこの洗濯物干しちゃうから、マリナさんは掃除機をかけてくれる? 使い方わかる?」
俺はスティックタイプの掃除機を指差した。
「はい大丈夫です! ウーン」
元気に返事をしたマリナ、昨日のあの顔芸再びである。
(あのさ、スマホ貸そうか?)
サーチでトリセツが出た
ブオーーン
マリナの肩がびくっ!と跳ね上がる。
(あはは、何かいちいち面白いんだけど。あー俺の服じゃダボダポで動きにくそうだな……)
マリナはデニムパンツのウエストを、下がらないように片手で押さえていた。
その手首は、セーターの袖口を何重にも折り返している。
狭いので5分ほどで掃除機は終了。
「マリナさん、ちょっと相談なんだけど」
「?」
「あのさ、これから駅ビルのルミナまで買い物に行かない? マリナさんの服とか、ブラ……じゃなくて、あれだあれ! オッパイパンツ? (ん? もっとセクハラじゃねぇか!) あ、下着だ、下着! あとは靴とか」
「嬉しい。いいんですか?」
「ああ。バイト代入ったし、そんなに高いのじゃなければ大丈夫だよ」
「人間界は魔法で出すのではなくて、働いてお金という通貨でお買い物するんですよね?」
「そういうこと!」
「わたしも早く高校への転校手続きして、アルバイトというものをしなきゃ!」
「へ? 高校に通うの?」
「はい! だって留学生ですから、人間界でいろんな経験しないとです」
「あーーー(人魚設定)ね?」
「ね!」
「じゃあさ、マリナさんが人魚だってことは、俺以外には秘密にした方がいいかもよ。あと、周りには双子の妹ってことにしておこうか」
「そうですかね? マメタリンさんがそうおっしゃるなら、そうします!」
俺はマリナと秘密設定を共有する、特別な存在になった気がした。
仲間意識……ともちょっと違う。
こんなに可愛い女の子に信頼されている、優越感みたいな感情かもしれない。
何だか心が踊った。
◇
「マメタリンさーん、早く早くー ここ曲がるのですかぁ?」
アスファルトを軽やかにスキップするマリナは、歩く俺からだいぶ先で振り返り、手招きをしている。
俺は少し困った風に眉を八の字にして、小走りでマリナの横に追い付いた。
「マリナさん、サイズが大きい靴なんだからスキップは危ないよ」
「はぁい。だって、足があるのが楽しくて! 気を付けるから大丈夫!」
「いやいや、あ、ほら!」
マリナはまたスキップを始めたが、言った傍から前につんのめってスッテーン!
「痛ったぁ」
「大丈夫か!」
駆け寄ると同時にマリナは自分で立ち上がり、ばつが悪そうに上目遣いで俺を見た。
「えへへ、ごめんなさい」
怪我もしてなさそうで、すぐに俺の緊張は解けた。
黙ってデニムパンツの汚れをはたいてやり、足元にあった小石をマリナの足元に軽く蹴った。
「え?」
マリナの視線が、小石と俺の顔を行ったり来たりする。
俺は一歩前に進んで──
「パス!」
「……は、はい!」
マリナは何度も空振りしていたが、そのうち両腕を広げてバランスをとり、土踏まずら辺で蹴って返した。
「お! 上手い上手い」
「ほ、ホントですかぁ。めちゃ楽しくなってきました!」
「じゃあ、これで駅まで行くよ。ほい!」
「あー! マメタリンさん強すぎ! もっと優しくパスしてくださいよぉ」
「あはは、ごめん」
「マメタリンさん、いきますよ。えい!」
「おっと!」
俺は小石を踵で一度受け止めて、つま先でアスファルトに落ち着かせた。
「うわぁ、マメタリンさん格好いい!」
「そ、そお? へへへ」
(ってか……俺が楽しい)
「あ、雨の匂いがします」
マリナの言葉通りに、俺の肩に一粒の雨粒が落ちた。
「やばっ! マリナ、はっしれー!」
「はい!」
差し出した俺の手を、マリナはぎゅうっと握った。
(ちょっ! マリナは足がおそろしく遅い……たぶんスキップの方が速い)
ギリギリセーフ。
駅前のカフェに着いた途端、雨は本降りになった。
アイスクリームがモチーフの、女の子が好きそうなファンシーなカフェ。
俺には落ち着かないが、マリナは目を輝かせて店内をキョロキョロしていた。
「ちょっとお茶しようか」
「いいんですか?」
「うん。あ、テレビで観たスワンシュークリームもあるし」
「ほんとだぁ……」
ツインテールの店員に案内され、窓際の席に着く。
店内のテーブルは、流れ星を型どったデザイン。
「ねぇマメタリンさん。このテーブル、ヒトデのグレーテルさんにそっくりです。どうしてるかな」
「え? ……あぁ! ヒトデは星の形してるもんね」
俺はそのグレーテルさんの端に置かれている、注文端末のタブレットに手を伸ばした。
「マリナさんはスワンシュークリームでいいんだよね?」
「はい!」
「俺は……プリンにしよう。あとは紅茶2つ。これで注文っと」
顔を上げると、マリナがニコニコして俺を見ていた。
「そんなに楽しみ?」
「はい、テレビの女の子が『うまっ!』って言ってましたから」
「そっか。 あのさ、そろそろ教えてくれないかな? どうやって俺の部屋に入った──」
「失礼しまーす。紅茶とスワンシューとプリンでぇす」
「早っ」
先ほどのツインテールの店員が、どんどん俺らの目の前に並べていく。
そして俺は気付いた!
プリンだと思っていたが、円柱形のスフレチーズケーキだ!
(あちゃー……参ったな、チーズ苦手なんだよなぁ)
俺は右手で目を覆ったその時──
聞き覚えのある、色っぽく落ち着きのある声。
「うふふ、ねぇ臨くん。臨くんが交換してくださいって頼むんなら、
(ドキゾクッ!!)
指の隙間から声の主を捜す。
「臨くん、ここよ」
横に首を回すと、木の葉高校2年A組の
さらっとした手触りの良さそうな長い髪が、肩の出たニットにかかっている。
隣のクラスの目立つ女の子3人組のひとりで、大人びた美人だ。
そして、この福士織花を含む女の子3人組ブラス鳥飼優気、アンド俺で『木の葉高校心霊現象研究部』である。
►ここまでお読みくださり、本当にありがとうございました。
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続きは、カクヨムコンテストが終了後、再開させて頂きます。
大変勝手ではありますが、ご容赦くださいませ。 絵名チル
彼女が、俺を潤す人魚だと気づくまで 絵名チル @-teatime-
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