第4話ひょんなことでMっ気が目覚める

休日の土曜日の朝食は、食パンにマヨネーズを塗り、スライスした玉ねぎとコーンをのせた『マヨコーントースト』を作った。


マリナがかぷっとパンの角にかぶり付くと、サクッと音がした。


「んー! マメタリンさん天才!」

「良かったらハムものせる?」

「はい! もうどうしよ……わたしマメタリンさんから離れられないかも」


(へ? とっ、突然何てこと言うんだよ)


「マメタリンさん、何かお顔が赤いですよ。まさか! お熱あるんじゃ!」


マリナの顔が近づいてきて、おでことおでこが、こっつんこ!


(ひょえー!)


「やっぱり少しお熱ありますよね?」

「だっ、大丈夫! 牛乳飲めば治るから!」

俺は接近戦にすこぶる弱い。



「食器洗い完了です! マメタリンさん、他にお手伝い出来ることありますか?」

「それじゃあ、俺はこの洗濯物干しちゃうから、マリナさんは掃除機をかけてくれる? 使い方わかる?」


俺はスティックタイプの掃除機を指差した。


「はい大丈夫です! ウーン」


元気に返事をしたマリナ、昨日のあの顔芸再びである。

(あのさ、スマホ貸そうか?)

サーチでトリセツが出たていで、掃除機の電源をONにした。


ブオーーン


マリナの肩がびくっ!と跳ね上がる。


(あはは、何かいちいち面白いんだけど。あー俺の服じゃダボダポで動きにくそうだな……)


マリナはデニムパンツのウエストを、下がらないように片手で押さえていた。

その手首は、セーターの袖口を何重にも折り返している。


狭いので5分ほどで掃除機は終了。


「マリナさん、ちょっと相談なんだけど」

「?」

「あのさ、これから駅ビルのルミナまで買い物に行かない? マリナさんの服とか、ブラ……じゃなくて、あれだあれ! オッパイパンツ? (ん? もっとセクハラじゃねぇか!) あ、下着だ、下着! あとは靴とか」

「嬉しい。いいんですか?」

「ああ。バイト代入ったし、そんなに高いのじゃなければ大丈夫だよ」

「人間界は魔法で出すのではなくて、働いてお金という通貨でお買い物するんですよね?」

「そういうこと!」

「わたしも早く高校への転校手続きして、アルバイトというものをしなきゃ!」

「へ? 高校に通うの?」

「はい! だって留学生ですから、人間界でいろんな経験しないとです」

「あーーー(人魚設定)ね?」

「ね!」

「じゃあさ、マリナさんが人魚だってことは、俺以外には秘密にした方がいいかもよ。あと、周りには双子の妹ってことにしておこうか」

「そうですかね? マメタリンさんがそうおっしゃるなら、そうします!」


俺はマリナと秘密設定を共有する、特別な存在になった気がした。

仲間意識……ともちょっと違う。

こんなに可愛い女の子に信頼されている、優越感みたいな感情かもしれない。

何だか心が踊った。


 ◇


「マメタリンさーん、早く早くー ここ曲がるのですかぁ?」


アスファルトを軽やかにスキップするマリナは、歩く俺からだいぶ先で振り返り、手招きをしている。

俺は少し困った風に眉を八の字にして、小走りでマリナの横に追い付いた。


「マリナさん、サイズが大きい靴なんだからスキップは危ないよ」

「はぁい。だって、足があるのが楽しくて! 気を付けるから大丈夫!」

「いやいや、あ、ほら!」


マリナはまたスキップを始めたが、言った傍から前につんのめってスッテーン!


「痛ったぁ」

「大丈夫か!」


駆け寄ると同時にマリナは自分で立ち上がり、ばつが悪そうに上目遣いで俺を見た。


「えへへ、ごめんなさい」


怪我もしてなさそうで、すぐに俺の緊張は解けた。

黙ってデニムパンツの汚れをはたいてやり、足元にあった小石をマリナの足元に軽く蹴った。


「え?」


マリナの視線が、小石と俺の顔を行ったり来たりする。

俺は一歩前に進んで──


「パス!」

「……は、はい!」


マリナは何度も空振りしていたが、そのうち両腕を広げてバランスをとり、土踏まずら辺で蹴って返した。


「お! 上手い上手い」

「ほ、ホントですかぁ。めちゃ楽しくなってきました!」

「じゃあ、これで駅まで行くよ。ほい!」

「あー! マメタリンさん強すぎ! もっと優しくパスしてくださいよぉ」

「あはは、ごめん」

「マメタリンさん、いきますよ。えい!」

「おっと!」


俺は小石を踵で一度受け止めて、つま先でアスファルトに落ち着かせた。


「うわぁ、マメタリンさん格好いい!」

「そ、そお? へへへ」


(ってか……俺が楽しい)


「あ、雨の匂いがします」


マリナの言葉通りに、俺の肩に一粒の雨粒が落ちた。


「やばっ! マリナ、はっしれー!」

「はい!」


差し出した俺の手を、マリナはぎゅうっと握った。

(ちょっ! マリナは足がおそろしく遅い……たぶんスキップの方が速い)


ギリギリセーフ。

駅前のカフェに着いた途端、雨は本降りになった。


アイスクリームがモチーフの、女の子が好きそうなファンシーなカフェ。

俺には落ち着かないが、マリナは目を輝かせて店内をキョロキョロしていた。


「ちょっとお茶しようか」

「いいんですか?」

「うん。あ、テレビで観たスワンシュークリームもあるし」

「ほんとだぁ……」


ツインテールの店員に案内され、窓際の席に着く。

店内のテーブルは、流れ星を型どったデザイン。


「ねぇマメタリンさん。このテーブル、ヒトデのグレーテルさんにそっくりです。どうしてるかな」

「え? ……あぁ! ヒトデは星の形してるもんね」


俺はそのグレーテルさんの端に置かれている、注文端末のタブレットに手を伸ばした。


「マリナさんはスワンシュークリームでいいんだよね?」

「はい!」

「俺は……プリンにしよう。あとは紅茶2つ。これで注文っと」


顔を上げると、マリナがニコニコして俺を見ていた。


「そんなに楽しみ?」

「はい、テレビの女の子が『うまっ!』って言ってましたから」

「そっか。 あのさ、そろそろ教えてくれないかな? どうやって俺の部屋に入った──」


「失礼しまーす。紅茶とスワンシューとプリンでぇす」


「早っ」


先ほどのツインテールの店員が、どんどん俺らの目の前に並べていく。

そして俺は気付いた!

プリンだと思っていたが、円柱形のスフレチーズケーキだ!


(あちゃー……参ったな、チーズ苦手なんだよなぁ)


俺は右手で目を覆ったその時──

聞き覚えのある、色っぽく落ち着きのある声。


「うふふ、ねぇ臨くん。臨くんが交換してくださいって頼むんなら、織花おりかのプリンと交換してあげてもいいわよ」


(ドキゾクッ!!)


指の隙間から声の主を捜す。


「臨くん、ここよ」


横に首を回すと、木の葉高校2年A組の福士織花ふくしおりかが隣のテーブルからこちらを見て微笑んでいた。


さらっとした手触りの良さそうな長い髪が、肩の出たニットにかかっている。

隣のクラスの目立つ女の子3人組のひとりで、大人びた美人だ。


そして、この福士織花を含む女の子3人組ブラス鳥飼優気、アンド俺で『木の葉高校心霊現象研究部』である。


►ここまでお読みくださり、本当にありがとうございました。

楽しかったよ!と感じてくださったら、ぜひ、応援、星をよろしくお願いいたします!  

続きは、カクヨムコンテストが終了後、再開させて頂きます。

大変勝手ではありますが、ご容赦くださいませ。 絵名チル




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彼女が、俺を潤す人魚だと気づくまで 絵名チル @-teatime-

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