第3話もっとスゴいの見たことあるし

キッチンの後片付けをした後、俺の隣でマリナはテレビドラマを食い入るように観ていた。

テレビの中では、女子高生たちがカフェでお喋りに華を咲かせている。

マリナは座卓に両ひじで頬杖をつき、頬をくいっとあげ、ハァと小さく肩を上下させた。


(溜め息! あーそうか、人魚の国にいる友達を思い出してるんだろうなきっと……ん? 俺、まるっと乗っかってんじゃん!)


「マメタリンさん、この女の子たちの食べている白鳥の形の甘味、美味しそうですね」


「そこっ!? ああ、シュークリームだね。若者の間ではスイーツって言うのが一般的かな」


「そうなんですね。マメタリンさんは物知り博士ですねぇ、うふふ」


「ったく。 マリナさんは自然体で感情豊かな人魚姫だよね。とりあえず乗っかっておくよ。その方が俺が楽しいから」


「ありがとうございます!」


 ◇


風呂はさすがに付いて教える訳にはいかないので、事前に一通りの説明をした。


「では、行って参ります!」


折り目正しくそう言い残し、マリナは俺のスエットと下着を抱えて脱衣所の扉を閉めた。


「さてと、俺は布団の準備だな」


和室に俺が毎日寝起きしている布団を引く。

少しすえた匂いが鼻をつき、手を止めた。


(何かちょっと……俺臭か? あ、たしか母さんが送ってくれた……)


押し入れの奥をがちゃがちゃ引っ掻き回し、新しいカバー3点セットを見つけ出した。

それらをセットした後、4畳ほどのダイニングの床に寝袋を広げた。


「ただいま戻りました! マメタリンさん、わたしお風呂大好きかも!」


振り返ると、つやつやしたおでこのマリナが立っていた。

腰にかかる長さの柔らかそうな髪は、洗濯バサミでアップスタイルにしている。


「人魚って、お風呂に入らないの?」


「えっと……海底に洞窟の家があってですね、それは人間界の文化を取り入れて作ってあるんです。部屋は海水が腰の位置ほどしか入って来ないように、魔法がかけられてるかんじで、上半身と髪はシャワーで洗います」


「へぇーじゃ、ご飯は?」


「食事はぁ、昔は魔法で作る栄養価の高いスープだけだったみたいです。今は火を使えるキッチンがあって、シチューとか焼き肉とかも食べてます。魚は食べませんよ」


(ほうほう、スラスラと答えておる。人魚設定、楽しー!)


「そっか、人魚の文化も発展してるんだね。……そうそう、マリナさんはそっちの和室に寝てね。俺がいつも使ってる布団で申し訳ないけど。俺はここの寝袋で。ふすまは閉めておくから部屋は自由に使ってよ」


「ええ! そんなわけにはいきません! マメタリンさんはいつもの寝床で、ごゆっくりと寝てください! わたしは夜盗などからマメタリンさんを守らせて頂きます! 実はお部屋にあるもので、防具になりそうな物に目をつけていました。えへへ」


マリナは部屋中をササッと一周し、様々な物を身につけて俺の前に帰って来た。

頭にバイクのフルフェイス、胴体に座布団を巻き付け、手には包丁が握られている。


(立派な夜盗の出来上がりじゃねぇか!)


「マリナさん、お願い包丁は置いて! 気持ちだけで十分っす」


「いえ、せめてもの恩返しです。 包丁はいざというときはこのように──」


ヒュン!


「ひっ! わ、わかった。じゃあこうしよう。包丁を仕舞ってくれたら、俺は俺の布団で寝る。どう?」


「そうですか……仕方ないですね」


(ホッ)


というわけでマリナはあの即席防具のまま、寝袋で寝ることになった。


 ◇


翌朝、和室こっち側の襖越しに声を掛けたが返事がない。

トイレか洗面所かなと思い、そっと襖を開けると──


まず目に入ったのは座布団とヘルメット。

あっちとこっちに散らばっている。


(まさか本当に賊が!)


俺はダイニングキッチンの床に一歩踏み入れた。


グニャリ


「痛っ!」


足元には、寝袋に片足突っ込んで、大の字に寝ているマリナがいた。


「あ! ご、ごめん! 大丈夫っ?」


寝相が悪いのに加え、スエットがめくり上がってしまっている。

くびれたウエストから、白く弾力のありそうな胸の脹らみの途中まで、あらわになっていた。


「ふわぁぁ。大丈夫ですぅ」


「あのさ、スエットがめくれてるよ」


「…」


「だから、下パイ見えてるって!」


マリナは両手でお腹から胸にかけて探って、状況が把握出来たようだ。


「キァー!」


慌てて起き上がりスエットを直す。


「見ましたね?」


「昨日、もっとスゴいの見たし」


ポコポコポコポコ!


「もーマメタリンさんのえっちい!」


 俺、甘んじて背中を差し出した。


(ふぅ、心が忙しー!)



 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る