肆話 二人だけでは済んでいないかもしれない
申し訳ない、待たせてしまって。あそこまで飲んだのは久しぶりなもので。
ああ、完全にじゃあないけど、あなたの事は覚えているよ。結局あなたに全部支払て貰ったんだ、あの事を話すを止めるのはしないつもりだ。
私の『少し不思議』な話を、ちゃんと喋るよ。
少し飲み過ぎるとね、どういう訳か私はあの事を話したがるんだよ。
心残りというのかな、あるいは私のトラウマかもしれない。精神の方にも行ってみたんだけど、何をどうとは言われなかったよ。昔の事で心に傷を負ったとも考えたが、専門が私を見たら違うらしい。
今まで言った人達からは、何かの勘違いか私が忘れているか、あるいは私が作った作り話と言われて、誰も信じてはくれなくれなかったよ。
でも、私が作った話じゃないし、勘違いでも忘れているとも思っていない。
あれは確かに本当の事だと思っているんだ。
どうしてもこの事を考えると興奮してしまいそうになり、だからつい酒が増え過ぎてしまう。いけないとわかっていて最近は抑えられたんだが、昨日は違ったらしい。
こういうのもなんだが、あの事を『少し不思議』な話で済まされてしまったせいだと思う。知らなかったとはいえ、そう考えたらあなたにも責任の一端があるかもしれないな。
冗談だよ、ただ今はこの話をしらふでしたいから、今日にしてもらったんだ。
それにあなたは、からかう様子ではなく真面目にこの話を聞こうとしている。だから私も真面目に話したいんだ。
ひょっとしたらあの話の真相を聞けるかもと、実は期待もしているんだ。
だから酒が抜けた今日、改めて話そうと思った。
こう言いたくは無いが、便宜上『少し不思議』な話と言うが、何かと関係があるんじゃないかとも思っている。
私は、人は主役であり脇役でもあると思っている。
聞いた事はないかな、人はみんなは自分の人生の主役だ、って。私はこれは正しいと思っている。自分では自分の事しか分からないからな。
私がこう考えている理由にも関係があるんだよ。
じゃあ詳しく話すと、私が小学五年生の時の話だ、木曜日だった。月日や季節は忘れたけど、あと五年生なのは覚えている。
一時間目が終わって、十分休憩の時だった。小学生は十分休憩でも集まって騒ぐだろ、私も友達と喋っていたら、普段はあんまり喋っていない奴が来てこう言ったんだ。
『だれそれは休んだのに、何で誰も言わないんだ』と。
だれそれって言うのは、私はもう覚えていないからだ。誰かの名前だったが、全く覚えていない。……忘れているはずだ。
ともかくそれで、私はこう言ったんだ。『誰それ?』と。クラスメートにそんな奴はいなかった。そう思ったからそう言ったんだ。
その時に一緒に居た友達も一緒に肯定してくれた。何言ってんだこいつは、とは言って無かったが、私達の顔がそう言っていたよ。
そしたら急に怒りだして、ふざけるな、真面目にやれ、嘘つくな、じゃあ隣の席は誰だ、そう色々と言われた。
そして取っ組み合いの始まりだ。でも十分休憩だからすぐに二時間目が始まる。担任が来て、ケンカしたと引き剥がされて、職員室に連れていかれたよ。
まず思ったのがふざけるな、だ。こちらからしたら急にわけのわからない事を言われて、嘘をついて無いのに嘘つきと言われて、掴みかかって来たからな。小学生でも怒って当たり前だ。
でもそいつは違った、私が悪いって言い張っていたよ。
しかし言われた名前は、担任も知らなかった。だから時間はかかったけど、私はは悪くないって言われて私だけすぐに教室に戻ったよ。
もうその日はずっと私は怒っていた、腹の虫がおさまらなかったよ。
結局そいつはその日は教室に戻らなかったから、怒りをぶつける相手がいなかったんだ。
家に帰っても、夕食を食べても、風呂に入っても怒っていたよ。寝る頃になってようやく、少し収まってきた。
しかし収まりそうになったら言われた事を思い出して、また怒るの繰り返しだった。
ふざけてないのにふざけるなとか、真面目に言ったのに真面目にやれとか、嘘をついていないのに嘘つきとか。
しかし、考えていたら一つ気になった事が思いついたんだ。
隣の席は誰だって言われても、元々誰もいない。そう思ってる、そう思っていた。
でも私の横に置いてある、誰も使ってない机は、何で置いてあるんだ、と。
空いてる机は端っこじゃなくて、ほぼ真ん中に有ったんだよ。
誰も引っ越していないし、急に置いたわけでもない。空いた机はずっとそこに有った。
考えたら、あそこに空いた机はおかしくないか、誰も使っていない席が何であるんだ?
急に怖くなってね、その後はそのまま布団をかぶって寝たよ、その日は。
次の日の金曜日は学校を休んだ、だから木曜日だと覚えていたんだ。土曜か日曜日かには友達が来てくれたおかげで、月曜には学校に行けたよ。
ただ、机については友達とも話さなかった。と言うか、話せなかった。
月曜日にケンカした奴に聞こうと思ったが、やっぱり聞けなかった。
急にあんな事をして一人ぼっちになったのもあったけど、もし詳しく話されたら、私がどうにかされてしまうと思って、聞けなかったんだ。
そうしてそいつと話せていない内に席替えになったんだよ。
席替えが終わると、空き机は無くなっていた。
教室から机を片付けたらそれは分かるはずなのに、気がついたら無くなっていたんだよ。
それに気がついて、もう分からなくなって、思わずあいつを見たんだ。あいつなら分かると思って。
……あいつは、私を全く見ていなかった。私だけじゃない、誰に対してもだ。
淡々と担任に従って、誰とも目を合わせず、話そうとはしなかった。
だから私ももう話そうともしなかった。話せなかった、関わりたくなかったんだよ。
……まだ、話はまだ終わっていないよ。
しばらくして六年生の時、修学旅行があったんだ。
その時にはもう、その事を殆ど忘れていた。だけどあいつとは同じ班になりたくないと思って、思い出したんだ。
その時に、気がついてしまったんだよ。
私はあの時、誰とケンカしたんだ、と。
転校した奴はいなかった、六年生に上がる時にはクラス替えは無かった。
そのはずなのに、誰かわからないんだ。
友達に聞いてみたら、ケンカがあった事は覚えているんだ、だけどやっぱり誰かは分からなかった。
しかもこれだけじゃないんだよ。
修学旅行のしおりが配られたんだ、そのしおりには学年全員分の班も書いてあった。
……人数がおかしいんだ。小学校の頃は二クラスだった。私は一組だった。
一組は三十人、二組は三十三人だった。
何で三人も違うんだ? 三十一人と三十二人に何でしてないんだ?
……これに気がついて、すぐに私は思ったんだ。
実は一組は元々あいつともう一人、三十二人だったんじゃないかって、二人消えたんじゃないかって。
あの時ケンカした奴は正しくて、あの時はもう一人消えたのを私達は忘れていて、あいつだけが覚えていて、そしてその内にあいつも消されたんじゃないかって……。
もしくは、あいつは助けに行って、二人で幸せになってる。私はどうにもなっていないから、そう思いたいよ。
つまり、私はは自分の人生の主人公だ。でも同時に、あいつの人生では脇役だったんだ。そう思っているんだよ。
……勘違いであったらいいけど、そう思って頭から離れないんだ。
これが私の『少し不思議』な話だ。私にとっては『少し』じゃないが、私以外は『少し不思議』にもなっていない話だよ。
私だけだよ、この事について覚えているのは。多分、ケンカをしたからだろうな。
周りからしたら、私が昔の事を中途半端に覚えているだけらしい。
これでいいかな?
……初めてちゃんと聞いてくれて、否定もされなかった。不思議な気分だ、こうなると、私が忘れているだけに思えてくる。
ああ、私はもう少しここに居て、休んでから帰るよ。
そうだ、ついでにコーヒーでも奢ってくれないか。ホテルのラウンジはコーヒーでも高いからね。
……ありがとう、これで私も全てを忘れる事ができると思う。
目的が終わり別れると、車に乗ってから上司に報告する。
犠牲者は二人、そう言うと上司は否定して考えもしなかった事を言われた。
二人は犠牲者とは限らないし、犠牲者が二人とも限らない。昔の事になってしまうが、二つのクラスについて調べる必要がある。
両クラスに人間はもっといて、覚えられている二人が犯人かもしれない。
「この『少し不思議』な話は、昔の話ならまだいい。しかしもし、今も続けらているとしたら……」
もし考えている最悪の状況が予想通りなら、危険な事をする必要がある。
少し不思議は少し不思議のままでいなければならない。
その為に私たちは活動をしているのだ。
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