部署異動

瓜頭

配属初日

「あ、キミが何か問題を起こしたって訳じゃないから」


 唐突な部署異動の連絡をもらい、新しい上司だという人?の案内について歩いていると、ふと立ち止まり声をかけてくれる。確かに考えていたのはその件だ。

 朝出社して自分のPCを立ち上げると、山崎さんから肩を叩かれて「表に停まってるクルマに乗れ」とだけ言われた。過去最大級のやらかしでもこの朝の始まり方はした事が無かったので、前日までの業務にどんなミスがあったのかを吟味していた。


「あ、良かったです。なにをやらかしたんだろって考えてました」

「ごめんごめん先に言うべきだよねー。いきなり連れ回されて怖いよね」

「ちょっと怖かったです」

「ちょっとで済むんだ。まぁそういうとこだけど」


 そういうとこ?

 初めて来るオフィスで迷子にならないように、道を覚えたり案内の方を見失わないように、とはいえなんで俺が部署移動?で脳はフル回転していた。


「なんかね。そういう《動じない人》みたいなの集めてる部署があって。あ、ここここ」

 ガラス張りの区画を指差しながらそのまま入って行く。


「ごめん美好さん来客〜」

「ゥアッ。賀藤さん。はい。お茶ですねー」


 会議室へ通され、ペットボトルのお茶をもらう。


「《動じない人》を……?」

「あ、そうそう。そうなの。我々の部署って、なんだろな。結構びっくりする事が多いというかね」

「びっくりする」

「うん、泣いたり怒ったりする人を宥めたりとか、身近に事件とか事故とかを感じたりとか、そういう揉め事みたいなのが多くて」

「なるほど」

 前の部署でも、無い話ではなかったな。金銭的に大きな話になりがちだから、無理もないけど。


「で、そういうのがあんまり心労にならない人の方がありがたくって」

 おっとりしていると言われる事はよくあるが、今日はそれなりにドキドキはしている。務まるだろうか。


「ちなみに、えーと、業務内容って……」

「あーごめんそうだよね。後手後手だねごめん。えーとね」

 何かしらの書類を渡してくれる。


「大枠は変わらないんだ。人の手配とか連絡とか。新しく見つかったら買い付けみたい事もするし、手に入ったら一時保存の手配とか保存方法の検討から業者の選定から何から何から。そもそも建物ごとデザインしなきゃーとかもあるけど、まぁよくある話だったんじゃない?」

 書類は業務内容の羅列だったが、確かに前の職場と大きく業務内容は変わらない。美術品や博物的価値のある物品の管理。


「そうですね。規模は違うけど大枠は似たような業務に思えます」

「だよねー良かった」

「僕もちょっと安心しました」

「うんうん。ま、基本的には栄転だと思ってもらえると」

「あ、そうなんですね」

「うん。給料びっくりすると思う」

「え、やったー」


 資料を詳しく見ると、見慣れない文字列が。

「このアノマリーってなんですか? 収容物の事っぽいですが」

「あーまぁその辺はね。話すと長いんだけど研修期間で教えます。太田くんが管理するのは扱いが難しくないヤツになると思うんだけどね」


 なんとなく新しい職場を見渡す。言うほどあくせくしている雰囲気でもない。やっていけそうだ。


「あ、もしかしてめちゃくちゃ申し遅れた? 私太田くんの次の上司になります。ガトウと言います。年賀状の【賀】にフジで賀藤」

「あ、ごめんなさい途中聞こえてガットさんだと思ってました」

「あはは。顔がラケットだからね」

「はい」

「そういうとこ」

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部署異動 瓜頭 @maskedmelon

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