第35話 異世界転生美少女は、こたつを堪能したい

「ん?ここどこよ?」

キョロキョロ見回す。

きょうだいたちをぶっ飛ばして、俺最強伝説の名乗りを上げるところだったのに。


「もうすぐ魔王がやってくるとこだったから、こっちに呼んだんだよ」

ぼそぼそとした声が聞こえる。


霧が晴れるように、周囲の景色が目の前に広がる。


「なんだこれ?懐かしい――感じ?」


魔王の城で無双を繰り広げていたのに、豪華な廊下で無双していたのに、目の前にあるのは……。


こたつ。

こたつの上にはミカン。

そこに半纏姿で猫背でゲームをするのは、いかにもオタクな男。

部屋の広さがまた落ち着く。広くもなく、狭くもなく。ちょうど良い。

しかも男の周りには最低限必要なものも用意されている。


「……最高の環境かよ」

「ねぇ、これどうやれば倒せるの?」


「は?ああ、これね。ソロで狩るのは厳しいっすね。チームプレーじゃないと」


「…………チーム」

「ネット環境厳しめっすか?それかソロ好き?コントローラーあれば手伝うっすよ?俺、何度か友達とやってるし」


「…………友達と顔が似てるだけあって、優しいね」


「俺と似てる誰かがいるんっすね?会ってみて~」


なんで敬語使っちゃうんだろ?って疑問は置いておいて、俺はこたつに入る。

こたつは最強だ。あれ?今って冬だっけ?まぁ、良いや。


コントローラーを握って、プレーする。

お、なかなかうまい。これならなんとかなりそうだ。


「そっちの世界から来た子に攻略方法聞いたけど、ググレカスって言われちゃって」


「きついっ子っすね。まぁ、ゲームなら任せろって。あ、回復するっすよ~」


「ありがとう。チームプレーって良いね。ググれたら、初めから聞いてないよね?だから次期大神候補の力を拝借して、ゲームに詳しそうな子を召喚したんだ」


「それが俺っすか。でも女の子は勘弁してほしかったス」


「その子しか適合する器がなくて――その子も死にたがっていたし――可哀そうな子なんだよ」


「確かに――あ、今、チャンスです!」

「え?どうすれば――――あ!」


「やられたっすね。大丈夫、復活させますよ。ほら!」


「――ありがとう」


「で?なんでしったけ?あ、確か魔王が近づいるとか――この子の父親っすね」


「ううん、父親の父親。正確にはお爺さんだよ」


「え?じゃあこの子の父親は?」


「その子のお父さんは上層世界のエルフと恋に落ちて、駆け落ちしたんだけど、魔王に見つかって殺されたんだ」


「うえ――悲惨。ってかそういうのって物語を進めていって分かるもんじゃないんっすか?実は!的な」


「そうなのかな?僕は、そういうの分からないから――あ、なんか弱ってきた」


「まだまだっす。こいつ、ここからしぶといんで」


「そうなんだ。ありがとう。僕は、上層も下層も仲の良い世界を作りたいんだけど、うまくいかなくて、悩んでたら友達がゲームを教えてくれたんだ。それから何も考えたくなくてゲームして、引きこもってるんだ」


「ニートっすか。人生いろいろあると思うっすけど働くって大事っすよ?働くことで休日が楽しいんっすよ?」


「…………そうだよね。分かっているんだ。その子の父親が僕の理想社会の第一歩になりそうだったのに、それを助けられなかった。ゲームの世界では世界を救っていたのに」


「ゲームはゲーム。現実は現実っすよ。現実世界ではうまくいかなくて当たり前っす。でも一歩ずつ進むしかないんすよ」


「君は……良い人だね。僕はそんな君をここに召喚してしまった。ごめんね」


「別に良いっすよ~。異世界転生うぇいーいっす」


まぁ、本当に良いのかと言われると違うけど、起きてしまったことをくよくよしても意味がない。

今、生きている世界を楽しまなきゃ損だ。


「そんで?父親は殺されて、母親は――あ、この子産んで死んじゃったんでしたっけ?」


「うん、でも魔王はなぜかその子を殺さなかったんだ。なんでだろう」


「かわいいからじゃないからですか?かわいいは最強っす!」


「そうなのかな?あ――」

「倒せたっすね!ほれ!」


手をニート君の前に差し出すと、首をコテンと傾けた。

友達いないんすね……かわいそ…………。

あ、ゲームを教えてくれた友達いるって言ってたか。友達もきっと隠キャなんだな。


ニート君の腕をグイっと引っ張って、パッチンと打ち付ける。

「やったす!」

「あ――ありがと……」


「どうしたんすっか?手をじっと見て。俺、潔癖なんで手はちゃんと洗ってますけど?」


「いや――うん、魔王がその子を殺さない理由が分かった……。手を打ち付けたときに気が付いた。そうだね。あの子は僕の世界の子じゃないもんね」


なんかひとりでブツブツ言ってるけど、気にしない。

俺の友達にオタクは多い。そして俺を含め、オタクはかってに納得してブツブツ言うものだ。慣れている。


「ありがとう。大丈夫だと思う。だからまたね?」


「ほえ?」


お、これは、ジェットコースター的な?

ぐいーんと落ちていく。ああ、死ぬ前に富士急ハ〇ランドに行けばよかった。

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総務部長大河原敏行のモフモフ異世界転生日記〜苦労性のおっさんは、世界を渡っても苦労する〜 清水柚木 @yuzuki_shimizu

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