第34話 異世界転生美少女は、無双したい
ずんずんと廊下を進む。
元気よく歩くと、ツインテが跳ねるように動くのがまた良い。
召使たちは遠巻きに俺を見ている。
そんな召使たちは、魔物だ。なんと言うか、本当に異世界転生したんだと実感する。
それにしても、かわいい俺が通っているんだ。お辞儀のひとつでもすべきじゃね?
ギロっと睨むと、その場に倒れこむ。
ふふふ、強力な威圧を送ってやった!
無双最高!ざまぁ、は正義!かわいい子は神!!
この子にないのは自信だ。
体内にある莫大な魔力を、無意識にうちに目立たないように封印していた。
いや、違うな。きっと大きすぎて制御できなかったので無意識に閉じたんだな。
異世界転生あるあるだな。分かる、分かる。最弱キャラが実は最強キャラだっていうのは、良くある話。鉄板中の鉄板。
だが俺は制御できる。そうじゃなきゃ、異世界転生うぇーいって言えないだろ?
女の子になったのは、ちょっと、いやかなりショックだったけど、まぁそこはそれ。
見た目は激かわで、将来は美人になること間違いなし!
その際にはどんなドレスを着ようかと妄想が膨らんで仕方がない。
前世で女装をしたことは、実はある。美人になった自分を見て、もう3次元に理想の女はいないと思ったくらいだ。
うまく自分の身体を育てて、出るとこ出て、引っ込むとこ引っ込んでいる身体になれば、どんな洋服も着こなせる……筈だ!
その為に必要なのは自分の地位だ。
なぜなら現状の食事は具のないスープと固いパンひとつ。それを一日に一回。
専属メイドに虐められ、きょうだいに虐められ、ひとりで泣きながら過ごす毎日。
異世界シンデレラストーリーあるあるすぎて、オリジナリティのなさにウケるくらいの惨めさだ。
まぁ、ここからどう挽回していくかが、物語の見せ所。
そして俺は王子様を待つ気なんてない。
他人の力を借りる気はない。
美しい身体と、財力を手に入れるため、必要なのは『成り上がり』!
「お前!なんでそんな恰好でここにいるの!」
お、出て来たね?
いじめる姉A。確か同い年なんだよな?父ちゃんお盛んですなぁ。
さすが王様、権力者。1000年も王様の地位にしがみついているとか、哀れじゃね?
引き際が大事って大河原部長が言ってたけど?
「あ~ら、お姉さま。相変わらず不細工ですこと」
斜に構えて笑ってやろう。
美少女の冷笑に勝てる奴なんかいない。
「頭がおかしくなったようね?そんなお前に、くれてやるわ!」
お得意の氷水の魔法?はいはい、見飽きてるよ。
しかも発動も遅いしさ。今どき詠唱は流行んないだろ?今の流行は無詠唱だっつの!
姉の魔法はせいぜいバケツ一杯の氷水だ。だったら俺は桶一杯!
「きゃ――――――!」
「あら?お姉さま、水にぬれて、さらに不細工度が増したわね?やだ、あっついファンデで隠したそばかすが見えるわよ?ぶさいくでそばかすで性格も悪くて、魔法の力も弱いなんて、救いようがないじゃない」
「お姉さま!お前、よくも!」
あ、出て来たね?姉B。
モブの名前なんて覚える必要ある?ないな。ないない。
姉Aの腕を掴み、体内に魔力を巡らせブンッと投げて、姉Bに当てる。
姉Bと姉Aはぶつかって、ゴロゴロと床を転がる。
「ストライク!」
実は趣味はボーリング……と言うのは嘘。
子供の頃、家族と行っただけだ。大河原部長の趣味だと聞いた。あの年代あるあるだな。って思った記憶がある。
「異種族の娘の癖に!」
あ、すげーな。次から次に廊下にモブが現れるな。
あれは――あ、兄A!この子に死ね死ね言っていた、いじめっ子。
いじめを平気でする奴は、どこか精神に異常があるに決まっている。
自分がされたらいやだと想像できない。現実と非現実の区別ができない。そんな頭がおかしいやつに、遠慮する必要ある?ないない。絶対にない!
兄Aは火の魔法を発動させるようだ。しかしおっそいな。それだと唱えている間に、やられちゃうだろうが!
「は?嘘だろ――なんでお前がそんな――嘘だ。そんな強いわけがない!」
はーい、鉄板頂きました~。
弱いと思っていたやつが、強くなった時に、敵が吐くセリフのセオリーだね?それ。
俺が用意したのは超々高熱の火の塊。火の玉じゃないよ?残念ながら。大きさはそうだな。ヨガボールサイズ。
「魔物の世界は弱肉強食。そうでしょ?お・に・い・さ・ま」
これだけ美少女だとこういうセリフもありだな?
それにしても、兄A。漏らすなんて鉄板すぎだろ?きたね~な!
俺、潔癖症だからやめてよね?
ギロっと睨んだら、あ――気絶した。
「情けね――じゃない。情けないわね」と言いつつも分かるよ?この圧倒的な魔力と美貌を前にして、気絶しないわけないよな?
廊下の先からバタバタと足音が聞こえる。
次々獲物がやってくる。自分から来てくれるとは、ありがたい。
「弱い者いじめするやつには鉄槌が下る!右手が騒ぐぜ?」
ああ、異世界転生最高だ!
ガッツポーズしたところで、周囲がまっしろになった。
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