第33話 異世界転生美少女はかわいいを極めたい

「やっぱツインテだよな?かあいい子はツインテだろ?もうツインテ以外思いつかん!」


この子に憑依して一日経った。

窓から見えていた夜の景色がいきなり昼になったのはびっくりしたけど、まぁ異世界転生だ。

こんなこともあるだろう。


「やべ、かわいい。めっちゃかわいい。かわいいしか勝たんな。世界一狙えるわ」


曇った鏡はきれいに磨いた。

ベッドも掃除した。いや、埃だらけの部屋、全て掃除した。汚部屋は無理!!

そしてその鏡に映る俺は、かわいすぎる。


「濃い紫の髪だから、赤いリボンが映えるわ~。しかも軽いウェーブかかってるのがマジ最高」

鏡の前でくるりと回る。


「ゴスロリがこんなに似合うってやべーわ。マジ惚れる。俺って最高にかわいい。この姿でコミケ出たら脅威の新人じゃね?あ、幼児だからダメか。変態はこえーしな」


この子に名前はない。

親に名前を付けてもらえなかったようだ。

母親違いのきょうだいは100人ほどいる。正確な数はこの子も知らない。

そもそも上層世界を守るフェンリルに何人も殺されているようで、数の変動も激しい。


「魔法が使えないかぁ。そんなことはないんだけどなぁ」


憑依してすぐにこの子の記憶が流れ込んできた。一気に流れ込んでくるから、吐くかと思った。


そして分かったこと。

この子の父親は魔王。そして母親は上層世界の女性。種族は不明。記憶がなかった。

母親が上層世界の女性だと言うことで、きょうだいたちに迫害されている。

死ねと命じられ、何度も自殺した。でも死ねない。そしてまた自殺。それがこの子の人生。


「死ねないのは、回復魔法を無意識に使ってるからなんだよなぁ。だから魔法は使えんのに……。でもなんで俺が憑依したんだろ」


最期に覚えているのは、チューブファイルの箱が大量に落ちてくるところ。

まさかそのせいで死んだとか――かっこわるい。


「まぁ、でも労災案件じゃん?両親に金が入るし、俺はこんなかわいい子になれたから、まぁ良いか!」


深く考えても仕方ない。世の中はなるようになるんだから。


死んだ上司の大河原部長は、俺と正反対だった。

石橋を叩いて、叩いて、たたいて、渡るような人だった。

しかも顔に思っていることが出る正直者だった。

あの困った顔が見たくて、わざと説明を長くしたこともある。


「あーあ、部長の銅像を磨く日だったのに」


一カ月に一度。有志を募って磨く日。

社長は業者に頼もうと言ったが、俺を始め若手は反対した。

他人に任せたくないと言って。


あの人は、部下思いだった。下の意見を通すために、上に立ち向かえる良い上司だった。


若手の皆が大河原部長と話すことが好きだったことを、きっと知らないまま死んだんだと思うと、悔しかった。


「皆で誕生日会を企画してたのに、死んじゃうんだもな」


代わりに銅像の前で宴会をした。

社長と専務が飛んできて、専務は怒ったが、社長は「大河原部長は寿司が好きだったな」と言って寿司を取ってくれた。

部長に奢ってもらった高級寿司だった。

一緒に行った品証の二人と泣きながら食った。


「やべ、しんみりしてきた。とりあえず部屋出て食事だ。食事!」


ぶんっと手を大きく振って、外に出る。


「やっぱさ、ざまぁは異世界転生の鉄板だよな?」


こんなかわいい子をネグレクトとしていた馬鹿親父と、いじめを繰り返したきょうだい達に鉄槌を下さなければ気が済まない!

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