第32話 そういうものだと思い込め…ない!

「この世界には昼と夜しかない?」


夜になったので、野営しましょうとプラネさんが言いだした。

ビアンカさんとロボが同意し、森の開けたところで休むこととした。


紗枝ちゃんはぷらねさんに抱っこされてぐっすり寝ている。

疲れたのだろう。どこでも寝ることができるのは、紗枝ちゃんの昔からの特技だ。それにしても両親が恋しくないのだろうか。


「『?&%!』様のご加護があるこの世界は、昼と夜しかありません」


私にはまったく言葉として聞こえない『?&%!』とは、この世界の神様らしい。


紗枝ちゃんは聖女の認定を受けた際に、『?&%!』様より私を導くように言われたそうだ。故に聖女兼調教師ハンドラーとなった。

『?&%!』と紗枝ちゃんは話ができるようで、ぷらねさんたちはそれを聞いて感動していた。


ではその会話の内容は?と言うと、モン〇ンの攻略。原〇の攻略。が主で、紗枝ちゃんは子供でゲームをしないから、『ググレカス』と都度都度、言っているそうだ。


どういう意味だろう。私には分からない。ちなみに紗枝ちゃんも分かっていない。『パパが言ってた』と笑顔で言った。


「ユウガタと言うものが異世界にはあるのですね。不思議です」

「私から見たら、こちらの世界の方が不思議です。太陽も月も沈まないなんて」


「太陽が沈むなんて!不吉なことを仰らないでください。茶太郎様、太陽と月は入れ替わるのです!」


「い、入れ替わる」


「ええ、そうです。大地は平らで、魔王が治める下層世界と私達の上層世界は、裏表で対になっています。太陽が出ている状態を昼、月が出ている状態を夜と言い、空は大地を中心に回っています」


「大地を回る?」

ああ、そう言えば昔々は地動説、天動説といものが地球にもあったな。

コペルニクスが唱えるまで、太陽は地球の周辺を回っていると思っていた。

コロンブスは周囲に揶揄されながらも、地球は丸い信じ、海に漕ぎ出した。

日本人はイザナギとイザナミが矛でグルグルして大陸が産まれたと信じた。

どこかの国は、大地は像が支えていると信じていた。

まだまだ発展途上のこの世界だ。きっと世界の真実を知らないのだろう。


「私は世界の果てまで旅をしましたが、世界を包む空は丸ではなく四角でした。目の前に立ち上る青い空は美しかったですよ。ぜひ茶太郎様も一度ご覧ください」


「目の前に立ち上がる……そら?しかく?空が四角?」


「ええ、私の足元から遥か上まで広がる空です。昼は雲が足元から広がり、夜は星々が瞬ていました」


全然、分からない!想像できない!!プラネさんは何を言っているの?

そしてビアンカさんとロボも、「あの景色は圧巻ですよね」って納得してるし!

本当に、おじさんには異世界転生は厳しい!山根君だったらきっと馴染むだろうに、なぜ私なんだ!


だめだ、この話は深堀しないようにしよう。

つまり話を替えよう。


「ぐれーとまうんてんがどこにあるか、誰も分からないんですよね?」


「ええ、聖女であるサエちゃんにも分からないと言いますし、ここはロボの勘に頼るのが一番ですね」


「任せてください!俺、鼻が効きますから!」

「そう……頼りにしているよ」


鼻でかぎ分ける事ができるのなら、私だって分かっても良いんじゃないだろうか。私だって犬なのに。

完全室内犬で、ノーズトレーニングの際には目でおやつを探していたけど。


「サエちゃんが聖女に認定され、世界の声が聞こえるようになりました。その為、あなたの存在も世界に知れ渡りました。困ったことです」


また、プラネさんが初心者に難しいことを言い出した!!


「聖女と世界の声?と私が世界に知れ渡るってなんですか?」


「聖女は世界と神をつなぐ存在です。そして聖女が現れることで世界の声……分かりやすく言うと、神の声と言えば良いのでしょうか。それが世界に発せられるようになります」


神の声?さっき聞こえた声の事なんだろうか。ビアンカさんたちが許されて、そして狗神に進化したとかってやつ。


「あれって、世界中の人に聞こえているんですか?」

「その通りです」


プラネさんの端的な説明を自分で補完する。

つまり神の声=世界ニュースだと思っておこう。ラジオでも新聞でもこの際良い。

あ、短かったからヤ〇ーニュースかな?最近の若い子は、あれで情報収集すると山根君が言っていた。


ドラマは見ない。ニュースも見ない。

見るのはユー〇ューブ、ネットフ〇ックス。TVはない。代わりにプロジェクターがある。

固定電話はない。携帯電話があれば良い。


ああ、元の世界も目まぐるしく変わる科学についていくのが大変で疲れていたが、この世界はもっと疲れるな。

そもそも夜だ。寝なくては。いや待てよ。その前に。


「夕飯は?」

「あ、そうですね!俺、ひと狩り行ってきます!」

「ふえ?ひとかり?」


私がポカーンと口を開けている間に、ロボは森に分け入り、瞬く間に大きな猪を狩ってきた。

そして解体される猪を見た私は気絶した。


もう嫌だ――地球に還りたい。心の底からそう思った。

そして山根君似の神様を噛む場所を3か所から4か所に増やすことにした。

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