古よりのオタク、夢見るコミケットにさよならをする

白川津 中々

◾️

汗と涙のコミケットは俺にとっての憧れだった。


夏冬。年二回の一大行事。界隈の人間達が嬉々として集い頒布とお布施を行う夢の舞台。サブカル界隈に住う者なら一度は参加を検討する世界の式典である。アニメ漫画に執着していた俺も例に違わず、いつか行こう、きっと行こうと誓い、金が貯まるのを待っていた。


だが、結局俺は一度も彼の日に国際展示場へ足を踏み入れる事はなかった。行きたい行きたいと願い続けるうちに20年が経過し、時代の賑わいに追いつけなくなっていったのだ。とどのつまり、カビの生えた古のオタクとなってしまったのである。


コミケットにおいて、古い作品を扱った同人物がないわけではないと知識では知っている。しかしそうではないのだ。かつての時代の空気感、生きてきた匂い、感性、重力。そういったものがない会場に、俺の求める夢はない。あの日夢中になった、必死になって追いかけていたコンテンツが埃を被り端へ追いやられている今、憧憬を望む事、叶わないのだ。俺の趣向はもはや過去の遺物。そう考えると、コミケットへの興味が薄れていった。俺の心にはもう、燃えたぎる炎はない。なにものにも興味が惹かれないただの干物だ。



あぁ、若き日よ、青臭く歪み育っていた幼き俺よ。腐り落ちて憧れに手が伸ばせなくなってしまった俺は、この先どうすればいい。



どうしようもないのだ。どうしようもない。



青海、ゆりかもめ、青かった、遠くまで……

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